5月18日赤旗志位委員長の発言と同日毎日新聞の水野和夫氏の論文を比較する。


令和2(2020)年5月20日


5月18日赤旗志位委員長の発言と同日毎日新聞の水野和夫氏の論文を比較する。

 志位委員長の発言は「コロナ危機は日本と世界の在り方を問うものとなっている」というもので、記者団から「いわゆる『ポストコロナ』についてどういう社会像を目指すべきだと考えるか」と問われ、見解を述べたものとされている。
 一方毎日新聞の水野和夫(法政大学教授)の寄稿文は、シリーズ 疫病と人間 という表題で「世界に感染が広がる新型コロナウイルス。経済の観点から、水野和夫氏が文明社会に投げかけられた意味を考察する。」というものである。
 この二つの文書は、コロナ危機の本質は何か更にはコロナ後の社会を見据えたものであり、共通点が多い。しかしその洞察力は、志位委員長は表面的に語られているが、水野和夫氏は本質論に迫っており極めて興味深い論文である。
 志位氏は「新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)は、人類の歴史の中でも最も深刻なパンデミックの一つになっていると思います。」と述べ「いわゆる『ポストコロナ』ということの関わりで、私がいま考えていることを若干、述べます」とこのパンデミックは『日本と世界の在り方はこれでいいのか』ということが問うものとなっているものと思います」と言い、三つの課題を述べています。
 ★一つ目は、新自由主義の破綻が明らかにーー政策の大転換が必要、
 ★二つ目は、資本主義のもとでの格差の異常な広がりーー危機のもとでの顕在化し激化している。
 ★三つ目に国際社会の秩序が試されているーー多くの国ぐにと民衆の連帯で危機の克服を
という命題で述べている。

 一方水野和夫氏は、「都市の歴史は資本の歴史でもある。都市に集積の利益がもたらされ、都市が資本を生み出すからである。マルクスは『資本は文明の別名にすぎない』というジョン・ウエードに賛同した上で、社会の生産力は科学、交通手段の改善、世界市場の創造、機械化などにより増加し、それが文明を進歩させ労働支配力を強めるという。集積のメリットが一点デメリットに変われば、都市文明も終わる」と書いて
 ★減資132兆円、首相は職を賭し経団連に迫れ
  ・内部留保463兆円
  ・資本家の本質あらわ
 ★「より多く」を求めない。新たな「入口戦略」だ
  ・「共生」は経済重視
  ・「より近い」秩序へ
と書いている
 

