藤野政策委員長の更迭は仕組まれた芝居(現行憲法下での自衛隊容認への布告)


平成28(2016)年7月14日 



 このページは投稿欄の「元党員 B」さんの投稿に対する私の意見を述べたものです。投稿は、「参議院選挙結果について、私の意見を述べます。」という見出しで、1.政策委員長更迭自体は妥当では?、2.戦争法関連の訴えが弱い、3.党本部へという三つの課題で構成されています。それぞれの課題に対する私の意見を書いてみました。できれば読んで見てください。

1.政策委員長更迭自体は妥当では?

 この問題は、私の意見は違います。「共産党は憲法と自衛隊の問題で今後守勢に回る」と思います、それは今回の藤野発言の処理を間違えたからです。
 次回衆議院選挙で、安倍首相は、「共産党は自衛隊を違憲だと言い、国民の安全安心を守らない政党だ。こんな政党に政権が任せられますか」と攻撃をかけてくると思います。
 なぜなら、藤野政策委員長の発言は間違っていたとお詫びしたからです。その際の言い訳に共産党は自衛隊全体を否定しているのではない、あくまで安保法制(戦争法案)以降の海外派兵用の兵器、高い殺傷能力を持つもの、敵基地攻撃能力を持つようなものなど、日本の国土を守ることから逸脱したようなものについては削減の対象と、一貫して党の政策では求めている。共産党として削減すべき防衛費は示している。」と主張したからです。
 この言い訳(主張)では、安倍首相が推し進めた安保法制(戦争法案)反対の立場は明確になりますが、それ以外の自衛隊の戦力は認めたことになり、従来から共産党が主張していた、自衛隊は違憲であり、解消を目指すという主張の放棄につながります。安倍首相は共産党に自衛隊の存在を認めさせるところまで追い込み、憲法9条改憲反対の勢力を抑え込もうとしています。

 今回のお詫び会見での共産党の主張は、自衛隊に対する従来の主張から一歩後退し、現在の自衛隊の存在は認めるということを明確にした。さらに自衛隊には災害救助で大きな役割を果たしていることは評価していると認める発言を行い、暗に国防軍としての自衛隊の必要性を認め、災害救助での役割は評価している。ただ専守防衛でない海外での戦闘能力は認めないというのが共産党の基本的立場だと、藤野政策委委員長の舌足らずの発言を逆手にとってお詫びするようなふりをしながら、共産党の自衛隊に対する政策を憲法違反ではあるが現状の自衛隊容認派へこっそりと一歩推し進めた。
(共産党は自衛隊容認派に仲間入りしたいという姿勢を初めて見せた。)

 これだけでは、従来の主張とどこが違うのか、やや不鮮明なため「どこが違うのか」と突っ込みが入れられそうなのでもう少し丁寧に解説する。
 防衛費については、1976年11月に三木内閣によって閣議決定されたのがGDPの1%以内の枠に納めるというのが日本の国是であった。共産党も防衛費の拡大に常に反対し1%枠を守るように常に要求してきた。
 しかし、政府は2015年度の防衛予算を前年より1697億円増やし、5兆545 億円とする事で、防衛費がGDP比1%を超えました。明らかに日本は軍拡路線に舵を切ろうとしています。
 日本共産党の自衛隊に対する政策は、あくまで自衛隊の解散であり、それには国民の合意という作業が伴い、時間を要するが、最終的には解散させるというのがこれまでの共産党の方針です。
 これは何を意味しているのか、国際社会で日本は自衛隊を保持しなくても、平和に安定的に存在でき、国民の安全安心が守れるというのが共産党の基本的立場です。(どのようにすれば、これを実現できるのか、共産党は国民にキチット説明する必要がありますが)
 今回は藤野政策委員長が共産党の政策を理解せず間違った発言を行ったというデッチアゲを行いその謝罪会見という形で、こっそり共産党の自衛隊政策の変更を行っています。
 その主要なポイントは

