イスラム国による殺害警告について国内世論と共産党


平成27(2015)年1月25日



「イスラム国」事件(殺害警告)をどう見るかについて二つの潮流

 この件については現在二つの大きな潮流がある。安倍首相中東訪問と今回の事件は全く関係なく、日本政府は中東の難民支援の為に2億ドルの提供を申し入れただけであり、あくまで人道支援のための行為である。
 安倍首相が中東に行ったことが事件の引き金になったのではなく、今回の殺害予告は「イスラム国」というテロ集団が、誘拐ビジネスを行っているだけで、彼らの主張に耳を貸してはいけないという政府よりの主張、政府や大手メディアの主張がある。(残念ながら赤旗もこの立場である)
これに対して、安倍首相は中東外交を誤り、「イスラム国」を敵視し、イスラエル寄りの姿勢を鮮明にし(イスラエルの国旗の前で今回の中東外交が人道支援を目的としたものと演説した)、中東の多くの国を敵に回してしまった。元々中東政策は、日本は珍しくアメリカ追随でなく独自の立場で接してきた。そのため中東諸国から好意的に見られていたが、今回の安倍首相外交的立場は、明確にイスラエルよりであり、反「イスラム国」の立場を鮮明にし、中東の怒りをかった。これらの主張は主にインターネットを中心に流されている。

政府の言論統制が行われている?

 今回の事態を見て、日本人が人質に取られている現状で、人命救助が最大の課題であるから、「イスラム国」を刺激するような発言(記事)を控えて欲しいと政府からの要請があるのであろうが、全てのマスコミが安倍外交を批判せず、「イスラム国」がテロ集団だと批判し、身代金を絶対渡すべき得ないという主張をしている姿には恐ろしいものを感じる。
 戦争中の大本営発表が異常なものに見えたが、今回の事態を見て、「人の命がかかっている」といわれれば、マスコミは簡単に政府よりの主張をする、こんなに簡単に言論統制ができることに驚いた。しかも私が一番驚いたのは、赤旗までが安倍外交の失敗を批判せず、ともに頑張りましょうというような記事を書いていることに大きな失望した。(注1)
注1:1月22日付け赤旗3面【社会】は一面を使って「イスラム国」の特集を行っ
  ている。
   その最後の締めくくりは「国際社会は『イスラム国』根絶につながらないば
  かりか、一般の人を巻き込んで新たな憎しみを増幅させる軍事的対応を控える
  とともに、関係国が強力な協力体制を築いて過激派組織を孤立させ、テロの芽
  を摘むことが何よりも求められています。」この主張は、エジプトで安倍首相
  が行った演説に瓜二つである。
   安倍首相は、2億ドルの援助を「イスラム国」の影響力を押さえ込むために
  援助すると主張し、「イスラム国」から日本は十字軍に参加したと認定されて
  しまった。赤旗のいう関係国とはどの国を指すのか、アメリカやイギリスを指
  すとすれば、まさに十字軍の一員(安倍首相の狙い)に手を貸すことになる。
   そもそも日本国は「『イスラム国』の根絶を狙っているのか」、中東におけ
  る紛争についていつからその旗印を明確にしたのか、「イスラム国」がテロを
  多発し、今回のような誘拐を行い殺害警告で金銭を要求する行為を批判するの
  は当然だが、その「根絶」を狙っているのか、例え日本国がそのような立場だ
  としても、共産党もそれを支持するのか、自らの立場を明確にすべきだ。

