自らの「宝」に気付かなかった共産党


                                                 平成24(2012)年12月17日

 共産党は自らの政党の立場性(基本的には働く者の立場に立った党)や良さ(国民大衆の戦いに支えられた党)が分からず、最近「保守との共同」に活路を見出すなど、立ち位置が全く分からなくなってしまった。それが今回の選挙で敗北した最大の理由だ。12月14日の毎日新聞「余禄」を見た時、まさにこれだと思った。この記事は現在の共産党の姿を違った角度から批判している。極めて示唆に富んだ面白い記事である。

<注目すべき毎日新聞の「余録」・・やはり一般紙は面白い>

 12月14日毎日新聞「余録」。以下に転載する。

 「米国を震撼させたソ連による人類初の人工衛星「スプートニーク1号」打ち上げの翌日の共産党機関紙「プラウダ」のトップ記事は「冬に備えて」である。衛星打ち上げはわずか2段の小さな記事だった。▲フルシチョフら指導部がその意義を知ったのは、西側の大報道と反響が在外公館から次々に伝えられたからだ。「プラウダ」にソ連科学技術の勝利をたたえる特大見出しが躍ったのは次の日からで、そこにはいつも罵倒する西側各紙報道ぶりを示す写真が載った。▲私たちは自分が何をしでかしたのか理解してなかった。」とはフルシチョフの話である」以下省略。

  これはアメリカ映画でソ連などをおちょくった映画の場面に似ている。これが本当だとしたらお笑いだ。

  私は学生時代、まさに西側情報はソ連や中国を嘲笑していた。しかし共産党はそれらはすべて「反共攻撃」であり、社会主義国をつぶすためのでっちあげだと聞かされてきた。社会主義国はソ連も中国も北朝鮮も、国民の為の政治を行っており、生産性の拡大に成功し、貧富の差はなく、国民は幸せに暮らしている。と聞かされてきた。こうした話に全く疑いを持たずに、日本における社会主義の実現のために、全ての大学生活を捧げていた。

<この記事の何が面白いのか>

 ソ連共産党のトップは「スプートニーク1号」の発射の歴史的意義が把握できておらず、西側の反応の大きさで気がついた。さらにこのことが偉大なことだということを西側の報道を利用して説明した。(まさに「マンが」のような話だ。)
 ソ連共産党の馬鹿らしさを説明する非常に分かりやすいエピソードだ。

<この記事と同じことが、日本共産党にもあるのではないか>

  この話どこかの党の話と似ていませんか。3.11震災後の原発問題に対する共産党の迷走ぶりと極めて似通っている。共産党の吉井議員は国会で、一貫して原発問題の危険性を訴えてきた。また質問主意書(2006年など)も出して、今回の福島の原発事故のような事が起こりうる可能性を指摘していたが、政府(当時は阿倍政権)はその重要性に気がつかず、本質をはぐらかした回答を行ってきていた。

  この吉井議員の国会での戦いは極めて重要な物(宝)であった。しかし共産党は3.11以後の一斉地方選挙で、吉井議員のこの戦いの成果を掲げて戦うのでなく、「安全優先の原子力政策」という訳のわからない方針を出して戦い、見事に敗北した。この選挙で社民党の保坂氏が脱原発を掲げて世田谷区長選に当選したのと対照的な結果になった。

  また、「西側メディアの報道内容を報道することで、ソ連の偉大さを語った。」という点も、今の共産党の主張に瓜二つである。(注1)

注1:共産党は、二つの害悪としてアメリカと財界をあげているが、自分の主張の正しさの立証にこれらアメ
     リカや財界の発言を利用して説明する。最近では尖閣列島問題の共産党の提案をアメリカや米倉経
     団連会長の言葉で正しさを立証しようとした。
     (参照:自分の立ち位置が分からなくなった共産党、 共産党は一体誰の味方なのか?

