東京都知事選挙の結果は、大阪と同じ現象(改憲派が多数)が東京にも現れた


平成28(2016)年8月4日


都知事選挙の結果評論 毎日新聞の【余禄】が面白い

 8月1日付毎日新聞は【余禄】で権力のリアリズムを解いたマキャベリ(15世紀〜16世紀、イタリア、ルネッサンス期の政治家、フィレンツェ共和国の外交官)彼の書いた『君主論』は有名であり、それを引用しながら東京都知事選挙の結果を論評している。なかなか面白い。
 最初に時代背景の違いに触れ、「この書物に女性についてのひどいたとえもある。」と断りながら、「君主には欠かせない『力』と『運』の2条件のうち、運命は女神であり、運命との対決を説くくだりでこんなことを言う▼『運命は女神であり、それを支配しておこうとするなら打ちのめしたり突いたりする必要がある。』「むろん人の行動は運命に合致すれば、成功し、しなければ失敗する。だがマキャベリによれば、運命の女神は慎重な人より、強気な人の果断に従いやすいというのだ」▼「さて男性が女性に暴力をふるうなど言語道断となった今日では、女性初のトップの座をめざす政治家が果敢な先制行動に出て運命の女神を出し抜く事態も生じる。」・・・・▼「東京都知事選挙に大勝した小池百合子氏だった。・・・▼「与野党両陣営の候補者選びの遅れを突き、むしろ都議会自民党との対決姿勢を強烈にアピールして幅広い支持を集めた小池氏だった。党の推薦を得られぬ逆境を追い風に変えた運命逆転である。」・・・▼「『運に依拠せぬ君主権の方が容易に維持される』もマキャベリだ。そう、王のもう一つの条件たる『力』都知事としての力量がいよいよ試される。

 この【余禄】今回の都知事選挙を見事に解説している。小池氏はさすがに政界の渡り鳥と言われ、権力側に寄り添うことが極めて上手な政治家である。彼女の政治家としての最後の大勝負をかけた。その彼女の政治姿勢は、権謀術数主義者、マキャベリスト(目的達成のためには手段を選ばない人)であり、その能力を最大限に発揮した。

都知事選挙の選挙結果を見ておこう。


都知事選挙の選挙結果を見ておこう。  
名前 得票数 得票率 得票差 備考
小池百合子 2,912,628 44.49%    
増田寛也 1,793,453 27.40% 1,119,175
小池氏との票差 
鳥越俊太郎 1,346,103 20.56% 1,566,525
 小池氏との票差
上杉隆 179,631 2.74%    
桜井誠 114,171 1.74%    
マック赤坂 51,056 0.78%    
七海ひろこ 28,809 0.44%    
立花孝志 27,241 0.42%    
高橋尚吾 16,664 0.25%    
中川暢三 16,584 0.25%    
山口敏夫 15,986 0.24%    
岸本雅吉 8,056 0.12%    
後藤輝樹 7,031 0.11%    
谷山雄二朗 6,759 0.10%    
武井直子 4,605 0.07%    
宮崎正弘 4,010 0.06%    
望月義彦 3,332 0.05%    
山中雅明 3,116 0.05%    
今尾貞夫 3,015 0.05%    
内藤久遠 2,695 0.04%    
関口安弘 1,326 0.02%    
  6,546,271      


 この結果は小池氏の圧勝である。投票当日の開票即票でNHKは午後8時には小池氏当確を出した。それぐらいの圧勝であった。この結果をどう見るかであるが、政党の支持を全く受けない小池氏が44.49%もの支持があったことに、東京都民及び全国の国民は驚いたであろうが、すでに大阪ではもっとすごいことが起こっている。
 昨年11月に行われた大阪府知事、大阪市長選挙において、大阪維新の会はすべての政党を敵に回し、画期的な勝利を得ている。

昨年戦われた大阪W選挙の結果との比較

●大阪知事選挙の結果
氏名
得票数
得票率
支持政党
松井一郎 2,025,387 64.07%  大阪維新の会
栗原貴子 1,051,174 33.25%  自民党・公明・共産党・民進党等
美馬幸則 84,762 2.68%  無所属
  3,161,323 100.00%  


●大阪市長選挙の結果
氏名
得票数
得票率
支持政党
吉井洋文 596,045 56.42%  大阪維新
柳本顕 406,595 38.49%  自民党・公明・共産党・民進党等
中川暢三 35,019 3.31%  今回の都知事選も立候補 16,584票
高尾英尚 18,807 1.78%  