 この二人の主張は、基本的には相通じるものがあるが、志位氏の主張は一般論であり水野氏の主張は具体的である。

 以下具体的に」見ていきたい。
 志位氏は資本主義のもとでの格差の異常な広がりという抽象的な言葉で語っているが、水野氏は具体的に語っている。
 「内部留保463兆円」という見出しで、内部保留というものの本質を暴き出している。彼によると「内部保留が企業の固定資産に比べて急増し始めたのは、未曽有の金融危機に陥った98年の翌年からである。90年代は固定資産に対して内部保留が低下したので、89年まで上昇傾向を延長すると、内部保留は200兆円になる。企業が緊急事態に備えた内部留保263兆円(=463-200)は、将来の生産力増にならないので、生活水準の向上につながらない。」
 次に『資本主義の本質あらわ』という見出しで、「『主権者とは非常事態についての決断者である。』(カール・シュミット)。日本の緊急事態宣言は飲食業などに休業を要請するが、補償はしない。その代わり罰則規定を設けていない。だからといって、この緊急事態に布マスク2枚や10万円を支給することが『主権者』の決断ではあるまい。『主権者』である安倍晋三が決断すべきは、中西宏明経団連会長に対して首相の職を賭して132兆円の減資を要請することだ。」
 この指摘は極めて重要である。この新型コロナウイルスによる経済的打撃に対して、100兆円規模の予算がいるという主張は、与野党ともに一致しうる判断だが、その財源を巡って迷走している。財務省を中心とする政府与党はプライマリーバランスの黒字化が重要だと答え、今回の事態に対する予算規模を押さえ、国民の要望に応えようとしない。しかし、保守の中にもプライマリーバランス中心の財政再建論は間違っているという議論がある。日本は100兆円ぐらいの補正予算を組んでも何の問題がないという理論を主張する人が増えている。また消費税廃止論者も自民党の中に100人はいる。
 これに対して、水野氏は大企業の内部留保金463兆円の内、132兆円減資を要請することだと財政問題にキッパリした判断を行っている。一方共産党は財源問題に触れず評論家になっている。例えば志位氏は「アメリカの状況を見ましても、黒人やヒスパニックの方々のなかで死者が多い。格差社会という問題がパンデミックのもとアメリカでも大問題になっています。日本でも、経済的・社会的に弱い立場におかれている人々に大きな犠牲が強いられています。」と主張しているが、水野氏は具体的に経団連に内部留保436兆円の内、132兆円を吐き出すべきだと主張している。しかもなぜ132兆円かその根拠を明確にしている。
 その主張は「経団連会長が拒否する理由はない。」と明確に言い切り、その理由はそもそもこのリーマンショック以降の内部保留の263兆円の増加は、本来従業員と預金者に支払うべき賃金と利息を不当に値切った金額が累計で263兆円であり、緊急事態に即返還すべき性格のものであるからである。不当だというのは、労働生産性の上昇にもかかわらず賃金を減少させたり、利子と利潤の源泉は同じであるにもかかわらず、企業利潤率(ROE)に比例させて利子を支払わなかったりして、「救済」の経営理論に違反しているからである。」と言い切り、緊急事態に備えた(Save)263兆円のうち132兆円は個々の企業と当該企業の従業員を結び付ける必要はない。日本人全体の危機なのだから「日本株式会社」として全就業者と全預金者を含めた1億2596万人に還元すべきものであるからです。明快な論理展開を行っている。この理論は、共産党が主張すべき理論である。最近の共産党は大企業を敵に回さず、大企業にかわいがられようとしている。まさに嘆かわしい堕落である。このような政治姿勢では、支持は絶対に増えない。
 赤旗を増やすことばかりに力を入れ、誰が敵か味方かを明らかにせず、一般論でお茶を濁そうとしている。水野氏の論文の具体的な問題提起は我々に戦う力を奮い立たせるものである。
 彼は自分の主張をマルクスを引用しながら、証明している。彼はいう「まさに企業と株主と主権者が試されているのである。減資に応じないというのであれば、マルクスがいうように地球が太陽に吸い込まれて人類がどうなろうと資本増殖をやめないのが資本主義の本質だということになる。と資本主義の本質を指摘した。
 これに対して志位委員長は、最初は「新自由主義の破綻が明らかに」と勇ましく出たが、彼の結びの文書は、「何よりも、世界の多くの国ぐにと民衆が連帯して、このパンデミックを乗り越えることが強く求められていると思います」で結んでいます。この彼の結びを見れば何かおとぎ話のような話であり、「めでたし、めでたし」という雰囲気である。階級対立という志向は微塵もない。
 志位氏の未来社会論はみんなで手をつなぎ幸せな社会を作るという全くベタな話であり、そこには何の洞察もない」
 これに対して、水野氏は「本来あるべき『あたらしい生活様式』とは『より遠く、より速く』そして『もっと多く』を求めず」、『より近く、よりゆっくり』する生活様式に改めることである。そうしなければ、いつ感染するかもしれない明日を心配して生きていかねばならない。」「貪欲は悪徳であり、高利の強要は不品位であり、貨幣愛は忌み嫌うべきものであり、そして明日のことなど少しも気にかけないような人こそが徳をもった人であるという原則である。この原則は資本を過剰に保有するゼロ金利社会でないと実現できない。」
 ケインズのいう人間にとって真に恒久的な問題、すなわち『余暇を賢明で快適で裕福な生活のためにどのように使えば良いのか』という問題に取り組むことができる。という哲学的なことばで締めている。

