共産党は選挙でなぜ勝てないのか 第三弾


                                                           平成24(2012)年12月17日

はじめに

 選挙戦は、私の予想通り共産党は躍進できなかった。これは既に予想されたことであり、共産党は今の路線を取る限り、今後とも共躍進はなく、ジリ貧になっていくであろう。今回の選挙戦の総括は未だ正確な資料を手に入れておらず、できていないが、選挙中に書いた記事2本をまずUPしたい。この記事は「なぜ躍進できないかの第3弾」であり、先に書いた第1弾第2弾との関連で読んで欲しい。

<共産党が躍進できない理由は党の弱体化と選挙戦術のまずさに起因する。>

  共産党が選挙で勝てない最大の理由は、共産党という組織が弱体化したことにある。だから共産党はなぜ弱体化したのかを語らなければならない。

  共産党が弱体化した最大の原因は、戦いを放棄し与党化を夢見たところにある。自らの革命政党としての姿を積極的に打ち出して戦うことを放棄し、「安全・安心・やさしい大阪」に見られるように、「愛される共産党」というイメージ戦略が、共産党自身の立ち位置をわからなくしてしまい、結局は国民から支持を失った。

  今回の衆議院選挙に当たっても、共産党らしさを訴えるのではなく、むしろ共産党らしさを否定した訴えを繰り返していることが最大の誤りである。

 例えば選挙ビラに富士山の図柄を入れる。(これは40年位昔からやっているが、なぜ働く労働者を励ます図柄を入れないのか?)さらには尖閣列島問題で、その主張の正しさをアメリカや財界もそう言っているという立証方法をとっている。(これは最近の赤旗の手法である。共産党の主張が正しい根拠は財界や自民党も認めた。このロジックを良く使う)さらには選挙用のポスター志位委員長が踏ん張り、「提案し行動する党」と書いている。このポスターで党が押し出せると考えているところに現在の共産党の堕落がある。このポスターから志位委員長を外せばどこの党のポスターかわからない。(これが現在の共産党の特徴である。)注1

 政党の押し出しに大事なことは、誰が敵(発展を阻害しているのはだれか)で、誰が味方かを明確にすることである。例えば「額に汗して働く者の見方です。」とか「日本の未来は脱原発から」とか、「大企業や富裕層優遇の税制を辞めさせ、働く国民の生活を応援します。」等々、共産党の特徴を前面に出さなければならない。(保守との共同の中に活路を見出すというたわけたことを叫んでいるから、「働く者の見方」というスローガンを前面に押し出せない。)

注1:他の政党とキャッチフレーズの違いを見れば、共産党の間抜けさがわかる。

   共産党:提案し、行動する党・・・・一番間の抜けたスローガンになっている。

   社民党:生活再建、いのちを大切にする政治

   民主党:今と未来への責任。責任ある改革の道をまっすぐに進む。

   未来の党:政治は未来をつくるもの。日本の未来を決めるのは、あなたの一票です。

   自民党:日本を取り戻す。

   公明党:日本再建

   維新の会:今こそ、維新を。日本再生、未来への責任。

<原発問題では、最後まで腰が定まらなかった。>

 これを高槻の実態からみれば、この選挙戦の最大の課題を原発問題にすえず、尖閣列島問題を取り上げ(3回も同じ趣旨のビラを配った。)戦いを挑んできた。この高槻市の誤りは、共産党の誤りを増幅した形で表れるので、わかりやすい。   

 震災後に戦われた一斉地方選挙では、震災復興を最大の課題として掲げながら、原発問題では「安全点検」を最大の課題に掲げ、「少しずつ自然エネルギーへの変換」を訴えた。

 大阪では、維新の会が大きく台頭しようとしている時に、維新の会との対決を避け、それぞれの自治体の課題を描き切れず、全く無内容な戦いを組織してしまった。

 今回の衆議院選挙でも、共産党は何を争点にして戦うのか、その軸が定まらず、消費税は定まったが、尖閣か原発かは揺れ動いている。(日本改革のビジョンという共産党の大きなビラがあるが、ビジョン1は「即時原発ゼロ」でありビジョン4は「領土問題」である。紙面ではこの2課題が他の課題の倍のスペースを割いている)(注2)最終的には原発問題が第二の争点と定めたようであるが、これも「日本未来の党」が出現し、「卒原発」を選挙戦の争点にしたため、原発維持か、脱原発かがこの選挙戦の争点だということがだれの目にも明らかになった段階で初めて、落ち着いた感じがする。

