パリ同時多発テロに対する志位談話は、根本的に間違っている。


平成27(2015)年12月12日


 実は大阪ダブル選挙の総括が忙しく、この問題に対する発言が充分できなかったが、気がつかれた方もおられると思いますが「大阪ダブル選挙、維新派優勢の選挙情勢(毎日新聞:16日付)」という私の主張(16日)で志位談話の問題点に触れています。
 気がつかれていない方も多いと思われますので、ここで再録します。

志位談話の問題点(再録)

 最後に全くの余談ですが、共産党の変節を示す事例を一つ上げておきます。それはフランスパリでの同時多発テロに対する志位委員長の談話です。
 赤旗(11月15日付)一面で、「テロ根絶で国際社会の一致結束を」という志位談話を発表していますが、これは後藤健二さんが殺害されたというニュースが流された時の志位談話「イスラム国の武装解除と解体に追い込んでいくことである」と同じように、他の先進国の首脳の発言と比較しても突出した発言になっています。
 安倍首相は「いかなる理由があろうともテロは許されない。断固、非難する。日本はテロの未然防止に向けてフランスはじめ国際社会と緊密に連携し取り組んでいく」と述べた。
 アメリカのオバマ大統領は、緊急の声明を発表し、「市民を恐怖に陥れる非道な企てだ。フランス国民のみならず、全人類と普遍的価値への攻撃だ」と強く非難した。
 ドイツのメルケル首相も、「私の心は、テロの犠牲者とその家族、そして、パリの全ての市民と共にある」とのメッセージを発信した。

 後藤健二さんの時もそうであったが、志位委員長の発言が突出している(反撃するような主張が全面に出ている)ことに非常に気になる。ドイツのメルケル首相の談話とは人間性について雲泥の差がある。

 15日付毎日新聞は、渡辺啓貴東京外大教授(国際関係論)のこの事件に関する談話を載せている。その見出しは「欧米の中東政策に不備」であり、最後は以下のように括られている。(少し長いが引用する)
 西欧の人々は自らの理念に強い自信と執着があるが「民主主義」や「市場経済」と一口に言っても、それぞれの国情、文化によって微妙に異なる。
 「価値観の共有」が西欧型民主主義の押しつけであっては、むしろ対立、混乱を助長しかねない。文明の違いを認めながら、新たな共通の価値観を築く。理想論に映るかもしれないが、そうした違いを克服する対話の努力こそが求められている。
 
  この談話こそが、冷静な常識的判断であり、志位委員長の談話は、対立を助長するだけの危険な主張である・・・以上が16日に書いた記事である。

以下補足を書いてみたい

 東大駒場祭、志位氏「国際社会が一致結束してのテロ対策を提唱」(11月23日赤旗)

 東大駒場祭で志位委員長が「民主主義の新時代を拓くためにー『戦争法(安保法制)廃止の国民連合政府』について」と題して講演し、学生からの質問に丁寧に答えました。という記事を赤旗1面トップに載せている。
 この記事の見出しは、赤旗(11月15日付)一面で、「テロ根絶で国際社会の一致結束を」という志位談話よりはトーンを落としていますが、共産党の基本的立場は、「イスラム国」を敵視し、アメリカ寄りの発言を繰り返しています
 この講演では、戦争法廃止にかかわって、「世界からどうやってテロを根絶するか」について語ったことが書かれています。4点の提案を行っています。
 第一に、国連安保理決議にもとづき、テロ組織への資金提供の遮断、テロリスト
     の国際的移動の阻止、テロリストの武器入手の防止など、テロ組織を直
     接押さえる。
 第二に、貧困や政治的、宗教的差別など、テロの土壌となっている問題をなくし
     ていく努力を行う。
 第三に、シリアとイラクでの内戦、混乱を解決し、平和と安全をはかるための政
     治的・外交的努力をはかる、
 第四に、難民として苦しんでいる人々の人権を守り抜くための国際的な支援を抜
     本的に強める。
 そして、「何よりも大切なことは、憎しみの連鎖を断ち切るために国際社会の一致した取り組みです」と語りかけました。で結んでいる。
 この4項目の提案を読んで、最も違和感を禁じえないのは、こうした状況を作った欧米の有志連合の空爆に全く触れていないことです。たしかにこの4項目の提案の前文で「2001年の米国によるアフガニスタン報復戦争後テロが急増し、03年のイラク戦争は過激組織ISの台頭の要因になったことを解明。『空爆など軍事作戦の強化では問題は解決しません。逆に憎しみの連鎖をつくりだし、テロと戦争の悪循環をつくりだすことになります』と警鐘を鳴らし、国際社会が一致結束してとるべき対策として4点を提唱した」と書かれているが、テロが急増した経過にアメリカの軍事作戦を上げながら、その廃止を一切要求しない、この4つの提案とは、何の意味を持つのか全く分からない。

