「慰安婦」問題 日韓が合意:志位委員長の談話の問題点


平成27(2015)年12月30日


「慰安婦」問題 日韓が合意(しんぶん赤旗12/29)の志位委員長の談話の問題点

 12月29日付しんぶん赤旗は、「慰安婦」問題 日韓が合意という見出しを掲げ、日韓の合意を好意的に伝えている。さらに「日韓外相会談について」という日本共産党幹部会委員長 志位 和夫の名前で共産党の見解を表明している。

「慰安婦」問題 日韓合意に対する志位委員長の談話

 日本共産党の機関紙しんぶん赤旗に、志位委員長の談話が載っているのですが、この間の一連の発言(「イスラム国」問題、「パリ同時多発テロ」、「国会の開会式」等)と同じく問題があります。
 一、日韓外相会談で、日本政府は、日本軍「慰安婦」問題について、「当時の軍
   の関与」を認め、「責任を痛感している」と表明した。
    また、安倍首相は、「心からおわびと反省の気持ちを表明する」とした。
   そのうえで、日本政府が予算を出し、韓国政府と協力して「全ての元慰安婦
    の方々の名誉と尊厳の回復、心の傷の癒しのための事業」を行うことを発表
    した。
      これらは、問題解決に向けての前進と評価できる。
 一、今回の日韓両国政府の合意とそれにもとづく措置が、元「慰安婦」の方々の
     人間としての名誉と尊厳を回復し、問題の全面的解決につながることを願
     う。

「慰安婦」問題 志位委員長談話の【問題点】

1.従軍慰安婦問題の急展開は日韓を対中国包囲網に利用しようとする米国の思惑
 がその背景にあることに何ら触れていないこと。(本日付12/30の毎日新聞2面に
 「『慰安婦』合意米が歓迎」「国務長官日韓に関係改善促す」という記事を載せ
 ている。)
2.韓国側のこの問題に対する捉え方の核心は「慰安婦制度が日本の『国家犯罪』
 であるため、日本がこれに対する『法的責任』を明確に認めなければならない」
 というものであったが、今回の岸田外相による声明が、「当時の軍の関与の下
 に、多数の女性の名誉と尊厳を深く傷つけた問題であり、かかる観点から、日本
 政府は責任を痛感している」と発言するのにとどまったことは、日本軍の行為の
 強制性や直接性に触れておらず、河野談話を一歩も踏み出しておらず、むしろ後
 退していることになんら触れていません。(注1)
3.なにより、「元「慰安婦」の方々の人間としての名誉と尊厳を回復」という
 が、元「慰安婦」の方々の意向がまるっきり無視されたまま交渉が妥結した。現
 に、本日(12/30)付毎日新聞、しんぶん赤旗にも、元慰安婦 合意に反発という
 記事を載せている(毎日新聞は一面左端しに載せている)この点をどう評価して
 いるのか?

注1:本日付(12/30)毎日新聞は、「河野談話から後退」という囲い込み記事を載
   せている。
    その内容は、米の韓国系団体KAFC(カリフォルニア州韓国系米国人
   フォーラム)は、声明で、日韓合意について、「(従軍慰安婦の)強制性を
   認めておらず河野談話から後退した。」と批判した。


本日付(12/30)しんぶん赤旗に、「志位談話」の弱点を露呈した記事がある。

 赤旗4面【国際】に「『慰安婦』問題日韓合意」「韓国政府 被害者に説明」という見出しを掲げ、サブ見出しに「『なぜ事前に説明ない』被害者」、「『公式謝罪引き出した』外務省」という記事を載せています。
 記事の内容は、「被害者は私たちなのに、どうして政府だけで合意できるのか。認められない。」あるいは「(韓国政府が)苦労したことは知っているが(日本政府は)法的な基準で謝罪し賠償すべきだ」と述べ『立派な待遇を受けたいのではない。とても残念だ』と心境を吐露。」と書いています。それに対して韓国の外務次官は、「100%の満足はないが、日本政府代表者から公式謝罪と責任の認定引き出したことが合意の意味だ」と繰り返し理解を求めた経緯が書かれている。
 問題は、この記事の締めくくりである。「『ナヌムの家』の安信権(アン・シングォン)所長は、『被害者のおばさんたちは、これまで日本政府を相手にたたかってきたが、これからは韓国政府を相手にたたかわなければならないことになった』と語りました。」で結んでいる。
 これは何を意味するのか良く分からないが、安倍政権が主張する「最終かつ付加逆的」という圧力的な言葉を支持する立場で主張しているのか、もしそうだとすれば、安倍政権の合意内容の全面的支持を表すものである。
 たしかに同じ問題を何回も繰り返すことは避けなければならないが、それは合意が被害者たちに納得されることが前提である。被害者たちが今回の合意を受け入れていない中で、
 もう日本には関係ない、まだ不満が残るのであれば、それは韓国政府に言ってくれと主張している記事に読める。読売新聞等はこの立場を明確に表明している。(注2)
 