1.自衛隊の位置づけ

 【基本的立場】違憲の存在であり、解消を目指す。
 国民の合意での憲法第9条の完全実施(自衛隊の解消)に向かって取り組みを推し進める。

【謝罪の内容】専守防衛という限りにおいては現憲法下においてもこれを容認する。
 自衛隊の災害時の活動などを積極的に評価し、軍隊としての自衛隊については、海外で戦争できる軍事的装備等には反対と主張し、安保法制(戦争法)実施以前の専守防衛に徹した自衛隊については、違憲ではあるが否定はしない。(現状では容認する)ただし、共産党が政権を取った場合には、解消に向けて努力する。という方針にすり替えた。

2.この政策返還を、藤野政策委員長に詰め腹を切らせ実現しようとしている。

 【共産党の謝罪会見の問題点】攻撃者の主張を全面的に認め屈服した。(白旗を上げた)
 藤野議員の発言は、「人を殺すための予算ではなくて、人を支えて育てる予算を優先する改革が必要だ」と発言した。戦争に一貫して反対してきた、共産党の幹部として、まさに正当な当たり前の発言である。にもかかわらずこの発言の揚げ足を取って騒いだ「こころ」や自民党・公明党の批判に対して真っ向から戦うのでなく、共産党中央は、それらの批判者の立場を擁護し藤野政策委員長の発言が党の政策と全く違う発言であったと藤野議員に発言させ、政策委員長を更迭した。
 
【記者会見での質問】記者(質問者)は別に問題はないのではと疑問を呈した。
 表現の仕方の問題だったという気もするが、どこが不適切だったのか?と記者が聞いている。
 それに対する藤野氏の発言は「防衛費全体が削減の対象ではなく、そのうちの専守防衛でないような海外派兵型の部分について削除して暮らしにまわすべきだと党は主張している。私の発言はそうした党の方針とは全く違う趣旨になっている。中身が問題だ」と彼は答えている。(答えさせられている)
 
【藤野議員の回答は極めて不可思議である】藤野議員の主張を抑え党の見解をしゃべらしている。
 私はこの回答は、解放同盟の糾弾にさらされ、本位でもないのに差別発言をしましたと答えざるを得なかった人を思い浮かべる。(産経新聞にその場の写真が出ているが、小池氏は堂々と胸を張っているのに対して、藤野氏は犯罪者のように頭を下げている。なんとも言われない哀れな姿である。(老婆心ではあるが、筆坂議員ではないが何年か先、彼があの時はこのような仕打ちを受けたと発言しないか心配である。)
 どう見ても彼は自分の言葉で語っていない。党に言い含まれたこの発言を行っている。常識的に考えて、なぜ彼がこのような発言を行う必要があるのか、彼は何も誤っていない、たた言葉足らずであっただけである。

【彼の発言の何が問題か】防衛費全体の削減を求めたのが誤りか???
1.防衛費全体が削減の対象ではなく・・・こんな論理初めて聞いた。共産党は、 専守防衛は認めている。海外で戦争する予算だけを反対している。というのなら、2015年以前は防衛費の増額に反対してことは一切ないのか。
この主張は、自衛隊の解消でなく共産党が専守防衛の範囲においては自衛隊の容認へと舵を切った発言である。こんなことを聞いたのは初めてである。

2.人殺しの予算という表現が、「防衛費全体を否定した」だから党の政策と違う発言を行ったと彼は言うが(言わされているが)彼自身防衛費をゼロにしろとは言っていない、明らかに「人を殺すための予算ではなくて、人を支えて育てる予算を優先する改革が必要だ」という発言はまともであり、「人を支えて育てる予算を優先する」つまり優先順位の問題を発言しているのであって、なぜ彼の発言が防衛予算全体を否定したと言えるのか、その証明をすべきである。

【事件の終息にあたって共産党の裏の顔が見え隠れする】
 かれは明らかに優先順位を述べたのであり、多くの人が納得できる主張である。彼が「失言」した番組を見ていないので、どのような攻撃があったのか知れないが、共産党中央はどの攻撃者よりも彼の発言を歪曲してとらえ、しかもそのことを彼に認めさせ、彼の口から発言させた。そのやり口は、解放同盟の糾弾やあさま山荘事件の「総括」などを連想させ、非常に息苦しい感じがする。
 おそらく藤野氏は自己崩壊させられているのではと私は気にかかる。このような事は二度としてはならない。なぜ「自己批判」という形で仲間を追い詰めるのか、一般国民から見れば、遠い世界になってしまう。
 舛添氏があれだけ問題を起こしても、自民党は最後まで追求しない。このいい加減な寛容さが必要である。このいい加減さに国民は安心するのである。
 一字一句が監視され、失敗すれば自己批判に追い込まれる。こんな窮屈な政党は誰も支持しない。
 