 志位提案が如何に馬鹿げているかは、主婦の投稿(毎日新聞)を見ればすぐに判る。

 毎日新聞11月26日付朝刊「みんなの広場」に「空爆でなく平和的支援を」(主婦)という投稿と「イスラムの人は普通の人」(中学生)の投稿があるが、この二つの投稿は、志位談話をはるかに超えた、当たり前の話になっている。
 まず主婦の投稿であるが、「パリで起きた同時多発テロの理不尽さに憤りを感じるが、シリア空爆が激化することを懸念する。」と書き出しているが、これが常識的な感情であろう。志位氏はこれに比べて咄嗟に思ったことは、「テロ根絶で国際社会の一致結束を」である。まず「テロ」をやっつける(報復)の考え方である。それに対してこの主婦は、「その連鎖が怖い、それをしてはダメだ」と捉えている。
 つぎに彼女は「『9.11』の後、米国によるアフガニスタン、イラク攻撃により、テロリストや兵士だけでなく、多くの子どもや罪のない人々殺された。」と書いているが、志位氏は「2001年の米国によるアフガニスタン報復戦争後テロが急増し、03年のイラク戦争は過激組織ISの台頭の要因になったことを解明。」同じことをいうのでも、人間としての感情を現した主婦と官僚的な捉え方をしている志位氏では、この主婦の表現こそが共産党の主張でなければならないと思っている。さらに決定的なことは、この主婦は「米国による攻撃」と捉えているが、志位氏は「報復戦争」という言葉を選び、米国にも「理」があるという立場を取っている。
 さらに主婦は「そして、憎しみの連鎖は新たなテロリストを生み出す要因になった。テロの背景には貧困、差別、人権侵害、武器の売買、各国の利益などが複雑に絡み合っている。私たち日本人はその社会の一員であり、誰かの権利を奪い豊かに暮らしている側の人間である。」と主張している。
 これに対して志位氏は、『空爆など軍事作戦の強化では問題は解決しません。逆に憎しみの連鎖をつくりだし、テロと戦争の悪循環をつくりだすことになります』と主張しているがこれは多くの評論家がこれと同じ主張をしており、何ら目新しい考え方でもない、普通の軍事的評価でしかない。主婦の主張には明らかに「被抑圧民族は団結せよ」というマルクス・レーニン主義の思想がその原点にある。
 さらにこの主婦は「テロの犯罪を無くすには『一人ひとりが認められ、水と食べ物に困らず、安心して眠れること』に尽きる」。私たちは、その当たり前のことを実現するために何をすればよいか考え、平和的支援策を国際社会に訴えていく義務がある。間違っても、対テロ作戦の名の下に、空爆を支援したりするべきでない。この彼女の主張にこそ人々に訴える力を持っており、この状況を作った者は誰かを見据え、これ以上無謀な行為は行うなと釘を刺している。
 これに対して、志位氏の解決案4項目に欠けているのは、空爆に対する批判が一切なく、テロリスト側を如何に追い詰めるかが中心的議題になっている。志位提案の第一は、欧米列強の主張そのものである。
 
 次に中学生の主張であるが、これは中学生らしく「イスラムの人は普通のひと」という立場で、偏見や差別をやめ、ともに生きようというような投稿になっています。志位発言にはこのような立場にたたず、彼らを押さえつけるという煽りを行っています。
 例えば提案の第一で、「テロリストの国際的移動の阻止」、「テロ組織を直接押さえる」を上げていますが、この主張はまかり間違えば、共和党の大統領指名候補争いの首位に立っているトランプ氏の「イスラム教徒のアメリカ入国を完全に禁止する」という主張に結びつくものです。難民の中の誰がテロリストか等は見分けることはできません。ごく普通の青年がテロリストになってしまうのです。
 本日付(12日)毎日新聞は、「パリ同時テロ1ヵ月」「もう犠牲者出さない」「IS戦闘員の親 啓発訴え」という記事を載せています。赤旗のようにテロリストだけを憎むのではなく、テロリストその者も被害者だという立場の記事を載せています。「もう被害者出さない」はパリ市民のことでなく、ISに参加していく青年のことをさしています。
 シリアで死亡した息子の父(オリビエ)さんは「人生に迷って生きる意味を探している子、何か重要なことをやり遂げたいと思っている子。そんな子が世界のイスラム教徒が置かれた悲惨な状況を変えるためだ、と洗脳され武器を手にとってしまうのだ。」
 さらにISに参加した息子の死に打ちのめされていたイヌギアンさん。息子のような犠牲者を出さないため、学校などでモロッコ系の若者たちに訴える活動をはじめることにした。というような活動も載せています。
 志位氏、「空爆は軍事上効果がない」と軍事評論家の立場から話していますが、シリアで普通に生活している人々が多く被害に遭っている現実から批判していません。基本的にはアメリカの蛮行を批判せず、テロリストを封じ込めることを基本にしています。
 ここを克服しない限り、SEALDs(シールズ、正式名:自由と民主主義のための学生緊急行動)からも見放されるのではと思っています。