 という結果が表れている。東京都知事選挙で小池百合子氏が既存政党の支持を受けないで得票数2,912,628票、得票率44.49%という数字が、有権者や政治のプロには信じられない数字だと思われるが、大阪では橋下維新というモンスターが現れ、他の政党をすべて敵に回しながら、知事選挙では64.07%と信じられない数字を獲得し、すでに既存政党が崩壊し、自分たちを支持していた人を囲い込むことができなくなっていることの表れである。 
 余談であるが、すでに大阪では民進党は壊滅状態である。先の参議院選挙では比例代表で344,941票(共産党421,790)地方区では、347,753票(現職議員)(共産党454,502票)であり、野党第一党を共産党に奪われている。(東京都とは全く違う政治地図になっている)

劇場型選挙が横行し、それに乗り切れない既存の政党の崩壊が始まっている。

 今回の都知事選挙結果での出口調査の結果は、自民党支持者の4割しか増田氏に投票していない。(小池氏にはおよそ5割投票している。)民進党では、鳥越氏に56%、公明党支持者は従来はほぼ党の指示に従ったが、先の参議院選挙から崩れ始め、増田氏に投票は69%である。(外部の候補者という側面はあるが)共産党は鳥越氏に67%であり3割強を逃がしている。既存政党の液状化現象が起こっていることが最大の原因である。

劇場型選挙戦の影で、保守か革新かの従来の枠組みが壊れつつある。

  =右翼的な潮流が育ちつつある。= 

 さらに、保守とか革新とかの枠組みも崩れつつある。先の参議院選挙では、東京地方区を政党の力関係(参議院選挙の得票数)で見れば、鳥越支持は、民進党1,631,276票、共産党665,836票、(合計で2,297,112票)小池・増田支持は、自民党1,529,622票、公明党770,535票(合計2,300,157票)であり保守・革新の基礎票はほぼ同数であったが、選挙結果は小池氏2,912,628票、増田氏1,793,453票あり、保守派合計で4,706,081票あり、鳥越票(革新派)の1,346,103票の2.86倍の得票数を上げている。
 大阪では先の参議院選挙で改憲派が76.06%を占めたが、東京知事選挙の結果(小池+増田)の票数は、77.76%を占めほぼ大阪と同じ現象を巻き起こしている。

小池氏、増田氏、鳥越氏の三人の得票数を分母に据え、小池氏+増田氏の得票率
 を見た場合77.76%になる。

 鳥越氏が戦争反対や原発反対を訴えた状況から、小池氏や増田氏に流れた票を改憲派とみる荒っぽい論議ではあるが、逆に言えば頑強な改憲反対派は22.24%であり、一般的な世論調査での改憲派・改憲反対派はぼ拮抗しているが、今回の都知事選挙では改憲反対派の半数は、小池氏や増田氏に投票した。(改憲反対派の中には、保守へも簡単に流れる傾向があり、今後これらの人達をどう自らの陣営に取り込むかが革新側の大きな課題でもある。)

なぜ、大方の予想を裏切り小池氏があれほど大勝したのか?

 一般紙も小池氏リードの報道はしていたが、選挙のプロもこれほど小池氏が勝つとは思っていなかったのではないか?少なくとも赤旗は、投票日当日「都知事選 今日投票」という記事で「野党統一候補でジャーナリストの鳥越俊太郎氏と、自民、公明が推す元岩手県知事の候補、前自民党衆議院議員の女性候補大激戦、大接戦です。」と書いています
(余談ではあるがネット上で赤旗はこの状況を知っていながら、嘘の選挙情報を流したとしたら、公の新聞としておかしいという批判があった。また、赤旗は鳥越氏は名前を記載しながら、他の候補は名前を書かないなど姑息な報道を行っている。)
 なぜ小池氏がこれほど勝利したのか、それは小池氏が毎日新聞の【余禄】が言うように「与野党両陣営の候補者選びの遅れを突き、むしろ都議会自民党との対決姿勢を強烈にアピールして幅広い支持を集めた小池氏だった。党の推薦を得られぬ逆境を追い風に変えた運命逆転である。」マキャベリズムの手法(目的達成のためには手段を選ばない)を使ったからだと思われる。