3.選挙戦に対する影響について

 今回の選挙戦は、共産党は躍進すると思われていた。事前予想では、共産党は比例区では900万票とるという予想もあった。しかし蓋を開けてみると6,016,195票(得票率10.7%)でしかなかった。事前予測では今回は共産党に投票は7パーセントあり公明の6パーセントを上回っていた。(ちなみに、公明党は7,572,960票(得票率13.5%)である。)
 しかし開票結果は振るわなかった。この事件が少なからず絡んでいると思われるが、私は藤野政策委員長が戦犯でなく、党中央の取った対応が戦犯だと思っている。
 共産党という政党の特殊性を世間に見せつけた。発言を一回失敗したら首になる。そんな厳しい社会はどこにもない。北朝鮮の社会にしかない。国民はそれらと重ね合わせて連想し、共産党は怖い政党だと思ってしまう。唯我独尊の世界から早く脱皮すべきだ。

U.戦争法関連の訴えが弱い

 この点は、ご指摘の通りです。共産党は中国の南シナ海などでの覇権主義を相当批判しています。(数回前の選挙では、我が選挙区では、尖閣列島問題のビラばかり配っていました)また北朝鮮の核開発やロケット開発も批判しています。一般的には、自民党などが行っている戦争への脅威と同じ宣伝を行い、ナショナリズムをあおっています。
 その一方で憲法違反の自衛隊を解消するという方針は相反した主張です。共産党が政権を担った際は、中国や北朝鮮と話し合いで解決できる道筋をしっかり示さない限り、自衛隊解消論は絵に描いた餅になります。
 国民の総意で解消にもっていくという主張は民主的に見えますが、一方では国民の合意が得られないと自衛隊の恒久化を図る議論にも利用できる議論です。(「安心してください。自衛隊の解消は将来的な議論であり、現時点で解消はありえません」と説得しています。)
 この論法は、現在の自衛隊の存在を認める議論であり、その必要性を評価した議論です。今回の藤野氏のお詫び記者会見を通して、この立場をより一層明らかにしました。憲法としっかり向かい合わず、詭弁でもってこの事態は乗り切れません。
 平和的な世界をどのようにして構築していくのか、明確なビジョンを示す必要があります。あなたが指摘されるような「世界の被抑圧民族は団結せよ」的な視点から平和を語る資格はもうありません。

V.党本部には


 世間の常識を吸収する力が必要だと思います。藤野政策委員長にとらせた態度などは、世間でいう「トカゲのしっぽ切り」です。しかも「自己批判」を大衆の前で行わせて、その人の人格を全面的に否定するような態度は、決して世間受けはしません。(注1)

注1:全くの余談ですが、私の住む街で市民の立場に立った評判に良い医院があり
  ました。地域では共産党の病院という人もいます。(しかし実際は共産党には
  全く関係がなく、新左翼系の病院だと思います。)
   そこの小児科に京大での人気のある医者がいました。私の娘たちも何時もそ
  の医者に診てもらっていました。あるとき病院に行ったら、その医者の自己批
  判書が病院の廊下一面に貼りめぐらされていました。その長さは、数メートル
  はあったと思います。そのときものすごい違和感を禁じえませんでした。先生
  は今も診療されているのに、廊下は先生の自己批判書が数メートルに渡って貼
  られている。異常な姿です。これを異常と思わないその病院の勤務者に私はあ
  きれ返ったことがあります。(30年くらい前の話で、自己批判の内容が何であ
  ったかは全く覚えていません。)結局その先生は、その病院を去られました。
   今回の記者会見での藤野氏の立場はこれと同じ匂いがします。(写真で見た
  感想ですが)当事者は正義を貫いているという思いですが、外部から見れば異
  常です。このことに共産党が気づかない限り、躍進は望めません。