二つの潮流の中の右翼的な潮流の代表者青山繁晴氏の主張

 今回の事件を最も政府よりで発言している青山氏の話を聞けば、政府の狙いが良くわかる。21日のフジ系列関テレで独立総合研究所青山繁晴が今回のイスラム国人質事件の解説を行った。この内容はまさに安倍首相の狙いを包み隠さず晒しだした。
 彼の主張は一言で言えば、憲法改正との関連でこの話を行った。さらにそれは橋本維新との連携でなされ、公明党の政治的影響力を押さえ込むことを安倍首相は狙っていると指摘した。今後の最大の政局は5月17日大阪都構想の賛否を問う住民投票が山であり、これを安倍氏が支持し実現させ(公明党と同じように中央が動き)、安倍・橋本で憲法改正を行うというものであった。
 そして「今回の事件は、初めから予測されていたものであり、十分シミュレーションを行い、例え身代金を要求されてもビタ一文払わないことを最初から決めていた」と彼は語った。 
 もう少し具体的に言うと
@人質救出のために政府は一円あるいは一銭たりとも出すつもりはない。これは中東訪問の前にすでに確認している。(Bに書いたが人質がいることを知っており、このような事態が起こることを予測していた。逆に予測していないとすれば、日本の外務省は全く無能だということになる。)
Aマスメディアやネット上で安倍総理の発言が原因ではないかとの批判があるが、安倍総理に一切の責任は無い。
Bその理由として、政府は昨年11月から2人の人質は知っておりテロリストは何かのきっかけで身代金の要求を考えていた。
Cだから国民に選ばれた総理が中東に訪問して発言したことが原因という批判をすることは、彼らテロリストたちのストーリに乗ってしまうことになる。
 (このABCのストーリで日本のメディアは押さえ込まれほぼ同じ【主張】を出した。) 
D1977年のダッカ日航機ハイジャック事件で、日本が身代金を払ったことで世界のテロの問題を作ってしまった。テロリストが身代金を要求するのはこの福田総理の誤った判断にある。そこで日本は世界から批判されている。今回の事件で簡単に金を払うイメージを払拭しなければならない。(これを狙っていた。チャンスだ。・・・ここを青山氏は最も力を入れて喋っていた。)
E2億ドル支援についても、イスラム国を壊滅させる為に金を出すとは言ってない。イスラム国と闘う周辺各国に2億ドル支援の約束をしただけだ。(青山氏も「壊滅させる」とは言っていないと言っているのに、先に述べた赤旗は「根絶」という言葉を使っている。)

 彼が述べたのは、世界から孤立していた日本が、今回テロリストと交渉しないことを世界に宣言し、日本国の信用を回復するいい機会である。ここで頑張れば日本は有志国の一員になれる。更には、国民に決意を促す(「平和ボケではダメ」なのだ)というのが青山繁晴の主張である。つまり、安倍首相は憲法改正を狙っており、そのための準備(世界との環境調整)と国民の意識の変化を勝ち取ることに乗り出した。この行為は正しいというものであった。
(これは後に述べるが海外メディアもこのように捉えている)

日本のメディアは死んだのか?大本営発表の読売・毎日・朝日+赤旗。

 以下各紙の【主張】を拾い読みしてみる。
◎読売新聞
「イスラム国」 人質の殺害脅迫は許されない(2015年01月21日 01時05分)
 「イスラム国拡大を防ぐ訓練費用」の1億ドル供与と合わせて、身代金額を算出したとしている。身勝手で筋違いな要求だ。
 安倍首相はエジプトでイスラム国対策の2億ドルの支援を表明したが、それは避難民向けの食料や医療など人道援助が中心だ。あくまで非軍事活動に徹している。
 安倍首相は記者会見で、「人命を盾にとって脅迫することは許し難いテロ行為であり、強い憤りを覚える」と強調し、人質2人の早期解放を求めた。「人命尊重」の観点で対応する方針も示した。
 不当な要求に応じれば、日本がテロに弱いとみなされる恐れがある。テロ組織を勢いづかせ、同様の事件を引き起こしかねない。
 菅官房長官が「テロに屈することなく、国際社会とテロとの戦いに貢献する我が国の立場に変わりない」と語ったのは当然だ。