選挙で勝つための手法は、小泉氏が編み出した劇場型戦術が現状では有効な戦術

 小泉氏は「自民党をぶっ潰す」と言って大勝した。橋下氏の手法も同じで敵を明確にし、それと戦う姿を見せて勝ち抜いていく。この手法はアメリカの大統領選挙の予備選でのトランプやサンダース議員も同じだ。トランプは排外主義をあおり、サンダースは格差是正を訴えた。橋下は公務員を敵に回し、公務員さえ叩けばみんなの生活が良くなるような幻想を与えた。
 小池氏も、舛添問題で発生した都知事選挙だということを十分捉え、最初に自分が知事になれば、@都議会を冒頭解散する。A利権追及チームを作る。B舛添問題の第三者委員会設置を行うという政策を打ち出した。舛添氏の問題は連日連夜テレビで報道され、ほぼすべての都民がこの状況を把握し、一日も早く舛添氏が辞任し、都議会が正常に運営されることを望んでいた。この都民の意識を捉えたのが小池氏の政策である。
 この小池氏の政策がいかに劇場型選挙戦として正しいかは、8月3日の新聞朝刊にでた週刊文春・週刊新潮の広告を見ればわかる。週刊文春の見出しは「小池百合子vs都議会のドン」週刊新潮は「『小池百合子』蹴散らす標的1番から5番まで」という見出しを掲げている。つまり都民は、選挙前の都議会での舛添叩きの続きのドラマを期待しているのである
 週刊文春ではこの見出しの後ろに、石原慎太郎、森元総理、都議会のドン内田氏の顔写真を入れている。週刊新潮は森元総理の写真をやはり入れている。都民は舛添氏と同じようにこれら利権に染まったボスたちが、小池氏に「蹴散らかされる」ことを期待しているのである。舛添叩きは愉快であった、さらにもっと利権に群がる人達の罪状が明らかにされ、叩きのめされることを期待している。その舞台の観衆になりきってしまっている。
 トランプがメキシコとの境界に壁を作るとか、橋下維新が都構想で大阪が良くなるとか、小池氏の当選後、都議会の冒頭解散を行う等、彼ら(彼女)の政策はみんな嘘である。嘘を堂々と言えるところにこれらの政治家の特徴である。「目的達成のために手段を択ばない」(マキャベリズム)ところに彼ら(彼女)らの特徴があるし、躍進の秘密がある。
 

鳥越氏はなぜ敗北したのか?様々要素はあるが、「ガン検診受給率100%」を掲げた事!

 一方鳥越氏はなぜ振るわなかったのか?それは政治家とは何かの基本的な問題が絡んでいる。鳥越氏の最初の決意表明を聞いて私は驚いた「がん検診受診率100%」にするが、彼の公約であった。鳥越氏のこの間の経験だけで政治を語る愚かさに彼は全く気付いていなかったし、周りの民進党や共産党の幹部は何をしていたのか、きわめて危ない滑り出しを行った。
 すこし個人的な事を話せば、私の住んでいる自治体ではワンコイン(500円)でがん検診が受けられる。でも検診率は100%に程遠いと思われる。私や妻はがん検診を受けていない。これは500円が惜しいからではなく、個人的に受ける決断ができないのである。こんな人は沢山いると思う。国民に何か100%行動を求めることは基本的におかしいのであり、例えば子宮頸がんワクチンの接種を推進した議員もいたが、今はその副作用が大きな問題となっている。なぜ個人の健康管理に行政が介在するのか、その環境を作ることは大事ですが、強制(100%受診)されることには抵抗を感じます。インターネット上でもこの政策には疑問が多く載せられており「『がん検診100%』に医者がNO」の意見も寄せられています。