注2:このビラは我が家には告示後に入ったが、赤旗ではこのビラの評判が良いという記事が前から出ていた。  
     (読みたいと思っていたビラだ)このビラを見て私の疑問が解けた。私は高槻市の共産党のビラを批判し続け
     てきたが、高槻は党中央の出すビラをつまみ食いして出している。しかもその特徴は、原発問題を外し、領
    土問題を前面に出す手法である。はじめは茨木市の友達から中央のビラをもらってわかった。今回
     は、告示後我が家に投かんされたビラを見てわかった。高槻で撒かれたビラはいずれも中央のビラか
      ら原発問題を外して出している。(一斉地方選挙で、「原発の安全点検」で戦った恥ずかしさから
      か?・・・おそらくそうではなく、何も考えずに適当に複写している。)

  しかし、原発反対問題での共産党の遅れは、首都圏反原発連合の100万人大占拠に呼応した11.11の全国一斉行動の呼びかけ(共産党系の独自行動)が全く空振りに終わった時点で、すでに共産党はこの問題で全く役割を果たせないことが暴露されてしまった。(大阪ではこの呼びかけに応えた運動は、難波での100人規模の署名運動だけであった。)

11.11全国運動はなぜか、大阪の全労連は全く動かなかった。全労連の本部では全国の戦いをまとめて報道していたが、大阪だけは、最初から、難波での署名運動だけであった。実質、共産党中央がこれだけの呼びかけを行っているのに、大阪は全く拒否している。これはすでに組織崩壊の前兆か、原発問題に対する党中央の方針の一環性の無さに対する批判なのか全くわからないが、衆議院選挙勝利の観点から全党を挙げて戦うべき原発反対運動が、たった100人の署名運動という実態は驚くべき事態である。(なぜ、ここまで崩壊(大阪では)したのかは、私は裏情報を持っていないのでわからないが深刻な事態であることは明白である)

 この原発反対運動においては、大江健三郎さんなどの主催するさよなら原発運動や、首都圏反原発連合の運動が大成功を収めるなか、共産党系の運動は全く成功せず、共産党の大衆運動の終焉を示すものとして、歴史的に注目される事件である。

 共産党は自ら前衛政党を否定したが、実態としてもすでに前衛政党でないことを示した事例として私はこの事態を注目している。

<党の組織体制に問題がある。・・・2弾参照

 なぜ共産党はここまで衰退したのか、それは、革命政党から、議会中心の国民政党への移行がうまくいかなかったのではないか。組織原則は、暴力革命を推し進めていたレーニン時代の組織原則(民主集中制)を維持しながら、もう一方では、近代民主主義政党の仲間入りを果たすことの矛盾からきているのでは無いかと思われる。

 共産党という政党は、大衆運動にその基盤があり、大衆とともに戦う中で成長する政党である。(この原則を党中央は認めていない。)他の政党との根本的違いはここにある。しかし、議会を通じて革命を行うという方針を決定してから、共産党はややもすると、大衆運動が鬼子になり、大衆運動が暴走すると選挙での票が減ると大衆運動に対して臆病になってしまった。

 この最大の事例が、解放同盟との決裂である。解放同盟の運動方針は誤っていたが、それに対するパッシングは異常な面もあり(注3)、他の政党が全く対応できない中で、共産党の正当性は国民の中で支持され、大阪に代表されるように共産党は大躍進した。

注3:衆議院選挙の補欠選挙で沓脱タケ子氏が森下仁丹(自民党)に勝った選挙があったがこの際撒かれたビラ
     には、相当やりすぎの物があった。(私の目から見て、これは「あかんやろう」というのがあった。)全くの余談
     であるが、この選挙では、その当時、テレビで最も活躍していた、前田武彦氏が番組の最後に万歳し(応援演
     説の際、沓脱さんが勝てば万歳すると公言していた。)、その後テレビから姿を消すというおまけまでついた選
     挙戦であった。