◎毎日新聞
「イスラム国」人質 早期解放に全力挙げよ(毎日新聞 2015年01月21日 02時34分)
 恐るべき事件と言うしかない。安倍晋三首相の中東歴訪(エジプト、ヨルダン、イスラエル、パレスチナ)中に、イスラム過激派「イスラム国」を名乗る組織が日本人人質2人の身代金2億ドル(約240億円)を要求し、応じなければ72時間以内に2人を殺害すると予告したのだ。
 首相へのメッセージとして誘拐組織は、日本は「イスラム国」に対する「十字軍」(米欧)の戦いに加わり、「背教者」の訓練を支援して計2億ドルを拠出したため2人の解放には2億ドルかかると説明したが、支離滅裂な論法と言うしかない。そもそも人命を盾に取った卑劣な脅迫には何の大義もない。
 安倍首相は確かに訪問先のカイロで演説し、「イスラム国」対策として近隣のイラクやレバノンなどに2億ドルの支援を表明した。だが、その内容は「イラク、シリアの難民・避難民支援」や「地道な人材開発、インフラ整備」など非軍事的な色彩が強く、「イスラム国」との戦闘に力点を置いた支援ではない。
 中東の石油に依存する日本がアラブ・イスラム圏との関係を大事にし、米欧とは異なる平和外交を推進してきたことは広く知られている。日本が「十字軍」に加わったという主張は、言いがかりか日本をよく知らない者たちの一方的な決め付けと言うしかない。

◎朝日新聞
(社説)イスラム国 許しがたい蛮行だ(2015年1月21日05時00分)
 人命の重みを顧みず、国際社会に恐怖を与えて優位に立とうとするふるまいは、身勝手で、許されるものではない。「イスラム国」はすみやかに2人を解放すべきだ。
 今回の事態は、「イスラム国」の脅威が遠い世界の出来事ではなく、日本と直接つながりがあることを如実に示した。
 ビデオの中で脅迫者は、中東訪問中の安倍首相が2億ドルを「イスラム国」対策として避難民支援にあてると表明したことに矛先を向けた。首相の中東訪問のタイミングを狙った脅しとみられる。
 しかし、日本からの医療や食料の提供は、住んでいた街や国を追われる人たちが激増するなかで、不可欠の人道的な援助である。「イスラム国」に向けた攻撃ではなく、脅迫者たちの批判は筋違いだ。
 安倍首相は記者会見で「許し難いテロ行為に強い憤りを覚える」と述べ、中東地域の平和や安定を取り戻すための非軍事の支援を続けていく意思を強調した。毅然(きぜん)として向き合っていくべきだろう。
  
◎赤旗 2015年1月22日(木曜日)
 昨年9月24日にも「イスラム国」対応のための国連安保理首脳級会合が開催され、テロ組織の活動拡大を阻止するためのさらなる措置で合意しています。
 中東地域では「対テロ戦争」という名の武力介入が、民間人の犠牲を広げ、憎悪を拡大し、逆にテロの温床と口実をつくりだしてきました。こうした経過も踏まえ、「イスラム国」の蛮行を支える人的資源、収入源を断つ国際的努力が強く求められています。

 赤旗の主張は、「『対テロ戦争』という名の武力介入が」と書いていますが、誰が介入したのか主語を抜いています。また「『イスラム国』の蛮行を支える人的資源、収入源を断つ国際協力が求められている」と書いて、青山氏や政府が主張する「ビタ一文」出さないという主張を支持しています。

◎日曜版
 日曜版もこの問題をあっさり扱っている。これだけの紙面がありながら(34面)2面の3分の1ぐらい使い、まず一般的な記事(時事通信などの記事)を載せているため、その内容は、安倍首相はエルサレムで「人命第一」で対応すると述べました。というような提灯記事になっている。さらにその横に「卑劣な行為は許されない」という山下芳生書記局長の全く無内容な談話「テロ集団による卑劣な行為は絶対に許されない。政府として、情報の収集、事件解決のためにあらゆる努力を求める」を載せています。

◎大阪民主新報
 大阪民主新報は、「イスラム国」問題を全く触れていません。大阪民主新報の記事は一面大見出しで「橋本市長、安倍首相 憲法改悪へ意気投合」縦見出しで「都構想は改憲の予行練習―橋下氏、維新の党に協力を得体―安倍氏」と掲げていますが、先に述べた青山氏は、「イスラム国」問題で、すでに安倍首相は改憲に向かって走り出していて、その狩場が5.17の都構想の住民投票と言っているが、共産党はそれに全く気がついていない。