 

  私は一斉地方選挙の前半戦の結果を見て、共産党に対して「安全優先の原子力政策」は間違っている。後半戦は原発反対で戦うべきだと主張したが、共産党に全く無視されてきた。(注2)

 なぜ、共産党は私の意見に耳を傾けなかったのか、それは吉井議員の活動の成果を把握できおらず、これで戦えば勝てるという発想が全くなかったからである。これを証明するのが、赤旗3月26日号の記事である。吉井発言の重要さは、インターネットや、週刊誌等でも取り上げられ、それに接した人たちが、共産党に吉井議員の発言の内容は何かとの問い合わせを行ったからである。(注3)

注意2:「意見書2」の抜粋

      もし今回の選挙で東日本大震災を選挙の争点にするならば、唯一戦われるべき政治的課題は、
      今回の震災に起因する取り返しのつかない原発事故に遭遇した我々が、今後の日本社会のあり方
      の中で原子力エネルギーをどう位置づけるかという課題設定であったと思われます。

注3:しんぶん赤旗(2011年3月26日)は「電源喪失による最悪事態を警告」「福島原発事故でメディア注目」、
    「吉井 衆院議員 繰り返し追及」という記事を載せている。その内容は、 東日本大震災、福島第1原発事
     故で最悪事態がおきる危機に直面するなか、ネット上で話題となっている日本共産党の吉井英勝衆院議員の
     原発質問。「東京」24日付の特報企画や、『サンデー毎日』4月3日号などでもとりあげられました。「質問内
    容を教えてほしい」と赤旗編集局にも問い合わせが相次いでいます。

  この状況は、事の重大さの大小があるかも知れないが、ソ連の「スクートニク1号」の成功の際と似ており、「共産党」という名の政党の持っている本質を現すものとして共通項があり、極めて面白い。

 共産党は原発政策を3.11以降、安全優先の原子力政策から、原発ゼロ(2011年5月1日)、原発即時ゼロ(2012年9月15日)と変えてきたが、この変遷がなぜ必要であったのかは、まさに吉井発言の重要性の認識ができていなかったからである。

 そのことを素直に語っているのが、「原発即時ゼロ」に舵を切ったときの志位委員長の発言「「国民世論が大きく変わった。」私自身が首都圏反原発連合のデモに参加するなかで、国民の声をしっかり受け止めて結果であると語っている。

  つまり自らの党の活動の成果に気がつかず、原発反対集会に参加して、国民の声を聞くなかで、「原発即時ゼロ」の方針をだしたことを吐露している。

<ハートのエースが出てこない>

  選挙戦の躍進の為には、政党における議員の活躍が果たす役割を見ておく必要がある。前回の総選挙で民主党は大躍進して政権を握った。この中で長妻議員の果たした役割は大きかった。失われた年金が大きな争点になり、それを一貫して追求してきた長妻議員に注目が集まり、「ミスター年金」と言われ、失われた年金問題に対する問題解決に期待が集まり、長妻議員に対する期待が、民主党の躍進につながった側面があると思われる。

  国政選挙で政党が躍進するためには、スター議員が果たす役割は大きい。今回の選挙でも、日本維新の会の得票は7割〜8割は橋下氏の個人的人気に負っている。共産党が躍進した時でも不破さんの個人的人気も大きく影響していた。(当時は、自民党の副総裁であった川島正次郎氏は70年代は自共の対決になるだろうと予測し、1069年不破氏が国会議員となり論戦を通じて中曽根議員も不破さんを評価したり、週刊誌でも不破さんを天才と絶賛し、ブランコをこいで一回往復するたびに本の1ページが理解できるという逸話などが披歴されていた。)つまり党が躍進する時には、やはりスター(顔)が必要だということを歴史は教えている。(先週のウエークアップ+で投票時に何を基準で選ぶかで、アンケートをとっていたが、党首というのは23%あった。)

