大阪ダブル選挙、維新派優勢の選挙情勢(毎日新聞:16日付)


平成27(2015)年11月16日


大阪ダブル選挙 市長選 吉村氏リード 知事選 松井氏優位(16日付 毎日新聞)

  大阪ダブル選挙は、当初の見通しは、知事選挙は維新の松井氏が有利だが、市長選挙は反維新の柳本氏が優勢だと言われていた。官邸筋は一勝一敗で良いとの情勢分析を行っていたが、二階俊博自民党総務会長が、「一勝一敗などという甘い姿勢ではダメだ、二つとも勝つ」と激を飛ばした。自民党の底力が発揮されるのかと見ていたが、本日付(16日)毎日新聞は、大方の予想を覆し、「市長選 吉村氏リード」という情勢調査を発表した。
  いつもの事だが、まだ態度を決めていない人が3割おり、終盤に情勢が変わる可能性があると書いているが、当初有利だった柳本氏が選挙戦の戦いの中で維新の吉村氏に追い抜かれている状況は選挙戦術のまずさが露呈した形となった。
  ちなみに赤旗(16日付)は、「大阪ダブル選」「追いつき追い越そう」という見出しを掲げている。これも劣勢を認めている見出しだ。
   

この事態を招いたのは、共産党の選挙戦術のまずさにある。

  このダブル選挙での共産党の選挙ビラを見ていると「なんでこうなるの」と常識を疑う選挙戦術を取り続けている。4年前の大阪ダブル選挙の敗戦の教訓を全く学んでいない。4年前共産党が選挙戦で掲げた方針は「安全・安心・やさしい大阪」であった。私はこの選挙戦のスローガンは、「警察の防犯のスローガンと瓜二つだと批判してきた。」なぜ橋下維新と切り結んだスローガンを選挙戦のスローガンにしないのかと指摘してきたが、選挙結果は、通常の選挙戦で共産党が獲得する票の中でも最低の票数36万弱でしかなかった。(注1)

注1: ○4年前得票数、率は  梅田候補は357159票、得票率9.74%である。
    ○8年前得票数、率は   梅田候補は518563票、得票率15.48%である。
    共産党が一番強かった時は
    ◆昭和50年知事選挙(二期目)
       黒田了一 1494040票・・共産党単独支持 
       湯川宏   1043702票・・自民党推薦
         竹内正巳  947664票・・社・公・民推薦

  今回の共産党のスローガンは「さよなら大阪である」私の住んでいる地域の共産党の事務所に張り出されているポスターは6枚あるが、全てが「さよなら大阪」とだけ書かれたポスターである。
  この「さよなら○○」というのは、どこかで聞いたスローガン、原発に対する「さよなら原発」のパクリのスローガンであるが、原発反対の「さよなら原発」は、原子力が人類と共有できないという意味でのスローガンであり、この運動の方向性を一言で示す優れたスローガンである。
  それに対して「さよなら維新」は、この選挙戦の特徴を表しているのであろうか、私は全く違うと見ている。維新政治が府民の生活や人権などに敵対し、安倍首相が推し進める戦争出来る国づくりの尖兵の役割を果たしていると見ている人(仲間)には理解できるスローガンであるが、そのことに気づいていない人には、全く意味のない、人の心に訴えるスローガンではない。
  大阪都構想の住民投票でも、ほぼ互角の戦いであったことから見ても、大阪市民の半数は橋下維新に期待を寄せている。選挙戦はこの人たちをターゲットに、橋下維新が如何に詭弁を弄して府民を騙して、自らの政治的野心のために暗躍しているかの暴露を行うことが最も重要な課題である。
  しかし、共産党のビラは、橋下維新の嘘と詭弁を暴露するよりも、自民党の栗原氏や柳本氏の政策で、府民の生活がよくなるようなビラを配布している(別紙資料参照)

