政治的対決を避けて党の前進は勝ち取れない。


        平成25(2013)年10月21日


1.闘わない共産党を露呈した、大阪市議会議長の不信任案決議


 10月10日付け産経新聞(電子版)は、「橋下維新」いまや味方は「共産党だけという冷酷現実」という記事を配信した。この内容は極めて興味深い内容を秘めている。
 大阪市議会議長の不信任決議案で自民・公明・民主系が賛成して可決した。しかし維新・共産党はこれに反対したという記事を毎日新聞で読んだ。「なぜだ!」という疑問が沸き、赤旗、大阪民主新報を見たが、共産党の見解に接することが出来なかった。理由が知りたくインターネットを検索していたら、産経新聞の記事にであった。以下長文であるが引用する。

 大阪市議会で9月下旬に議長不信任決議案が可決された大阪維新の会の議長の進退問題で、強烈なねじれ現象が発生した。自民党や民主党系に加え、維新と協調路線をとってきた公明党までもが議長を辞職に追い込もうとする中、堺市長選などをめぐり維新と対立してきた共産党が「辞職は重すぎだ」と議長続投を支持。3会派を批判する展開となった。共産を「酢豚のパイナップル」と同じくらい嫌いと公言している維新代表の橋下徹大阪市長も予想外の“援護射撃”に「共産は合理的な判断をした」とたたえた。

 ○「ようわからん」共産反対に松井幹事長も困惑  「共産は出してないの?」

  市議会で公明、自民、民主系の3会派が維新の美延映夫(みのべ・てるお)議長(52)の不信任決議案を共同提出して可決させた9月26日、維新幹事長の松井一郎大阪府知事は共産が3会派に同調しなかったことに驚いた様子をみせていた。

  共産はこれまで市議会の本会議や委員会で市政改革について「住民サービスの切り捨て」などと批判。5月に物議を醸した橋下氏の慰安婦発言をめぐっては自民、民主系とともに市長問責決議案を提案していた。

  9月29日に投開票された堺市長選では維新の候補者と戦った現職の竹山修身(おさみ)市長を自主的に支援。橋下氏や維新との対立関係は先鋭化し、橋下氏が「僕は酢豚のパイナップルと共産党だけは大っ嫌い」とやり玉にあげるほどだった。

  そうした時期に迎えた議長不信任決議案の採決だったが、共産は維新とともに反対の青票を投じた。維新市議の1人は「共産が味方になってくれることがあるとは思わなかった」と戸惑い、記者団から感想を聞かれた松井氏も困惑した表情で答えた。

 「共産党が反対…ようわからん」

 ○「個人的な恨み辛み」越えて

  騒動の発端は8月に行われた美延氏の政治資金パーティーで市立高校吹奏楽部の演奏が行われたことだ。公明など3会派は「教育の政治的中立性が侵された」と問題視。維新が職員の政治活動を制限する条例の成立を推し進めた経緯なども踏まえて「自らを厳しく律するべきだ」とし、議長辞職が相当と判断した。

 共産は公明から不信任決議案への賛成を求められたが、すでに美延氏が議員報酬の3カ月減額で責任をとることを示していたことから、「減額で十分。辞職は重すぎる」(共産幹部)と拒否。美延氏が辞職した場合、市教委がバランスをとるため学校関係者に厳しい“処分”を下す可能性も懸念したという。

  堺市長選で維新の候補者が敗北してから一夜明けた9月30日。相手の竹山氏を自主的に支援した共産への怒りをたぎらせているであろう橋下氏だったが、記者団から議長不信任決議案に関する見解を問われた際にはこう持ち上げた。

 「共産党とはいろんなところで合わないところが多い。堺市長選を踏まえ、個人的な恨み辛みや個人的な感情はあるのだろうが、今回の共産党は極めて合理的な判断をされたと思う」

 ○共産苦言「維新たたきの政争の具だ!」

 議長の不信任決議案には法的拘束力はなく、美延氏は可決直後、議員報酬減額での続投を表明。これに態度を硬化させた公明など3会派は本会議での審議拒否をちらつかせながら議長辞職を迫った。

 市議会で過半数を持たない維新にとって他会派との関係悪化は改革路線の停滞に直結する。橋下氏が掲げる大阪都構想の実現には最終案に対する市議会の過半数の賛成が必要。重要公約の市営地下鉄・バスの民営化には3分の2の賛同が必要でハードルは高い。

