新潟県知事選挙の結果から見えてくるもの


平成28(2016)年10月17日


新潟県知事選、原発再稼働反対 野党候補米山氏当選(共産・自由・社民推薦)


 任期満了に伴う新潟県知事選挙は16日開票され、無所属新人で医師の米山隆一氏(49)=共産、自由、社民推薦=が、前同県長岡市長、森民夫市(69)=自民、公明推薦▽元団体職員の三村誉一氏(70)▽海事代理士の後藤浩昌(55)の三人を破り、初当選した、
 米山氏は、現状での東京電力柏崎刈羽原発の再稼働に反対している。7月の鹿児島県知事選でも九州電力川内原発の一次停止を求める三反園訓氏が当選しており、政府の原発政策に影響を与える可能性が生まれた。

選挙結果
立候補者 得票数 得票率 支持政党
米山隆一 528,455 52.15% 共・由・社
森民夫 465,044 45.89% 自・公
後藤浩昌 11,086 1.09%  
三村誉一 8,706 0.86%  
 計 1,013,291    

事前の与野党の力関係は

 7月の参議院比例代表で、自・公両党の得票は、計50万票を超えたのに対し、民共産・社民・自由(生活)に自主投票の民主党を含めた4党で計34万票あまり、しかも、連合新潟は今回、森氏を支援しており、与党楽観論がでるのも無理はなかった。
政党名 得票数  得票率  与・野党
自由民主党 409,001.58 39.24%
与党
民主党 174,264.36 16.72%
自主投票
日本維新の会 106,823,77 10.25%
 
公明党 94,639.64 9.08%
与党
みんなの党 66,785.31 6.41%
 
生活の党 45,182.92 4.33%
野党
日本共産党 77,964.72 7.48%
野党
社会民主党 42,850 4.11%
野党
みどりの風 6,685.57 0.64%  
新党大地 7,386.68 0.71%  
緑の党 7,072.76 0.68%  
幸福実現党 3,754.33 0.36%  
 計 1042412    

なぜ、上記の様な力関係(劣勢)であるのに野党共闘が当選できたのか?
 これは、この間の選挙で私はいつも指摘しているが、憲法改悪反対、原発再稼働反対の世論は5割を超えており(新潟では6割:新潟日報)ここに照準を合わせて闘いを進めることが重要である。
新潟県の知事選挙は、正に柏崎原発再稼働反対か賛成かが争われた選挙である。もともと、再稼働反対の世論が6割あるのであるから、この人たちを組織すれば勝てるのであり、その戦いが組織されたことが最大の勝利原因である。
 そのことを最も象徴しているのが選挙戦最終版相手候補(自・公推薦)の森氏までもが「再稼働について『問題があればノ−と言う』と踏み込んだ」が、これは森陣営にとって最悪の方針転向であり、事前に負けを認めた事になる。
 選挙戦の最中に新潟日報は、世論調査を発表しているが、その記事の面白さは、原発再稼働反対派6割を超えているとしながらも、同時に新知事に臨む政策という記事も載せている。その記事によると、一位は、医療・介護・福祉24.8%であり、2位は景気・雇用対策21.5%、三位に原発問題への対応20.5%となっている。ちなみに4位は教育・子育て支援対策12.8%である。
これだけ見れば、原発再稼働反対を前面に掲げて闘うのはシングルイッシュ−ではないかと危惧する向きもあったが、小泉元首相が掲げた郵政民営化選挙での戦い方から見れば、総花的な闘いよりも、今回の原発再稼働反対を前面に立てて闘かったことが重要である。なぜなら選挙戦は自ら争点を作った者が勝つのである。
小池氏が東京都知事選挙に当選した際、「風が吹きましたね」という問いに対して「風は吹くものではなく、自ら吹かすもの」だと答えたが、今回の選挙戦が正にこれに当たる選挙であった。
米山陣営が原発再稼働反対で攻性を強め、相手候補も同じ土俵に乗り、最終的には「私も反対する」様な態度を取った。彼は風に乗り遅れないようにと、自説を覆した。この姿勢を取れば必ず敗北する。選挙は、争点を築いた者が必ず勝利する。
 共産党はたいていこの原理が呑み込めず、総花的な議論を行う。26年11月に闘われた衆議院選挙で「5つの争点」を掲げながら、現場の具体的戦いでは5つの争点を全部書けないから、適当に見繕って闘えというような方針が出されていたが、これは明らかに間違いである。例えば安保法制反対等の課題で闘うのは難しいと判断した地区は、消費税値上げ反対のビラだけ撒いているといった頓珍漢な選挙戦になっている。