コロナウイルス対応に対する政府の失敗の中、吉村大阪府知事の人気が高まっている

 これは、なぜか?政府はすべての対応において失敗した。PCR検査を嫌がり、また国民が甚大な被害を受けているのに、その生活保障をすることを嫌がった。安倍首相や西村経済再生大臣は国民の損失補償をしている国は世界の何処にもないと言い放った。既にその時点で各国の国民に対する支援がほぼ決定していた段階で、そんなアホな答弁を行った。
 安倍首相が主導権を発揮したのはアベノマスクだけである。後は損失補償の30万円の案を考えていたが、国民の大きな反発を受け、全国民に対する10面円補償に切り替えるなどすべての政策がチグハグであった。
 吉村氏が受けたのは、安倍さんが思い付きで(例えば学校閉鎖等)政策を実施したが、彼は科学的根拠に基づいて政策を発表したからである。緊急事態宣言に対して、国民がこのような事態がいつまで続くのか心配していた際、彼は出口戦略を数値化して発表した。さらには毎日発表される各県の感染者数が、PCRを受けた人の分母と共に彼は発表した所に彼の先見性があった。分母を明らかにしない感染者数は、PCR検査を後らせば感染者数を抑えることができる。小池東京知事にはその疑惑があった。これを突き破ったことに国民は嘘のない発表だと彼を信頼した。
 コロナウイルスが脅威を発している時、国民は正しい情報を求めている。同時にどうすれば解決するのかその道筋を求めている。
 共産党は確かに奮闘しているが、財源の問題で政府のプライマリーバランス論を論破していない。また消費税ゼロにすることを要求していない。その点水野氏の主張は痛快である。
 コロナウイルスは国難であるから与野党協力して対応に当たらなければならない。というような甘言に騙され、みんなで手を結べば解決する(志位発言)みたいな主張になる。どのような場合にも階級的視点が必要である。この危機の中でも政府自民党は、自分たちの利益やアメリカの利益を優先した政策を考えている。(例えば韓国は軍事費を減らして対策に当たることを決めている。(注1)またコロナ対策の薬を巡っても、日本初のアビガンが有効だと言われているのに副作用が多いと言われているアメリカのレムデシベルを先に認証している(注2))

注1: 韓国国会は30日未明、新型コロナウイルス対策として全世帯に支給する「緊急災害支援金」
   の財源確保に向けた第2次補正予算を可決しました。軍事費9897億ウォン(約850億円)
   の削減などが行われ、総額12兆2千億ウォンが支援金支給に投入されます。
   削減された軍事費は、F35ステルス戦闘機(3000億ウォン)、海上作戦ヘリコプター(20
   00億ウォン)やイージス艦(1000億ウォン)などの事業で、今年の支払いの一部を先延ばし
   するなどしました。(しんぶん赤旗)
注2:まだ臨床試験段階だったため起こりうる副作用や、その頻度は不明であるものの、臨床実験の段階
  では肝機能障害、下痢、皮疹、腎機能障害などの頻度が高く、重篤な副作用として多臓器不全、敗血
  症性ショック、急性腎障害、低血圧が報告されています。(東京都済生会中央病院 HP)

 またアベノマスクにも疑問がある466億円の予算を組み、実際の調達価格と大きな差がある。調達したマスクは汚染していたい虫が混入していたり使い物にならないものであり、その検品に8億円も出費している。(この金額にも疑問がある。)
 こうした問題点の追及が極めて弱い。(マスクの発注業者に対する疑惑は本日:5月20日初めて取り上げられた。)ちなみに私はこの話を4月29日に取り上げている。
 水野氏の話は痛快である。このような視点で戦えば、共産党員も目覚める。なぜ痛快かそこには階級的視点があり、資本主義の本質を暴いているからである。

追記:共産党の視点のおかしさは、今日の赤旗にもみられる。
    しんぶん赤旗12面【社会・総合】の「レーダ」という署名付きの記事であるが、その出だし書き
   方が気になる。まず見出しが「検察OBの怒りが・・」以下引用する。
    「内閣の一存で特定幹部の定年延長を決められるようにする検察庁法改正案は、松尾邦弘・元検
   事総長を含む検察OBが反対の意見者を提出するなど世論が盛り上がり今国会での成立断念となり
   ました。」と書かれている。
    毎日新聞(5月19日付)1面トップの見出しは「検査庁法改正案 見送り」「世論反発受け転換」
   と書き、その理由を世論や野党の批判が強まる中での採決強行は国民の理解を得られず、新型コロ
   ナウイルスへの追加対策を盛り込む第2次補正予算案の早期成立にも影響すると判断した。」と書
   いている。
    また3面には、見出し「怒りのツイート政権直撃」「検察庁法案近国会断念」「世論の高まり見
   誤る」との見出しを掲げ、以下の内容を書いている。
    「安倍晋三首相が検察庁の定年を引き上げる検察庁法改正案の今国会成立を断念したのは、改正
   に反発する世論の高まりがあったことが大きい。首相は『恣意的な人事』となる可能性を否定し理
   解を求めたが、インターネットで広がった反対の声が検察OBにも広がったのは想定外で、世論
   を見誤り断念に追い込まれた。政権に大きな打撃となり、今後の政権運営にも影響を与えそうだ。
    この毎日新聞の評価が正しいのであって、今回の快挙の決定的要因はインターネットの反対世論
   がリードし、検察OBをも立ち上がらせたと書くのが正しい。確かにとどめは、検察庁のOBかも
   しれないが、主役は国民の反対世論である。
    赤旗は検察OBの戦いが世論を誘導したように読み取れる。主権者は国民であるという観点が
   欠如しているのでは思われる。