<解放同盟と持ちつ持たれつの関係・・解放同盟の衰退と共産党の衰退が同時並行で進行>

 しかし、解放同盟の不法な運動が下火になるにつれ、共産党の勢いもまた衰退していった。この解放同盟との戦いは大きな成果を上げながら、同時に共産党を大衆運動から遠ざけ、大衆運動全体に対する無理解が党内思想としても確立していった面がある。(党勢拡大運動を2本足の活動から一本足の活動へと純化してしまった。)

 この解放同盟との戦いの総括を共産党は、きちっと行う必要がある。まずこの戦いの中で党は鍛えられ大きくなり、政党としての大きな基盤を築いた。(大阪では)しかし、解放同盟の力が無くなるのに比例して、共産党もまた力を失った。これは共産党が不正な物と戦う中で躍進するという組織的性格が明確になったが、同時に人権問題一般に対する発言権を失った面もある。(注4)

 さらに地方自治体を巡る問題が「解放同盟の横暴な支配」という共通認識があった時点で共産党は大きく躍進(羽曳野市などがその事例)したが、最近では、自治体職員の給与の問題が、自治体財政の圧迫の最大の原因だと主張する者が増え、敵がだれかという議論の変化の中で共産党は全く置いてきぼりになった。なぜなら、共産党はこの公務員労働者を最大の支持勢力として抱えているため、解放同盟の不法行為に対する追求のように追求できない。(この時点で共産党は戦う政党ではなく、守旧派に祭り上げられてしまった。)

注4:共産党は同和問題の戦いの総括を行っていないと思われる。昨年戦われた一斉地方選挙・大阪ダブル選挙
      で、同和問題に対する政策は全く語られなかった。同和問題は終結に向かいつつあるが、未だ残された課題
      もある。(終結宣言を行ったのか良くわからない。・・京都市長選挙では同和問題が取り上げられていた。)

<既得権益者の流動化に共産党は対応できなかった>

  なぜ、このような事態に陥っているのか、共産党は解放同盟に対する不公平さを批判して躍進したにも関わらず、(ここでは不正追及の旗手であった。また他の政党は、解放同盟の持っていた暴力性とも関連し、その追及を行わなかった。)不公平の議論が、公務批判に移行した際、共産党は、議員の定数や公務員の既得権益の追求ができず、公務員擁護派に回ってしまった。つまり攻守が逆転してしまった。ここに現在の共産党の苦悩がある。

  戦後60数年経過し、既得権益者に流動化かが発生し、公務員や、一部老人が既得権益者になった。(これらは共産党の基盤でもある。)

@公務員

 確かに、公務員の給料が高い、これを引き下げるという運動は間違っている。雨宮塔子氏が毎日新聞に書いておられたが、公務員の給与が高いと騒いでいる市民の方は、公務員の給料が下がった暁には、そのおこぼれが自分に回ってくると思われているが、それは回ってこない。その点が見えていない。(解決方法はそこにあるのではない)と指摘されていたがその通りである。

  しかし、共産党は、解放同盟が不当な利益を得ていると批判してきた。この論理は、公務員が不当な利益を得ているに通じるのではないか。共産党は不当な利益を得ている物を批判して躍進してきた。解放同盟の不当利益の取得は認めないが、自治体労働者の不当利益は認めるでは一貫性に欠けるのではないか。 

 その理由が「解放同盟は共産党に敵対したから認めないが、自治体労働者は、我々の支持者だからその批判を行わない」では理屈が通らないと多くの国民は判断しているのではないか。

  橋下氏がやっている「既得権益打破」は共産党が行ってきた解放同盟に対する「不当利益打破」の延長線上にある。共産党が解放同盟の不当利益打破で国民を教育し引っ張ってきた論理が、現在は逆に共産党が追い込まれる論理をなって跳ね返っている。歴史の皮肉だと思う。