今回の選挙戦の勝利の画期的な事は、共産党が主軸で野党共闘を行い勝利した点である。

 自・公という強大な敵に立ち向かうには、民進党・共産党・社民党・自由党の全野党が結集しなければ勝てないと思われていた常識を覆し、民進党の公式な参加が無くても共産党と社民党・自由党(生活)の連合でも勝てることを証明したことは大きい。(もちろん民進党は自由投票であったから米山氏の応援に入った議員も多くいるが・・・蓮舫氏も最終盤に入った。さらに新潟は先の参議院選挙で生活の党の森裕子氏が=民・共・社・生=で当選させた実績がある。)
 現在までの野党共闘は、共闘と言えばかっこよく聞こえるが、実際は共産党が候補者を降ろし民主党の候補を推すという姿がその主流であった。共産党が「頭」では闘えないと民進党が主張し、全選挙区「民進党の候補者」でとの圧力があったように見て取れる。今回の結果から見れば、統一候補は民進2、共産1ぐらいでも良いのではないか、もう少し譲っても民進3、共産1ぐらいの割合で野党統一候補を決めるべきである。最低限、直前の選挙で比例区の得票数が共産党の方が優っている選挙区は共産党に譲るべきである。(例えば大阪府等)
 自・公はその点の調整がうまく取れており、自民党は公明党に譲っている選挙区が相当ある。

新潟連合は森民夫氏(自・公候補)を推薦し、労働組合としての堕落を露呈した。

 民進党は連合に引きずられ野党共闘には参加せず、自主投票を選択した。


 今回の選挙戦のもう一つの大きな特徴は、新潟連合が米山氏を推さず原発推進派の森氏を推したことである。さらには民進党がそれに引きずられ、野党共闘に参加しなかった事である。蓮舫氏は選挙戦最終盤に応援に入ったが、これは事前調査で米山氏が有利なことが判り、ここで敗北すれば、民進党は致命的打撃をこうむることを察知して、応援に入ったと巷では言われている。(蓮舫さんらしい勘の冴えである。)
そもそも、労働組合は、労働者の利益を守る団体であって、決して企業の利益を守る団体になってしまってはならない。新潟連合のとった方針は、原発稼働を推進して東電の利益を擁護し、企業の利益拡大が労働者の利益拡大につながるという正に労使協調路線を明確にした労働組合の堕落である。
 労働組合は、労働者の地位向上の為に戦う組織であるが、同時に国民大衆が何を求めているかを察知し、それらの要求も捉えて解決の先頭に立たなければならない。
 新潟日報の世論調査(10月7日〜9日に実施)では、「『柏崎』再稼働反対6割越」(60.9%)あり「賛成」「どちらかと言えば賛成」は計24.2%を大きく上回った。このような状況の中で新潟連合が再稼働賛成に回ったことは、労働組合としては自殺行為であり、連合を基盤とする民進党の今後に不安材料が残る。
 ただ、民進党は自主投票であった為、多くの民主党議員が応援に入ったこと、さらに蓮舫代表が、野党統一候補である米山隆一氏を支援するため、野田幹事長の反対を押し切り急きょ新潟入りしたことは民進党の良心を示す上で効果があった。
国民の中で統一戦線をつくるうえで、労働運動が果たすべき役割はきわめて大きい。この点で、連合指導部の特定政党支持路線と労資協調主義路線という二つの重大な問題点が、深刻な矛盾にぶつかったのが今回の新潟知事選挙の闘いであった。

なぜ森陣営(自・公)は敗北したのか?

 今回の選挙は、原発再稼働反対を求めた新潟県民の勝利であるが、自・公は基礎票で圧倒的に有利だったのになぜ敗北したのか?
 その原因には、自・公の選挙戦術のまずさが垣間見えてくる。テレビで森氏の演説を聞いていたが、私は中央直結だから私の話を安倍さんは直接聞いてくれると演説していた。こんな古いパタ−ンの演説を久しぶりに聞いた。この演説は「自分はバカだ」。と言っているに等しい。私は端に御用聞きであり皆さんの意見を聞き中央に持っていきます。と言っている。知事選挙では自分のビジョンを語らなければならない。
 更に自・公の出したビラがあまりにも醜い。このビラも30年〜40年前のビラの焼き直しである。こんなビラで県民を騙すことが出来ると思っている自・公の政治家の頭の古さに恐れ入る。
 具体的に何が書いてあるか、「共産党・生活の党・社民党がコントロ−ルする県知事を誕生させてもいいのですか?」「赤旗を県庁にたてさせてもいいのですか?」「共産党・生活の党・社民党主導の知事では、県政が大混乱し、新潟県は国から見放されてしまいます!!」(共産党及び赤旗の部分はご丁寧にも赤字で書かれている)
 こんなビラを、大切知事を決める際に撒いている。その政治的センスの無さと旧態依然の自民党の体質には恐れ入る。県民はこんな馬鹿げたビラを信用しなかった。時代錯誤のビラだという事に気付くべきだ、馬鹿げている。

資料1:反共ビラ(県庁に赤旗が立つ)
資料2:謀略ビラ(共産党が発行したビラの形式をとっている)