何が問題か? 選挙は相手の支持者を引き剥がし、自らの味方に変える戦い。

 選挙戦はオセロゲームのようなものである。今回の大阪市長選で言えば、選挙前の情勢はほぼ互角、これを白は黒に、黒は白に裏返すかの戦いである。黒を白に裏返すのには、相手に対する信頼が間違いであり、われわれの主張こそが府民の利益にかなっている事を説得できなければならない。
 私は、相手(橋下氏)に対する信頼が間違いであるという「引き剥がし」こそが、選挙戦で最も重要な課題と考えており、共産党の現在の選挙戦術のような「相手を叩かず」、「こっちの水は甘い」というような戦いでは、選挙には勝てないと思っている。
 そもそも今回の選挙戦の特徴は何か、この分析から始めなくてはならない。大阪の特殊な戦いであることの認識が必要である。橋下徹という希代のペテン師が現れ、嘘と詭弁で大阪府民の半数を組織するという異常事態が発生していることである。これに、安倍首相も目を付け、この人物を利用すれば、日本の戦前復帰が成し遂げる事ができるのではと考え始めている。
日本の民主主義に取って重要な問題が、今大阪府民の判断に大きく関わっているのである。共産党もこの危機感を持つがゆえに、今回の選挙戦で自民党の候補を応援してでも、橋下維新の政治的野望を打ち砕くことが、日本における民主主義の最大の課題と捉えているのだと思われる。
 であるなら、なぜこの主張を前面に掲げて戦わないのか?今回の選挙戦の最大の特徴は、共産党の主張する「民主連合政府」とも「国民連合政権」とも「一点共闘」や「保守との共同」など現在まで共産党が主張してきたどの統一戦線論とも合致せず、大阪独自の戦い方である。その最大の特徴は、どの政党とも選挙戦で政策協定を結ばず、「勝手連」的に自民党の候補を応援しているだけである。

統一戦線型でない「勝手連」的な選挙戦の戦い方

 私はこの共産党の「勝手連」的戦いを支持するが、その戦い方が全く間違っていると思っている。この選挙戦で共産党が最も力を入れるべきは、橋下氏の発言が「嘘とペテン」で構成されていることを暴き出すことである。
 選挙協力について、自民党とどのような話し合いをしたのか、あるいは全く話もできずに「勝手連」でやっているのかもしれないが、ここでは自民党と共産党の役割を分担し、自民党は栗原候補で大阪府政はどう変わるという宣伝を広げ、共産党は黒子に徹し、「橋下維新が如何にでたらめな政党かを徹底的に暴露する」事が重要である。
 共産党はどうトチ狂ったのか知らないが、いつの間にか自民党にとって変わって、栗原候補の政策の宣伝を最優先した選挙戦を行っている。こんな選挙戦を行えば、自民党の支持者も逃げるし、共産党の支持者も逃げる。
 維新が宣伝している「野合」だという宣伝に、まさに利用される選挙戦術である。共産党が候補者をハイジャックして、栗原候補が共産党の候補者のような戦いを繰り広げれば、自民党の支持者たちは、戦意喪失する。また共産党の支持者も自民党の候補者を前面に立てた共産党の選挙戦術に違和感を禁じえない。
 毎日新聞(16日)でも「栗原氏は自民党支持層への浸透が4割程度にとどまっている。」と書いている。つまり栗原候補の宣伝をしているのは共産党であり、自民党の姿が全く見えない選挙戦になっている弱点が現れている。
 私の家にも維新のビラは入るが、自民党の栗原ビラは全く入らない。共産党のビラは自民党に成り代わって栗原氏一色のビラを入れている。街を歩いても(高槻・茨木)維新のポスターは目につくが、自民党のポスターは全く目に入らない。そもそも選挙戦だというのに全く静かな街の情景である。
 志位委員長は、昔の社共共闘の戦いで多くの革新首長を誕生させてきた歴史を思い起こし、オール反維新は、2倍にも3倍にも躍進の可能性があると指摘しているが、今回の戦いは統一戦線とは無縁であり、橋下維新を政治的に抹殺することが最大の狙いであるのなら、共産党は橋下維新との戦いに全力を尽くすべきである。そこに大義があることを府民に真正面から説明を行うべきである。これこそが最も効果のある戦いであり、共産党の信頼もます戦いである。
 「ふわっとした民意」に照準を合わせ、自民党の候補者を共産党が前面に掲げ、しかも「自民党府政で府民の生活がよくなる」というような宣伝は、橋下氏と同じ二枚舌である。この選挙戦術は、自民党の支持者も共産党の支持者も逃がしてしまう。