政治家とは何か?ジャーナリストと政治家とは全く違う生き物

 そもそも政治家とは何か基本的な問題から見ていく必要があります。マックスヴェーバーは「職業としての政治」という本の中で政治家には3つの資質が必要としているが、それは、「情熱」「責任感」「判断力」だと言っている。また、「官吏」は政治を行うべきではないとも言っている。官吏は行政を「憤りも偏見もなく」行うべきである。なぜなら党派性や闘争といったことは、官吏ではなく政治家の本領に属するものだからと言っている。
 今回の選挙戦で小池氏は「事務方は優秀な方が16万人もいる。ここにもう一人優秀な『官吏』を加えても意味がない。必要なのは政治家である」と述べたが、まさにその通りである。増田氏(官吏)は必用ではなかったのである。
 鳥越氏はどうか、はっきり言って著名なジャーナリストとはあれだけ無力で無知なのか彼を見てつくづく思った。(つまり先にあげた政治家にとって必要な要素を持っていないことが一目瞭然で分かってしまった。)彼は立候補にあたって東京都の抱える問題を何ら一つも語ることができなかった。彼が唯一主張したのは、「ガン検診の受給率100%」を行うであった。 
 この基本政策の不十分さはおそらく他の18人の泡沫候補(失礼だが)より劣っていたのではないか?(鳥越氏には失礼だが、加齢による能力低下がすでに始まっているのでは思わせる姿であった。)
 「ガン検診受給率100%」は全くのピンボケである。あれだけ毎日テレビで舛添問題が報道され国民の関心が東京都政に向いている時に、それらについて何ら触れず、「ガン検診受給率100%」は医療政策の一分野でしかなく、しかも都民の合意が得られていない政策である。(待機児童ゼロ)などとは重要度の全く違う政策を彼がなぜ語ったのか、各政党の幹部は、それを阻止し、もう少しましな政策を語らすことができなかったのか、疑問に思う。 
 少なくとも立候補を予定していた元日本弁護士連合会長の宇都宮健児氏との話し合いの中で、宇都宮氏が掲げる政策を引き継ぐと言いながら、鳥越氏はそれを全く語らなかった。(築地市場の移転問題や米軍の横田基地問題など)
 この点についてフジテレビ系バラエティー番組「バイキング」に出演した。小池氏が鳥越氏に対して、「宇都宮さんは都民目線で、いいことをおっしゃってるんです。今回宇都宮さんが断念されて、まとめて鳥越さんが出馬なさった。公約を見せていただくと、宇都宮さんがおっしゃってたことがあまり盛り込まれていない。宇都宮さんがかわいそう。中でも築地市場の移転問題。11月7日で決まっています。これまでの鳥越さんのご発言は、このまま進めるのか、やらないのか、どうなのか、よく分からない。その点はいかがでしょうか。」と切り込んでいた。まさにその通りである。
 今日(4日)の朝日放送「羽鳥モーニングショー」でも小池新都知事は、築地市場移転問題について言及し、見直しもあるような発言を行っている。これが政治家である。憎たらしいほど上手い。(やる気がなかっても、取り上げるような姿勢を見せる。)

野党4党でなぜ鳥越氏を統一候補にしたのか、それぞれの政党の責任が問われている

 選挙戦告示前、弁護士の宇都宮氏も立候補を決意されていたが、野党間で分かれては勝ち目がないと判断され、立候補を辞退されたが、宇都宮氏ならもっと政策論争ができたと思われる。たしかに4党の統一候補であり、宇都宮氏は過去2回共産党の支持で立候補された経緯があり、民進党が嫌がり統一候補にはなれなかったと思われるが、鳥越氏のあの状況を見て、これで本当に都知事選挙戦えるのかの判断を慎重に行わず、野党4党合意をすべてに優先し、都民不在の選挙戦にしてしまったのでないか。野党の幹部の責任が問われる。
 鳥越氏に野党統一候補を譲った宇都宮健児氏も「今回は政策もなければ何もない。まさに野合と言われてもしょうがない態勢で戦った」ということ。と日刊スポーツ8月1日に語っている。

 2日のテレビで、コメンテーターが、「小池百合子氏は演説を行えば行うほど支持を増やしたが、鳥越氏は演説の度に逆に支持者を蹴散らかしていった。」と解説した。確かに悪意に満ちているが、結果から見れば、そういわざるをえない結果である。
 さらに選挙中に週刊誌が女性問題のニュースを流したのは明らかに選挙妨害であったが、これに有効に対応できなかった。何が一番まずかったかは、鳥越氏は「この問題は弁護士に任せているので、私から言うことはありません」という説明に終始した。
 この同じフレーズを都民は選挙前に耳にタコができるほど聞いてきた。この弁明は舛添氏のセリフと瓜二つであり、鳥越氏も舛添氏と同じで当事者能力がなく、逃げ回っているというイメージを与えてしまった。この辺の対応も誰が考えたのか知らないが、政党幹部の市民感覚のなさが、都民から見放されていった。
 この点についても宇都宮健児氏は、鳥越氏の応援演説をしなかった理由(日刊スポーツ8月1日)文書でこの問題の解決を鳥越氏に迫った経過が載せられています。(7月27日、7月28日)その文書の最後の結びは、「私はこれまで多くの人権問題に携わってきました。その原則をここで曲げることはできません。鳥越候補がこれまでの対応を撤回せずに説明責任を果たされないとすれば、きわめて遺憾ではありますが、都民に対してあなたを都知事にふさわしい方として推挙することができず、応援に立つことはできません」とつづった。とされています。

鳥越氏の政策はなぜ駄目であったのか?