注2:●読売新聞【社説】(12/29)「慰安婦問題合意 韓国は「不可逆的解決」を
    守れ」
     大切なのは、日韓共同の新基金事業を着実に軌道に乗せるとともに、韓
    国が将来、再び問題を蒸し返さないようにすることだ。
     その主たる責任は無論、韓国側にある。かつて金大中、盧武鉉両大統領
    らが歴史認識に関して「今後、過去の問題は出さない」などと明言したの
    に、国内世論に流され、態度を翻した。からだ。
   ●日本経済新聞もほぼ同じ立場に立っている。2015/12/28 21:23
     日韓合意を本当の最終的な解決につなげるには、日韓双方の努力が欠か
    せない。韓国にとっては、合意内容を丁寧に説明することで元慰安婦や支
    援団体を納得させられるかどうかが大きな課題となる。

 赤旗の記事は読売新聞や日本経済新聞と同じ立場を主張したものではなく、「日本の不可逆的合意」という押し付けが、被害者の心を踏みにじっているという立場から「今後は日本と交渉できない」と批判的に書かれたと読む人もいるかも知れないが、この韓国政府の被害者に説明した会談の内容を韓国のマスコミや、日本一般紙の記事と見比べれば、共産党が被害者に寄り添わず、安倍首相に擦り寄っている姿が浮き彫りになる。

まず韓国の新聞はこの会談をどのように伝えたかを見てみたい。


●【ソウル=藤本欣也】韓国の聯合ニュースによると、日韓両政府による慰安婦問題の合意について、元慰安婦の李ヨンスさん(87)は28日、「慰安婦被害者たちのために考えていないようだ」「(会談結果を)すべて無視する」と強い不満を表明した。
 元慰安婦が暮らす「ナヌムの家」の安信権(アン・シングォン)所長も「被害者たちを無視した政治的野合だ」と非難した。

●<韓日慰安婦交渉妥結>被害女性ら「満足できなくても従う」「全て無視する」
中央日報日本語版 12月29日(火)14時17分配信
 この日の交渉結果を共に見守ったナヌムの家のアン・シングォン所長は「被害当事者であるおばあさんたちの意見が徹底的に排除された両国間の合意なので、おばあさんたちが正式に認めるのかどうかはもう少し確認してみなければならない」として「今回の合意文には被害者の意見が反映されなかったが有効なのかも確かめてみなければならない」と話した。
 アン所長は「生存している46人のおばあさんたちが各地に散らばっており公式の立場は今後46人のおばあさんと会って議論した後に明らかにする」とした。

次に「慰安婦」問題に対する日刊の合意について日本の新聞を見てみたい

●西日本新聞=2015/12/30付
 【ソウル植田祐一】韓国政府は29日、慰安婦問題の日韓合意を受け、元慰安婦の説得に着手した。外務省幹部が元慰安婦らの支援施設に出向き、合意内容を説明したが、元慰安婦からは「被害者は自分たちなのに、なぜ政府が合意するのか。認められない」などと反発が相次いだ。
 一方、韓国政府当局者は記者団に対し、日本政府が「責任の痛感」「おわびと反省」を表明したことに関連し「日本側がこれに反する行為をすれば合意違反になる」と指摘。日本の閣僚らが元慰安婦を傷つける発言をすれば、合意にある「不可逆的な解決」にならないとの認識を示し、日本側をけん制した。
 また、国会では最大野党の「共に民主党」(新政治民主連合から改称)が「日本の植民地支配と反人道的行為に免罪符を与えた」と合意を批判し、朴槿恵(パク・クネ)政権の謝罪と尹炳世(ユン・ビョンセ)外相の罷免を要求した。
 この日、ソウル市内の韓国挺身(ていしん)隊問題対策協議会の施設を、外務省の林聖男(イム・ソンナム)第1次官が訪問。林氏が合意内容を説明しようとすると、元慰安婦たちは「私たちには何も言わず、政府同士で妥結とはとんでもない。まだ妥結などしていない」「安倍(首相)が出てきて謝罪し、法的賠償をするべきだ」などと強い口調で訴えた。
 ソウル郊外の元慰安婦支援施設「ナヌムの家」では、趙兌烈(チョ・テヨル)第2次官が「合意前に相談できず申し訳ない。みなさんの傷を癒やし、名誉を回復する措置に全力を尽くす」と理解を求めたが、面会した元慰安婦たちは「合意は認められない。(韓国)政府は間違っている」と突っぱねた。
 これらの新聞等の報道を見ると、「ナヌムの家」の安信権(アン・シングォン)所長は明確にこの日韓合意に反対されていることが分かる。共産党の赤旗での取り上げ方は、彼が誰を相手に戦って良いのか分からず途方に暮れている人のように描かれている。
 そして、この日韓の合意が元慰安婦の方々の支持も得て、友好的に成立したかのように描き、安倍政権に賛美を送っている。
 慰安婦問題では日本の政党の中では最も慰安婦に寄り添い発言してきた共産党が、最終局面では、アメリカに圧されて不本意ながら妥結された日韓の合意を手放しで賞賛して、「ナヌムの家」の安信権(アン・シングォン)所長の発言まで歪めて利用する共産党の姿は理解に苦しむ。