 事態を重く見た維新市議団は10月4日、橋下氏と松井氏を交えて対応を協議。「辞職の必要はない」という認識を改めて確認する一方で、美延氏本人の意志を尊重して進退に関する最終的な結論を出すことを決めた。

 「議長は誰かが強制して辞めさせるポジションではない。だが(美延氏は)責任感が強く、だいぶ心労があると聞いている」。松井氏は協議後、記者団に対してこう説明。辞職に含みを持たせた発言との見方が広がった。

 党勢が低迷する維新に対して公明など3会派が追い打ちをかけている格好だが、共産市議の1人はこう不快感をにじませた。

 「今回の問題を大げさにとらえ政争の具にして、維新を徹底的にたたこうとしている」・・・・ここまで引用


2.大阪市議会議長不信任案決議に反対して共産党は正義を貫いたのか


  私は、この決議案に反対した共産党は、非常にお人よしでいい人の集まりであるが政治的には全くダメな人の集まりに見える。
  まず、重要なことは政党間の信義の問題である。大阪都構想を打ち破るためには堺市長選挙で反維新派が勝利することで世論を変え、また市議会では公明党の協力カギを握っている情勢下で、折角の自・公・民・共の共闘体制の実現を自ら断ってしまった。
  この間、公明党は、維新の会と共闘関係を築き、大阪都構想では与党側に回ることが想定されていたが、堺市長選挙で維新が負けることがほぼ予想された状況下で、手のひらを反すように、自民・民主系と組んで維新系の議長の不信任を可決成立させた。この不信任決議案に公明党から賛成するように呼びかけがあったが、それを断り(産経新聞)、維新側について擁護する共産党の姿は、大阪市民から糾弾されることはあっても、拍手されることは無いであろう。
  この時点での重要なことは、公明党も含む議会の大同団結を勝ち取ることこそが政治的には重要であった。これを実現(演出)すれば、維新の会の議会での孤立は、明確になり、大阪都構想の実現は一層困難になったであろう。

3.共産党が大阪市議会議長不信任案決議に賛成できない理由は何か?


 公明など三党が提出した大阪市議会議長不信任案には、共産党が賛成できない決定的な理由があったのか、赤旗や、大阪市会議員のホームページでも明らかにされていない

 赤旗はこの件について以下のように伝えた。

 大阪市議会は26日の本会議で、美延映夫議長(「維新の会」)への不信任決議案を共同提出した自民、公明、OSAKAみらい(民主系)の賛成多数で可決しました。
  美延氏は、自身の後援会関係者が市立高校の吹奏楽部に議長就任パーティーでの演奏を依頼し、同氏も演奏を承認。これまでにも2回、同吹奏楽部が同氏の後援会の催しで演奏していました。
不信任案は「教育の中立性に反する」とし、「維新」議員団が「職員の政治的行為の制限に関する」条例制定を率先して進めてきたことから、「議長自身が自ら身を処するべきだ」としています。
  日本共産党は▽美延氏ら関係者の行為は軽率で適切ではないが、不信任を求める事案ではない▽職員の政治的行為制限条例は、憲法で保障された政治的行為や思想信条の自由を侵害するもので、それを容認する文面となっている−として決議案に反対しました。
(2013年9月27日付しんぶん赤旗)


この赤旗の主張は果たして正しいか? 以下決議案を見ていきたい。

美延映夫議長に対する不信任決議


 美延議長が、今年8月末、自身の後援会の主催する政治資金パーティーにおいて大阪市立高校の吹奏楽部に演奏をさせていたことが明るみになった。同校による吹奏楽部の演奏は、昨年6月と12月の支援者会合でもあったとのことである。
 政治資金パーティーで演奏をする行為は、政治的支援を意味する行為であることから、当然、教育の政治的中立性に反することは明白である。
 美延議長が、幹事長や副団長などの要職を務めてこられた大阪維新の会議員団は大阪市職員と政治活動との関わり方を厳しく律してきた会派であり、「職員の政治的行為の制限に関する条例」制定に向けても率先して進められてきた経緯がある。
 今般の事案が明るみになったことを受けて、9月19日に公明党、自由民主党、OSAKAみらいの3会派から美延議長に、自らの身を処するように求めたのにもかかわらず、以後一週間それに対しての誠意ある対応はなかった。
 他者には厳しく、自らには甘いという対応は、大阪市会を代表する議会の長としては好ましいとは思えない。
 よって、ここに美延映夫君に対する議長不信任を決議する。