 今回の選挙では、吉井議員が「ミスター原発」で党の顔になれるチャンスがあったにも関わらず、共産党は自らの手でこの機会を潰してしまった。

<なぜか、吉井議員の活動の成果(宝)を活用しなかった>

   3.11の震災の結果、原発のメルトダウンという国民の生命にとって重大な危機が発生したが、なぜか共産党はこの危機を受け留めることができなかった。震災直後に戦われた一斉地方選挙で共産党は震災からの復興を最大の課題に掲げ、「命を守る政治」を訴えたが、原発反対の方針はとらず、「安全優先の原発政策」を党の方針とした。(注3)

 注3:一斉地方選挙を伝える赤旗は、原発反対や原発ストップや安全点検など候補者によって違う政策を訴えて
       いた。しかし前半戦の投票日前日の赤旗の「主張」で共産党の原発政策は「安全優先の原子力政策」だと
       主張してしまった。(なぜこの時点で、原発反対を訴えて戦ってきた候補者の後ろから弾を撃つような主張を
       出したのか最大の疑問である。)参照:「意見書2」共産党の原発政策は何か(一斉地方選挙後半戦を
    戦うにあたって。)     

 「安全優先の原子力政策」で戦う限りにおいては、吉井議員の国会活動の成果を前面に掲げて戦う発想は生まれなかった。それだけではなく、共産党は原発問題の党の責任者を吉井議員から笠井議員に2011年4月30日に変えている。(この辺も謎だらけで分からない)参照:原発問題のエース吉井英勝議員が赤旗紙面から消えた???( 共産党の原発・エネルギー問題委員長の役割は?)

  新聞赤旗で「原発」問題を選び、2011年4月からずっと検索していくと最初は吉井議員の活躍が目立つが、だんだん笠井議員にとって代わられていく姿が良く分かる。

<吉井議員が「ミスター原発」で党の顔になる機会をなぜ逃がしたのか>

 これは全く分からない。まさにゲスの勘ぐりと言われるだろうが、あえて私の推論を述べたい。

 この原因は、党の組織原則からきているのではないか。マルクスレーニン主義を標榜し、民主集中制を組織原則にしている政党は、党内序列が厳しく敷かれており、まさに「下級は上級に従い」であって、不破氏や志位氏を凌ぐスターが誕生することを許さないのではないか。先の共産党はなぜ選挙で勝てないか?第2弾でも指摘したが、他の政党と日本共産党の仕組みは違っている。自民党などは、それぞれが国民の中に入り、自ら人気を勝ち取り、党の中央に上り詰めて行く。つまり選挙で強い者がある意味出世していく。

  しかし、共産党や公明党は、党から指名された者が、議員となり、その議員という役割を演じているのであり、その議員が国民の支持を背景に党内でのぼりつめるという組織ではない。(昔宮本委員長が、部分的各条約禁止条約の批准の際須藤議員が賛成の立場をとったことを捉え、「役者がセリフを間違えた」と発言した。)

  ゆえに吉井議員に国民の人気が集中し、党内序列が崩れることを共産党は嫌ったのではないかと推測される。(先にマルクスレーニン主義の党と書いたが独裁的な政党に共通する仕組みではないかと思われる。)

  もっと三流週刊誌風に書けば、「男の嫉妬」ではないかとも思っている。共産党は不破氏、志位委員長、吉井議員の全てが物理が専門である。不破氏、志位氏は東大であり、吉井氏は京大である。官僚組織における東大派閥の学閥と同じような力学が働いているのではないか、こんなことを考えている。(注4)

  こんなことを書くと反共攻撃だとものすごいお叱りを受けると思うが、私はこの間意見書を15通出し、共産党に最低限私の意見書を受け取ったという返事をいただけないかと懇願したが(私は共産党を愛している。あなた方が返事をくれないと私は反撃に回らざるを得ない。わたしに共産党を攻撃することを辞めさせてほしい。返事がほしいと訴えた。)彼らは完全に無視した。すでに共産党は社会的常識を持たない、カルト集団に陥っているのではと疑いを持ち始めている。