赤旗を見ていてもこの弱点は明確に現れている。


 11月10付赤旗は、「橋下『維新』の危険性を指摘」「大阪学者らがシンポ」という小さな記事を載せているが、この記事は極めて重要である。
 記事を読めば「橋下氏による『ブラック・デモクラシー』」をテーマに三人の学者が報告している。藤井聡京都大学院教授が、「ブラック・デモクラシー」とは邪悪な民主政治のことで@多数決崇拝Aウソと詭弁・プロパガンダB言論封殺―の要素がからなると説明。帝塚山学院大学の薬師院仁志教授は、「橋下・維新は民主主義を乗せる社会的土台を腐らせにかかった」と批判。などの重要な記事を小さく扱い、一方では11日付赤旗は、「大阪ダブル選」「『さよなら維新』に反響」「くりはら知事候補」・柳本市長候補勝利へ」という記事を大きく載せています。(候補者の押し出しに力を入れている。)
 また先に挙げた10日付赤旗にはシールズ関西の脇田燦史朗さんの訴えを載せていますがこの見出しは「自由・民主主義守る人を代表に」であり、このような基本理念を共産党の言葉として語らず、外部の発言の中で始めて紹介されています。
 ここに共産党の選挙戦術のまずさが浮かびあげっています。

志位談話の問題点

 最後に全くの余談ですが、共産党の変節を示す事例を一つ上げておきます。それはフランスパリでの同時多発テロに対する志位委員長の談話です。
 赤旗(11月15日付)一面で、「テロ根絶で国際社会の一致結束を」という志位談話を発表していますが、これは後藤健二さんが殺害されたというニュースが流された時の志位談話「イスラム国の武装解除と解体に追い込んでいくことである」と同じように、他の先進国の首脳の発言と比較しても突出した発言になっています。
 安倍首相は「いかなる理由があろうともテロは許されない。断固、非難する。日本はテロの未然防止に向けてフランスはじめ国際社会と緊密に連携し取り組んでいく」と述べた。
アメリカのオバマ大統領は、緊急の声明を発表し、「市民を恐怖に陥れる非道な企てだ。フランス国民のみならず、全人類と普遍的価値への攻撃だ」と強く非難した。
ドイツのメルケル首相も、「私の心は、テロの犠牲者とその家族、そして、パリの全ての市民と共にある」とのメッセージを発信した。

 後藤健二さんの時もそうであったが、志位委員長の発言が突出している(反撃するような主張が全面に出ている)ことに非常に気になる。ドイツのメルケル首相の談話とは人間性について雲泥の差がある。

 15日付毎日新聞は、渡辺啓貴東京外大教授(国際関係論)のこの事件に関する談話を載せている。その見出しは「欧米の中東政策に不備」であり、最後は以下のように括られている。(少し長いが引用する)
 西欧の人々は自らの理念に強い自信と執着があるが「民主主義」や「市場経済」と一口に言っても、それぞれの国情、文化によって微妙に異なる。
 「価値観の共有」が西欧型民主主義の押しつけであっては、むしろ対立、混乱を助長しかねない。文明の違いを認めながら、新たな共通の価値観を築く。理想論に映るかもしれないが、そうした違いを克服する対話の努力こそが求められている。
 
  この談話こそが、冷静な常識的判断であり、志位委員長の談話は、対立を助長するだけの危険な主張である。

参考資料
 1.明るい民主府政をつくる会のビラ
 2.明るい民主府政をつくる会の高槻版のびら
 3.共産党高槻島本地区委員会発行の高槻島本民報(市民向け)
 4。共産党高槻島本地区委員会発行の高槻島本民報(党・後援会向け)