東京オリンピックと共産党(新国立競技場建設をめぐって)


                         平成27(2015)年7月11日

東京オリンピックと共産党


 東京オリンピックについては、私は「2020年東京オリンピック開催をどう捉えるかは政治的に大きな課題、これに目を背ける者は政治的に敗北する!」という記事を「平成25(2013)年9月12日」に書いています。
 オリンピックは国威発揚であり、決して労働者・国民の立場に立ったものではなく、これに反対していくことが重要だという趣旨の投稿をいただき、それに反対して、オリンピックの持つ二つの側面(指摘された側面と、スポーツの祭典として多くの国民が期待している実態)を見ながら、これに対応していくことの重要性について触れました。
 

共産党はオリンピックをどう見ているか(上記記事の中で)

 これについては、市田書記局長の記者会見と東京都議団の声明を引用し、共産党は基本的には、オリンピックに対して消極的態度であることも明らかにしてきました。注1

注1:赤旗は、東京五輪の記事を一面の左隅に追いやり、しかも東京五輪に対して
  反対か賛成かを述べず、「IOC総会の決定を尊重」と「市田書記局長が会
  見」という記事を載せています。非常に無責任な態度を取っています。
   また、東京五輪決定を伝える赤旗(2013年9月10日付け)は、党都議団 大山
  幹事長の談話で、「今必要なことは「何よりも深刻さを増す都民のくらしや福
  祉、雇用、中小企業などの施策を充実させることです」と語っていました。
   それに対して私は、「オリンピックと対置した形でこれらの諸課題を述べて
  いますが、オリンピックの成功は、こうした諸課題の実現を図る中で勝ち取ら
  れなければならないという主張を行うべきであると思います。」と書いていま
  す。
 
 上記会見や談話で、共産党はオリンピック開催に対しては、市田書記局長は「IOC総会の決定を尊重」という曖昧な姿勢を示し、東京都議団は、明らかに五輪よりも国民生活の充実が大切と反対の立場から主張しています。

オリンピックは主会場の建設問題で迷走し始めている。

 2020年東京五輪・パラリンピックの主会場となる新国立競技場の建設で、日本スポーツ振興センター(JSC)は7月7日 2520億円とした現行案を了承しました。しかしこの決定は、疑問だらけで、多くの国民が批判しています。
 そもそもこの新国立競技場の建設費は昨年5月の基本設計段階の1625億円より895億円も膨らんだ。しかも20年の大会後に設置を先送りした開閉式屋根や、電動式稼働から変更した1万5000席分の仮設席などの整備費は含まれていないため総工費はさらに増えると見込まれています。
 この事態を一般マスコミや赤旗は如何に伝えたのか以下に見てみる。

新国立競技場の建設問題の核心は、オリンピックに群がる利権集団の存在

 新国立競技場をめぐるゴタゴタは、どう見ても納得できる問題ではない。2520億円が如何にデタラメで大きな数字であるかは、この間の2004年アテネ五輪の主会場(367億円)2008年北京五輪(540億円)2012年のロンドン(610億円)の建設費と比較しても、4〜5倍の費用であり、どう考えともおかしな金額である。
 さらにもっともわかりやすい比較物件がある。7月9日 日刊ゲンダイによるとガンバ大阪新スタジアムは新国立の「18分の1」140億円で完成するらしい。現在、建設中の新スタジアムは、関西で初の国際Aマッチ使用基準を満たし、収容人数4万人。屋根部分にソーラーパネルを設置した最新設備である、一体なぜ、同じ国際競技場なのに値段がこれほど違うのか。徹底的な糾明が必要である。
 この事態の問題点を暴くことこそが共産党の役割である。共産党は唯一東京オリンピックに消極的立場を取った政党である。ここでこそ共産党に発言権がある。スポーツの祭典や平和の祭典だと国民受けする言葉を使いながら、結局はゼネコンや政治家が群がり、利権を追求しているのが、オリンピックの姿ではないのかと追求すべきである。ところがこの事態(利権に群がる集団)に対して極めて寛大である。