注5:吉井議員の肩書きは党中央委員、党原発・エネルギー問題委員長だけであり、そのうち「党原発・エネルギ
    ー問題委員長」という役職が現在もあるのか疑わしい。中央委員は163人おり、その中から、常任幹部会が
    22人、幹部会が57人おり、ちなみに笠井議員は常任幹部会員である。吉井議員の序列は57番以下と考
    えられ、この序列の人間が共産党のスターになることを共産党は容認できなかったのでは?と思われる。      最近の「原発ゼロ政策」や「尖閣列島の政策」でも志位提案と、政策の頭に志位委員長の冠を付けるもの
    が多くある。これらも志位委員長の神格化を狙うものか(?)わからない。・・・そんなことが成功するハズはな
    いが。

<私の正しさを実証する12月15日(投票日前日)の赤旗の「潮流」>

  投票日前日の赤旗の「潮流」を見てびっくりした。今頃吉井議員の先見性を称え、共産党への投票を呼び掛けている。以下その部分を引用する。

 「共産党は小さいながらも大きな仕事をしてきました。たてば、吉井英勝議員の原発事故への警告が、事故のあと国や東電の責任を問う時どれほど力になったことか。とはいえ議席が少なすぎます。もっと大きな仕事をさせてほしいのです。」

 この記事から明らかなように、この間の国会活動の中で吉井議員の原発問題に対する取り組みが最大の成果だったのだ。なぜ選挙戦の最終日、共産党の前進が危なくなった時点で初めてこれを前面に出すのですか。この主張を一斉地方選挙から一貫して主張しておれば、年金の長妻氏の「ミスター年金」という称号を受けたと同じように吉井議員は「ミスター原発」という称号を受けたと思っている。

 しかしこの間の共産党の吉井議員に対して行った行為はこれと全く逆で、吉井議員の梯子を完全に外してしまった。

 吉井議員のオフィシャルのホームページも原発・エネルギー問題委員長」と記載されているが、2011年4月30日付け赤旗の「原発・エネルギー問題対策委を設置」は、12名の名前が載っているが、そこで奇異なのは、吉井議員は委員長でなく、ヒラの委員であった。(そもそも、委員長と言う役職は無かった。笠原議員の責任者という役職がトップである)

 吉井議員の原発・エネルギー問題委員長という役職は、2002年1月〜になっているから、党はほとんど同じ名前の組織を作って、そこに吉井議員をヒラの委員として入れ、実質上吉井議員の「党原発・エネルギー問題委員長」という役職を奪ってしまったのでは?(2011年4月30日)(吉井議員のオフィシャルホームページはこの「委員長」という役職名をまだ載せているが、実質上はこの組織は無いのではないか?)

 共産党は吉井議員の役職を奪うためほとんど同じ名前の組織を作りそこに吉井議員をヒラの委員で入れ役職を奪うという姑息な手段を用いたと推測される。

<各政党の委員長最後の一言>

 投票日前日の土曜日ウエークアップ+で各党首に一言で、志位委員長は消費税一本に絞り、原発問題に触れなかった。1〜2週間前穀田議員が触れなかった事も批判したがこの際は生出演であり、言いそびれた感じがしたが、今回は録画であり確信犯である。結局共産党は原発問題で腰が定まらず、最後に原発問題を落としてしまった。社民の福島瑞穂は3つ言いたいことがあるといい、格差是正、原発反対、憲法を守るといいきった。

 さらに言えば、社民の福島瑞穂議員はこの間の遊説で必ず言っている言葉がある。3.11の時点で脱原発を主張した唯一の党と主張している。選挙の為に「原発ゼロ」と言っている政党とは違うと。ここで共産党は黙りこむのではなく、吉井議員の国会での成果を上げ、原発反対を一貫して主張してきた政党と訴えるべきであったが、「安全優先の原子力政策」という訳のわからない政策を出したため。福島瑞穂に反論できないみじめさを味わっている。

 選挙戦敗北のすべての原因は、自らの政党の価値(宝)気づかず、保守との共同に活路を見出した中央委員会の無能さにある。