 確かに解放同盟の要求は異常であった。しかし、公務員労働者の要求も民間から考えれば考えられない要求がたくさんあった。(解放同盟のように華々しくないが、私はミニ解放同盟みたいなところがあったと見ている。)

  例えば、大阪の公務員の有給休暇は時間単位で取れる市町村が多くある。あるいは、これは相当前に廃止されたものもあるが、お祭り休暇や、大掃除休暇、あるいは祭事休暇(冠婚葬祭とは別に)があったりする。(さらには実際には残業していなくとも、最初から残業手当(30時間分など)が出るシステムになっていた。・・・大阪市で暴露された。)給料も能率給でなく、生活給を基本としており、同じ年齢で、あれば基本的には同じ給料である。この給料体系は基本的には正しいと思われるが、民間企業で、能率給で追い回されている労働者から見れば、まさに天国であり、理解しえないものだと思われる。

  マスコミ報道などを見ていると、田舎の市町村などでは、公務員の収入とそれ以外の市民の収入とでは2倍の開きがあるという事例も報告されている。悩ましい問題であるが、これがおかしいと批判されれば、それに追随する者は多くいると思う。それが庶民感覚でもある。

  公務員職場には、現在正規職員以外に嘱託職員など非正規の職員が多く参入してきている。これらの非正規職員の仕事は、正規職員とほぼ同じ仕事をしているが、給与については4〜5分の1程度と思われる。自治体の労働組合はこうした問題の取り組みに積極的ではない。(これら嘱託職員の内部告発が橋下氏の運動の後押しに相当な力を発揮していると私は見ている。)

 日本経済の沈滞の中に官僚や、公務員労働者の既得権というものが、どのような形で絡んでいるのか、このことに関する答えを共産党は出さない限り、石原氏がいう官僚大国打破や、橋下氏がいう公務員の既得権益打破の論理に打ち勝てない。(注5)

注5: 今回の選挙スローガンに「提案し行動する共産党」というスローガンを掲げているが、国民大衆の中に維
      新の会の主張を支持する者が相当数いる中で、既得権益打破に対する回答を出さない限り躍進できない。
     「提案」する党・・「尖閣列島問題等」を指していると思われらが、日本の経済の躍進を図る上で、官僚
      体制の打破や公務員の既得権益の打破をどうとらえるのかの方が大切である。(これを擁護している
      と守旧派に見える。)

Aお年寄りの問題(800兆円の預金?)

  現在の日本社会では、貧富の差が進行し、世代間格差という新たな問題も発生している。これらの問題でも、共産党は老人を一括して社会的弱者と捉え擁護しているが、日本人の貯蓄残高の半分以上を老人が持っていると言われる現状では(日本の貯蓄の6割が60歳以上の世帯に集中) 、世代間格差の問題にも切り込んでいかないと若者の支持は増えないであろう。

  これも年寄りに共産党の支持者が多いという点に目を奪われ、若者の貧困化という深刻な問題を見逃せば、ますます党勢は衰えるであろう。

  要するに「赤旗拡大が、選挙戦勝利の最大の課題」などという「あさっての方向」を向いたような議論に終始していれば、共産党の地力は付いていかないであろう。

 金持ち(小金もち)と貧乏という図式も揺れ動いている。現在では明らかに、公務員労働者と民間の労働者取り分けて中小企業で働く労働者とでは給料や待遇で大きな隔たりがある。また、老人のなかの相当数の中に経済的にそれなりの資産を蓄えた者と若者の貧困化の間に矛盾がある。

  資本家金持ち、労働者貧乏、年寄り社会的弱者というような図式で世の中を捉えていれば、現在社会の矛盾と向き合えない。現在の若者は将来年金を満足にもらえるというような思いを持ち得ない、それぐらい未来に対する絶望感を持っている。その時に、共産党が「お年寄りの権利を守る」ことだけ主張していると、若者から完全にそっぽを向かれるであろう。

 こうした社会の変化にも共産党は対応できていない。これでは選挙に勝てるはずがない。こんなところにも共産党の弱点はある、いつの間にか世間では革命政党ではなく守旧派の烙印を押されていることを。