共産党が大本営発表になびいている間に、メディアに変化が表れ始めた。


古賀茂明氏の主張(安倍氏の進める「海外で戦争できる国」づくりに反対)

 23日のテレビ朝日のニュースステーションに「大阪府市統合本部」の顧問で橋下市長のアドバイザーであった元経済産業省官僚の古賀茂明氏がゲスト・コメンテーター三人の内の一人として参加していた。話が「イスラム国」問題になり司会者の古舘一郎が他の二人と話をしていたが、古賀氏はうつむき加減で話に加わらず、何か元気が無いように見えた。
 ところが古舘氏が、「この問題について古賀さんは何か違った考えをお持ちだと聞いているが」と古賀さんに話を向けたら、古賀さんがボソボソと話し始めたが、その内容がすごかった。
 まず、「『イスラム国』が行っている数々の蛮行は許せないが、歴史的に捉えていく必要があると話し始めた。第2次世界大戦終結後、この地域でアメリカやイギリス、フランスが利権を求めてこの地域に軍事介入を行い、様々な問題が引き起こされてきた。そういう意味では『イスラム国』の主張には耳を傾ける必要もある。」というような前置きを語った上で安倍総理の今回の行動を痛烈に批判始めた。
 それは、安倍首相が、今回の中東訪問に行く前に、既に後藤さんの『イスラム国』による拘束を外務省は知っており、身代金の要求があったのも知っていたはずだということ。
 また、それ以前に湯川氏が拘束されていることも知っていたはずだ。であるならば、このタイミングで中東に日本企業の代表団を含め、多数で乗り込み、イスラエルなどを訪問し、なおかつエジプトで、『イスラム国と闘っている国々を応援する』といいながら、2億ドルの援助を約束することは、まさに『イスラム国』に対して、『挑発』以外の何物でもないのでは?
 このように、今回、「安倍氏の演説の直後に『イスラム国』が二人の拘束と、『殺害警告』の映像をインターネットで公開したのは、安倍首相の政治責任が非常に大きい」ということを強調していた。
 古舘氏は、古賀氏の話を、多少いなすように『古賀さんと違った見解をお持ちの方も多数いらっしゃるでしょうけれど…』と少しはぐらかすようなあいの手を入れたが、古賀氏は、自分の信念を語り続けた。
 元通産官僚であった古賀氏がこのような発言を行ったのにはビックリした。テレビ朝日側から見れば「放送事故」のような報道であった。
 巷では古舘伊知郎氏の更迭が囁かれる中、二人で共同して「最後っ屁」をかましたのかも知れない。しかしこの古賀氏が述べた意見こそが常識的な見方であり、基本的に正しいと思われる。
 先に述べた青山氏の発言からも伺われるが、安倍首相の推し進めようとしている路線は、欧米の大国と肩を並べる日本を追い求めており、『有志連合』の武闘路線の仲間入りが最終的な目標であるが、今回は2億ドルの経済援助で、仲間入りの意思をアピールしたのである。
 しかも重要なことは、「イスム国」に2人の人質がすでにいることを知った上で、このような事態が起こることも想定しながら、安倍首相は「大国としての日本を取り戻す」為に今回敢えて中東訪問へ踏み切ったと思われる。古賀志の告発は、この安倍首相の行為を許せないという強い思いで身体いっぱいに怒りを込めて冷静に話されたように見えた。

青山繁晴氏の主張が正しいのか、古賀茂明氏の主張が正しいのかこの見極めが必要

 この番組の古賀氏の発言を聞いて、今回の「イスラム国」の蛮行をどう捉えるかの二つの議論が一般大衆も知ることになった。(今日までは、大手メディアは大本営発表に徹してきたが、それだけでは国民の批判に耐えられない)
日本もいよいよ「海外で戦争できる国」づくりの岐路に立ちつつある。古賀氏がその重要性を告発してくれた。