 第1の問題は、都知事選挙の争点と全くかみ合わない政策を語っていた。第2点はかみ合わないだけでなく、ピントが全くハズレの政策「ガン検診受給率100%」を打ち出した。第3番目は、政策そのものが熟考されたものと思われない物であった。第4点目は、「改革」か「守旧派」かの意識が全くない政策であった。

 もう少し具体的に見ていくと、
 第1の都知事選挙の争点であるが、この間猪瀬氏、舛添氏と二人の知事が、本人のお金の問題で辞職し、都民の要求は開かれた都政への改革であった。
 小池氏は情報の公開制度の導入や伏魔殿と言われる議員たちと戦う姿勢を示したが、鳥越氏はどのように都政を変えるかの具体的な言及がなかった。例えば、「環境によし」と掲げながら、「築地市場移転問題」は宇都宮氏から引き継いだ重要な政策であったが、鳥越氏は、彼の政策からこれを放棄してしまった。
 2番目の「ガン検診受診率100%」は、医療政策の中の一課題に過ぎず、これが都知事選挙の争点とは、どう考えても理解できない、全くのピンボケの政策であり、当初これしか彼の政策が無かったことから考えてみてもトンデモナイ大失敗である。
 3番目の政策そのものが熟考されたものでなく、思い付きであることを暴露したのが、鳥越氏の政策の柱「『住んでよし』『働いてよし』『環境によし』を実現する東京を!」途中で『学んでよし」の4点目を入れた。これでは思い付きだとまるわかりである。
 4番目の問題は、求められているのは、「改革派」か「守旧派」であるかであるが、小池氏は改革派に写り、鳥越氏は守旧派の見えてしまったことである。
鳥越氏の掲げた政策は抽象的であり、政策が何もないのと同じである。この政策の基本的思想は大阪府知事選んで共産党が掲げた政策「安全・安心・やさしい大阪」と同じ発想である。都民の求めているのは、どうすれば良くなるのかその処方箋である。
 小池氏は「与野党両陣営の候補者選びの遅れを突き、むしろ都議会自民党との対決姿勢を強烈にアピールして幅広い支持を集めた。党の推薦を得られぬ逆境を追い風に変えた運命逆転である。」この敵を打ち倒せば都民の生活は変わりますという具体的プログラムを示してくれているのに、鳥越氏は、抽象的(「住んでよし」など)に言うだけで、どうすればその社会が実現できるのかプロセスを示していない。ここにこの政策の最大の弱点がある。

攻撃に対する対応を間違うとまさに窮地に陥る。小池氏は逆転の発想で攻撃を利用した。

 これも先の2日のテレビのコメンテーターの話でできすぎているように見えるが、小池氏が勝利した最大の原因は敵失によるものだと解説した。
 最初は、自民党本部と東京都委員会連盟の選挙戦での党員の綱紀粛正の通達である。石原伸晃と都議会のドン(?)幹事長連名で、今回の選挙で自民党の推薦候補以外の候補を応援したら、本人だけでなく一族郎党の誰が行っても、党員として処分される。この江戸時代を思わす前近代的通達が、都民の反感を買った。
 第二に山は、石原慎太郎の「大年増の厚化粧の女」という演説が行われ、それを聞いていた増田氏がエヘラエヘラ笑っている映像が流された。これで多くの女性票が小池氏に流れたと説明していた。
 この話はできすぎた話ではあるが、一番言えることは、この敵陣営の攻撃を小池氏は見事に打ち返し、まさに自分に有利に展開していく作業ができる力量を持っていた。これが政治家というものである。
 鳥越氏は逃げたという印象を与え、降りかかる火の粉を自分で払わなかった。大阪の橋下氏はそのような記事が週刊誌に出たとき自分の力で火の粉を振り払い、全くダメージにならず、むしろ陣営を固めていった。これが政治家である。