新国立競技場の建設決定を毎日新聞・赤旗は如何に伝えたか

 ○7月8日(水)毎日新聞
  新国立競技場2520億円了承
   有識者会議 現行案、10月着工
 
 ○7月8日(水)赤旗
  「新国立」建設を了承
  JSC有識者会議 工費高騰に懸念も

 この二つの見出し、ほぼ同じように見えるが、私は、毎日新聞の2520億円了承には、この金額に対する怒りが感じられる。赤旗の「工費高騰に懸念も」には怒りが全く感じられない。

 それは記事構成を見ればより一層明らかになる。
 ○毎日新聞は、この記事を一面トップに持ってきている。さらに【解説】欄を設け、「現実を直視し変更決断を」という記事を書いている。その記事では、この費用が2520億円に留まらず、最大3000億円になると指摘し、最後の「このままでは『負の遺産』の象徴として語り継がれかねない」と警告を発している。
 さらに毎日新聞は、この日の【社説】で新国立競技場を取り上げ、無謀な国家プロジェクトという見出しを掲げ、その出だしに「巨大な『負の遺産』となることが誰の目にも明らかなのに本当にこのまま突き進むのか。」と糾弾している。
 ○赤旗は、この記事を一面に持っては来ているが、一面の右下であり、毎日新聞とはインパクトが違う。見出しの文字の大きさも、全く違う。(一面トップは川内原発「再稼働見過ごせない」である)
 4面に「新国立2520億円見直しを」「都知事に党都議団申し入れ」という記事があるが、実際に対応した相手は、オリンピック・パラリンピック準備室の総務部長である。申し入れ内容も「文科省に、これまでの検討経過を広く明らかにし、計画の最検討を行うことを求めるように知事に要請。整備費については、国負担の原則を貫くよう求めました。」としていますが、この間の下村文部大臣と舛添知事の争い、新国立競技場に東京都からの500億円融資要請になんら言及せず、そもそも、新国立競技場そのものが、国民生活にとって無用な長物である事の切込が全く行われていない。
 11面で新国立 「JSC有識者会議」「無責任体質 浮き彫り」という記事がありますが、重要なことは、毎日新聞が指摘している『負の遺産』になる、このまま突き進むのか、辞めるのなら「いまですよ!」という視点が全くない。

 最後にもう一点毎日新聞の記事が優れているかは、一目瞭然の記事が同日にある。30面31面【社会】にブチ抜きで、毎日新聞は「この国は走り出したら止まらないのでしょうか」という大きな見出しを掲げ、新国立競技場、安保法制、原発再稼働を捉えている。これら三つの暴走は同じ穴のムジナだという視点で記事を組んでいる。この視点は素晴らしい。安倍内閣の暴走を止めるためには安保法制だけでなく、新国立競技場問題も同じだという視点で迫ることがより一層安倍内閣を追い込むことになる。
 共産党はこの視点で新国立競技場問題を捉えていない。ただ単に財務上の問題整理をきちっと行えという視点で止まっている。東京五輪に対して、国民生活を対置して批判してきた共産党だからこそ、批判できるのにそのことさえ理解できていない間抜けさである。

 さらにもう一点加えるなら、毎日新聞のこの【社会】面の見出しは、「新国立 天井知らず」「有識者『縮小』に反発」「コスト増 異論なく了承」という見出しである。さらに「経費増大 既に財政破綻」慎文彦氏の寄稿文を載せ押さえを行っている。機知に富んだ見出しと、手堅さが両立している。 

共産党はどう発言すべきか


 そもそも公費=税金を投入したこの巨大なプロジェクに対して、国民生活を守る立場から発言されなければならない。税金以外にロト6や新たなスポーツ宝くじ等の資金を投入することを考えているが、それも庶民のお金である。3000億円という資金が調達できる目処も立たず、たとえ調達できたとしてもそのお金は死に金(負の遺産)になる。(毎日新聞)国民生活の安定を求めるのであれば、「何よりも深刻さを増す都民のくらしや福祉。雇用。中小企業などの施策を充実させることです。」
 この発言を東京都議団はオリンピック招致が決定した際、談話として発表しながら、既に完全に忘れ去っている。

参考に橋下市長はこの問題でどのようなコメントを行ったか

 彼は問題の所在がどこにあるかを簡単に表現する天才である。
「お金がない家庭がフェラーリを買おうとしたら『アホか』と言われる」と言い放った。ここに橋下の政治のわかりやすさがある。