古賀志の発言を受けて、メディアも変化の兆しが伺われる。

 24日(土)毎日新聞朝刊は、3面で「糸口なき延長戦」「日本人殺害脅迫」という記事を載せ中見出しに「イスラム国接触『難しい』」と「侵略資金提供の日本は敵だ」という「イスラム国」側の主張を見出しに使った。(今までは、安倍首相に言われ、各紙ともに頭から「イスラム国」は勘違いしている、この資金提供は難民救済だと主張してきたが、彼らの主張を載せたことは大きい)
 さらに、6面に「イスラム国とどう向き合う」という特集を組み、3人の専門家を登場させている。これも大きな変化である。「イスラム国」は単なるテロ集団であり、彼らと話し合うことなどありえないという立場をとっていたのが(赤旗もその姿勢)、「どう向き合うか」に変わっている。
 まず寺島実郎氏(日本総合研究所理事長)は最後の括りに「大事なのは、宗教的寛容に立つ『イスラムとの対話だ』。中東に短期的な利害で介入してきた『大国の横暴』に肩を並べるべきではない」とされている。まさに今回の安倍外交を批判したものである。
 次に河本志郎氏(公共政策調査会第2研究室長)は、「突きつけられているのは重い問いかけだ。こうしたイスラム過激派に対する国際的な包囲網に、日本がどれだけ関与し、どういった役割を担い続けるつもりのか。」・・・「欧米各国とは協調はするけれども、中東において独自の立場を持つ日本なりの別のアプローチを探ることはできないのか、ということも含め、覚悟と知恵が求められる。」と主張されている。これも日本が守ってきた中東対する独自のスタンスを安倍首相が否定し、一気に欧米と肩を並べようとしたことを批判している。
 最後に、高岡豊氏(中東調査会研究委員)・・・この方は今回の事件でテレビに出まくっている人である。彼の主張は、「テロの監視に注力を」というもので、「どう向き合うか」という今回のテーマとは違う、今回の事件の背景や、今後どうすれば良いかなど、テレビの発言と同じ内容である。

◎欧米のメディアはこの事件をどう伝えているか

 さらに第7面で、欧米メディアの分析という記事を設け、その見出しは「国際的存在感の向上を狙う安倍首相」という見出しを掲げ、中見出しに大きく「人質事件『必然的リスク』」という安倍首相の「本音」を掲げている
  • @ブリュッセル発、「欧米メディアは、安倍晋三首相が世界で存在感を高めようとする際に避けられないリスクだとの見方を示している」
  • A英ガーディアン紙(電子版)は20日、事件が世界の舞台で存在感を高めようとする」安倍首相の試みに必然的に伴うリスクを『劇的に示した』」と分析した。
    中国や北朝鮮の脅威に対抗するため、米国との緊密な関係が必要と判断した首相が憲法解釈を変え、自衛隊が国際的により積極的な役割を果たせるように動いていると指摘。
     国際的存在感を高めようとする動きが、中東などで米英の外交に近づこうとしているとみなされたと記した。
  • B米インタナショナル・ニューヨークタイムズ紙は21日付の一面で、人質殺害を予告したビデオが「世界で新しい役割に突き進む日本を試している」との見出しで事件を報道。
     平和主義の根強い日本国民が、世界の安全保障でより積極的な役割を果たそうとする安倍首相反対するようになり、官邸を悩ませる可能性もあるとの見方を紹介した。
  • C21日付の南ドイツ新聞は、今回の中東訪問が「(テロリストを)挑発した面もある」との識者の見方を紹介。首相が事件を政治的に利用し、憲法の平和条項をさらに空洞化する可能性もあると報じた。
  • この海外の報道は、今回の事件の見方を日本のメディアの大本営発表と違い、正確に分析し伝えている。おそらく毎日新聞もこの見解を支持しているが、毎日新聞の意見としてこれを発表すれば、権力側に潰される危険性を感じ取り、海外メディアの反応というかたちで事の本質を伝えているのだと思う。
   もう一度思い返して欲しい、日本の大手新聞、読売・毎日・朝日はこの事件を社説でどう伝えたか、読売は「人道援助が中心だ。あくまで非軍事活動に徹している。」、毎日は「日本が『十字軍』に加わったという主張は、言いがかり」、朝日は、「『イスラム国』に向けた攻撃ではなく、脅迫者たちの批判は筋違いだ。」と大手メディアはみんな政府のスポークスマンに成り下がっている。