最後に今回の都知事選挙の主役、小池劇場の彼女の名セリフを上げておきたい。

 なんといっても彼女の最大の名セリフは「風はよむものではなく起こすものだ」と答えたことだ。今回の彼女の選挙での勝利はこの言葉に凝縮される。すべては仕組まれた小池百合子劇場であった、その最初の舞台は、自民党に推薦を依頼しながら、自ら推薦を撤回した。ここで彼女は、崖から飛び降りたと決意を述べ、悲劇の主人公に躍り出て、自らをジャンヌダルクだと位置づけた。
 この表現に対してピンボケの増田は、小池百合子が崖から飛び降りたのでは高さが足りない。私はスカイツリーから飛び降りたと表現したが、この一言だけをとってみても、東大法学部出身の官僚の馬鹿さ加減が伺われる。(この増田の発言を聞いて飛び降りた高さが違うから増田の方が上だと思った人は皆無だと思う。それよりこの程度の人間と思った人の方が多いと思われる。)
 小池百合子の名言第2は「私は広がりを求め、自民党は締め付けを行った。ベクトルが全く反対であった。」選挙は締め付けで勝てるという自民党・公明党の古い体質を言い当てたものであり、彼女は広がり、まさに風を起こしたのである。
 上記と同じであるが、「あちらは徴兵制、私は志願兵ですからその士気が違う。」とも言った。

【映像から見た違い】
 2日のテレビでは、小池氏がなぜ躍進したのか、映像から垣間見られる姿を流していた。なかなか選挙中には見られない面白い映像であった。

小池氏の当意即妙の上手さを流していたが、選挙戦では重要な武器になる。

 この間の選挙戦を見れば、小泉純一郎氏が主張した「自民党をぶっ潰す」というようなスローガンが受けている。橋下維新も公務員攻撃を行い、自らを改革者に位置付けている。安倍首相のポスターでも「前進」という言葉が大きく書かれている。この間の選挙の最大の争点は「改革派」か「守旧派」か、で争われている。
 小池氏は東京都という守旧派の権化みたいなお城へたった一人で立ち向かう正義の使者として自分を描き出したそこに最大の勝因がある。(しかしこれは全部嘘である)
 たった一人の戦いでは、ポスター(1万枚以上)貼ることもできない。今度の選挙では
 明らかに小池百合子氏を担いでいる組織がある。自民党が別動隊を組んでいるのか、電通がやっているのか、それとも「日本会議」が動いているのか私には分からないが、誰かが「絵をかき」、それを組織的に実行した。小池氏は舞台上の主役でしかないが、彼女は見事に演じきった。そこに彼女のすごさがある。
 映像では、自民党の通達を利用した「悲劇の主人公の演じ方」または、石原慎太郎の「大年増の厚化粧」に対しては、私は顔にあざがあり、それを隠すために厚化粧をしていると観客の同情をかい、あくる日には、「今日は薄化粧で参りました」あるいは「エールをいただいた」と相手の攻撃に真っ向から戦うのでなく、うまくかわしながら支持を拡大していった。
 これはオウム真理教の上祐氏の巧みな話術が、「ああいえば上祐」という言葉まで生み出され評価されたが(嘘八百という意味も含むが)、政治家として必要な能力である。橋下徹氏もこの話術に長けている。

 鳥越氏については、集会に参加した老人が怒っている姿が映し出された。せっかく来たのに候補者の話が1分も無いという話や、他の候補は汗びっしょりかいてやっているのに、鳥越氏は大きな日傘に守られていると批判している姿が映し出された。
これは鳥越氏の政策面での怪しげさや、体力面での心配を暴露したものであった。 
 増田氏に至っては、石原伸晃をはじめ応援弁士が、ことごとく「増田ひろや氏」の名前を間違えるという無様な光景を流していた。また街での演説の反応も乏しく、増田氏が街頭で握手を求めても、相手が「だれ?だれ?」と後ずさりする姿や、石原新太郎の小池氏に対する中傷発言「大年増の厚化粧」という発言を隣で喜んでいる姿が流されていた。
 増田氏が信頼した自分の支援組織のいい加減さが暴露されていた、最終的には身内が足を引っ張った選挙であったという映像を流していた。

 選挙後にしか見られないこれらの情報は面白かった。これらの情報を参考にしながら、誰が優位化の判断をマスコミなどはしているのであろう。裏側を見るのも面白い。
 野球の野村監督の名言「勝ちに不思議な勝ちはあるが、負けに不思議な負けはない」私はこれは名言だと思っている。野党共闘の問題点や、敗因の理由をしっかり分析し学ばない(週刊誌のデマ宣伝で負けた)というような総括をしている限り、未来は切り開けないだろう。