   この決議案を捉えて、「職員の政治的行為制限条例は、憲法で保障された政治的行為や思想信条の自由を侵害するもので、それを容認する文面となっている」という共産党の主張はスジが通っていない。これは事実関係を述べているものであり、この条例賛美を行ったものではない。「言うてることとやっていることが違う」という実証の為にこのセンテンスが入っていると理解すべきである。

  また、産経新聞によると、共産党の市会議員が「党勢が低迷する維新に対して公明など3会派が追い打ちをかけている格好だ」だと不快感をにじませた。
 「今回の問題を大げさにとらえ政争の具にして、維新を徹底的にたたこうとしている」つぶやいたと書かれているが、これが共産党市議の言葉だとしたら全く失格である。

4.共産党は大阪市議会議長不信任案決議反対の説明責任を果たしていない。


 この問題のおかしさは、美延議長の不信任決議が市民の期待を裏切るものであるなら、共産党はこの決議の問題点及びなぜ維新と一緒になって否決に回ったのかを説明するべきである。この件に対する共産党の主張が全く見当たらない。
 さらに産経新聞が10月10日付けで、「橋下維新」いまや味方は「共産党だけという冷酷現実」という記事を配信したにも関わらず、これに対して反論していない。通常この手の記事を見れば、共産党は「産経新聞の卑劣な記事を批判する」位の見出しを掲げ、大々的に批判するはずである。

 大阪ダブル選挙の際の私の居住区の府会議員も選挙公報で橋下氏批判を行わなかった。府会議員や市会議員は結局自分の議会活動を考えて、橋下氏と闘う事を回避しているのではないかと思われる。
 党中央もこの議長不信任案に大阪市会議員団が賛成しなかったことは「間違い」と捉えているのではないか、そうでないなら産経新聞にあれだけ「おちょくられている」のに「沈黙」を守るのは不可解である。

 この疑問に触れた記事はあまり見られないが、さざなみ通信にやはり「愕然」としたという記事がある。この共産党の取った態度の不可解さは、多くの市民が持っていると思われる。共産党からさらなる説明が求められる。

5.堺市長選挙での共産党と橋下維新の関係


 堺市長選挙の最終日の橋下市長の演説がYouTubeで流されていた。題名は「チンピラの演説」と言うような内容であった。既に橋下氏は負けることを覚悟した演説内容だった。
橋下氏は、「私はなぜ支持が増えないのか悔しいです。」と叫びながら、共産党や辻元清美氏の攻撃に終始していた。「俺の前に出てきて言ってみろ」「あの辻元のおばさん」と口汚くののしり、共産党に対しては、「あいつらはウソと批判ばかりしている」「あんな生き方が楽しいんでしょか」「選挙違反の謀略ビラばかり撒いている」と言うような批判を叫んでいた。
 堺市長選であるにも関わらず、堺の事はそっちのけで、辻本氏や共産党の悪口ばかりを訴える最終演説を行っていた。まさにこの映像の題名「チンピラの演説」にふさわしい内容であった。
 ここまで公党である政党が、馬鹿にされ罵られても「維新に逆らえない」という政治姿勢では、何時まで経っても大阪では維新を上回ることが出来ない。日本維新の会はすでに全国的には1%程度しかしかない、弱小政党です。しかし大阪では堺市長選挙に負けたとはいえ、全ての正統を敵に回して41%の票を勝ち取るという離れ業を未だにやってのける力がある。
 ここ維新と真正面から戦う事を拒否していれば、大阪維新の会は生き残る。中国の格言で「水に落ちた犬は叩け」というのがありますが、政治の世界でも落ちぶれた者には徹底して叩く、これを行わないと政治戦線で勝利は掴めない。
 この間大阪維新の会は相当ほころびを見せている。公募制の区長や校長の任命もゾロゾロトボロが出ている。橋下氏の掲げた政策、水道事業の統合や、大阪地下鉄・バスの民営化等も雲行きが怪しくなってきている。
 このような中で橋下氏は、地下鉄を来年4月に20円の値下げをするが、民営化条例案が不成立の場合、運賃を元に戻すと宣言した。これは正に自分のいう事を聞け、聞かなければ再度運賃を上げると市民に脅しをかけている。このような橋下氏独特の政治手法を徹底的に叩くべきである
 今年の流行語で言えば、橋下氏を何時叩くのか、「今ですよ!」というのが正解であり、今「敵に塩を送る」共産党のやり方は、政治的音痴と言わざるを得ない。政党としては公明党の方が長けており、今回も橋下維新についていくようなそぶりをみせながら、ここぞというときに反旗を翻す。これで大阪都構想の実現について橋下氏に今まで以上に高く売りつけることが出来る。こうした読みの中で動くのが政治です。
 共産党は、橋下氏にボロかすに罵られているにも関わらず、我慢して維新を助ける。助けられた相手も驚き「分からないと」しか言えない。ただ橋下氏が「共産党は合理的判断をされた」とお褒めの言葉をいただきそれで満足している悲しい政党に成り下がっている。この事態を「愕然」したと投稿した者がいる。
 共産党の取った行為に、橋下の言うような「合理性」があるのなら、赤旗及び大阪民主新報で堂々と論陣を張るべきである。