 ついでにしんぶん赤旗の主張(1/22)は、これら大手三紙よりもされにタチが悪く、その見出しは「人命をもてあそぶ蛮行を糾弾する」であり、欧米諸国の中東政策の批判や、安倍首相の今回の「挑発行為」(上記南ドイツ新聞)を一切批判せず、イスラム国の批判に終始している。(注1)

注1:これは余談だが、この同じ日の赤旗に「イスラム国」の解説記事がある。こ
  の記事でイスラム国の戦闘員の数が書かれており、その内12000名以上が
  イラクとシリア以外の外国人と書いているが、【主張】には15000人もの
  外国人を集めになっている。前回の記事を書いた際私は一般マスコミが150
  00人と言っているが赤旗が12000と言っているのでこちらを採用した。
  (この日【主張】が出ていることに気付いていなかった。今始めて見たが、先
  にも書いたがとんでもない内容である。)

 上記に見てきたように赤旗は大手三紙と比較しても、最も右翼的な主張を行っている。如何に「イスラエル国」が非道であり、世界からも孤立しているかを縷縷述べている。これは単に安倍首相擁護の主張である。テレビに出てくる右翼的な解説者もこの立場で解説しており、「『イスラム国』の主張に一切耳を傾ける必要はない。安倍首相がエジプトで『イスラエル国』を挑発したと言う人がいるがこれは全く関係がない。彼らは単なるテロ集団であり、身代金ビジネスを行っているだけだ」という主張と瓜二つである。
 共産主義者の最も大切な基本的理念、「万国の労働者、被抑圧民族団結 せよ」はどこへ行ったのか(注2)、毎日新聞はすでに「イスラム国とどう向き合うか」という視点を立てている。これこそが、被抑圧民族の思いや願いを聞いてみようという立場だ。アメリカに追随し欧米の中東政策を一切批判しない赤旗の主張は異常と言わざるを得ない。

注2:共産党は第22回大会で規約改正を行い、「万国の労働者、被抑圧民族団結 せ
  よ」という文言を規約から削除した。しかしこの時の説明は規約前文が長く、
  読みづらいので、前文を省略するというものであり、この概念がすでに共産党
  の立場と相容れなくなったとは説明していない。しかし今回の事例を見れば共
  産党は明らかにこの概念を22回大会で葬り去ったと思われる。

最後に赤旗の名誉回復の為に、赤旗24日の記事について触れておく。

 共産党は24日赤旗15面【社会】で、「イスラム国 日本人人質事件」「即時解放」を求める各団体が声明・談話」という記事を載せている。ここに日本ジャーナリスト会議、日本ビジュアル・ジャーナリスト協会、新日本婦人の会の声明等を載せている。これらの声明等は共産党の正式な声明とは違い、安倍政権批判など本来共産党が取るべき内容を込めている。
 文書が長くなりすぎるので、新日本婦人会の声明の要旨だけ記したい。「軍事対応を強める動きでは、解決をいっそう遠ざけるだけ」と指摘。安倍政権に求められるのは、戦争する国づくりを中止し、「いかなる理由でのテロも許さず、異なる宗教や文明の尊重、貧困と格差のない世界と恒久平和の実現をめざし・・」という内容で全そのとおりであり納得できる声明である。
 この新日本婦人の会の声明を載せたということは、共産党もこの立場を支持しているということかは分からない。少なくともこの立場に反対でないことは明らかだが、なぜ共産党からこのような声明が発せられないか不思議である。

追記:25日未明菅官房長官の緊急記者会見があり、湯川遥菜さんが殺されたとする
  動画がインターネット上公表されているとの発表があった。
   この情報の真贋の程はまだ分からないが、大変な事態に突入してしまった感
  がある。