6.「たかじんのそこまで言って委員会」での日本共産党池晃副委員長の発言


 ここまで述べてきたことと少し違った話になるが、この件も重要なので敢えて述べさせていただく
   「たかじんのそこまで言って委員会」は、大阪ローカルで全国的にはなじみが薄いと思われるが、政治を本音で語る番組である。基本的には右派の論陣を張るものがパネリストに採用されており、元社民党の国会議員の田島洋子氏のみが左派的議論を唱え、みんなから袋叩きに会うという構成になっている。最近では日本共産党の国会議員であった筆坂秀世氏も時々呼ばれているが、左翼的論陣と言う面では田島洋子氏の方が優れており、筆坂者右派論客に可愛がられている雰囲気がある。
  この右派偏重番組が共産党特集を組み、共産党からは小池・山下参議院議員・穀田衆議院議員、大山都議、山内京都府議、山中大阪市議、小木曽赤旗編集局長、植木広報部長ら8名参加して、レギュラー陣と対決し共産党に対する様々な疑問に答えたそうである。(私はこれを見逃してしまった)その翌週に現代の様々な課題に応えるという形で、「秘密保護法案」について小池晃議員がパネラーで出演した。(ここでも共産党が取り上げられた)
赤旗もこの「委員会」が共産党問題を扱ったことに注目し一面で記事にしていた。
  私が注目したのは、小池議員説明が終わった後にパネラーの政治評論家加藤清隆氏が、「しかし共産党と同じ名前を持つ社会主義国の国家の方がこの法案に対してはもっと厳しい法体系を持っているのでは」と質問した際、小池氏は「私たちは、現在社会主義だと言われている国々を評価はしていない。例えばソ連の例を挙げ全く評価していなかった。さらに現在社会主義だと表明している国も評価していない」と明言し、それに対してパネラーから批判が入ると「皆さんすでに分かっているでしょう、社会主義だと言われる国に問題が多々あることを」、そんなことは判っている「我々はどこの国もモデルにしないと」言った。
 そこで台湾出身の金美齢氏が、それはおかしい、共産主義の理念で共通しているのでしょう、違うと言うならそれは「羊頭を掲げて狗肉を売る」だと突っ込みを入れた。その段階で、他のパネラーから、その話は先週十分議論したという事で終わりましたが、小池氏は、はっきりと「現在社会主義を名乗っている国が、日本より多くの問題点を抱えている国だという事は、あなた方も判っているし、我々も共通認識がある。」その点を突っ込むなという主張を行った。
  実際は明快に語ったのではないが、このニュアンスを明確に打ち出していた。「にやにや笑いながら、そこは共通認識がある。共産党がそれを見抜いていることは貴方も判っているでしょう」というメッセージを送った。
  私はこの小池発言に注目した。なぜ共産党は「中国は社会主義を目指している国」といながら、同時にこの位置づけは、「相手国がそういっているから尊重している」と言ってきたが、小池氏はさらに突っ込み、この中国(例えば)を共産党は評価していないことをはっきりと匂わせた。この発言は重要であり、共産党はこのことを明言すべきである。
  共産党のさらなる前進を阻害しているのは、現在中国の姿がある。この国はどう見ても社会主義など目指していない。このことを明確にしないかぎり共産党の前進はない。
 
 いずれにしても歯切れが悪いのである。