「3.11大震災」は、共産党もメルトダウンしてしまった。

     原発事故の状況判断の誤りから、国民大衆から見放されてしまった。


 3.11大震災に伴う、原発のメルトダウンは、福島県民を始め日本全国を恐怖に陥れた。この事故が示した教訓は、「核と人間は共存できない」という事であり、日本国民の多くは、「脱原発」を求めている。

 しかし、共産党は3.11大震災の直後に戦われたいっせい地方選挙で、震災からの復興を最大の課題に掲げ命を守る政治を掲げながら、原発問題については「安全優先の原発政策」を掲げ戦ってしまった。その結果選挙は大敗したが、世田谷区長選で社民党の保坂氏が脱原発を掲げ当選した結果に驚き、5月1日のメーデー会場で志位委員長は唐突に「原発ゼロ」宣言を行った。しかし、この原発ゼロ宣言は、直ちに原発を廃止するというものではなく、段階的撤退論であった。

  国民の原発反対の声は大きく、大江健三郎氏など原水禁系の市民派の主催するさよなら原発10万人集会は大成功を収め、また首都圏反原発連合の国会包囲デモも「原発は即ゼロ」を掲げ多くの一般市民の参加を勝ち取り成功を収めている。

 この事態を重視した共産党は、9月14日「即時原発ゼロ」を始めて打ち出した。この道のりは長く、共産党の原子力政策が、安全神話から抜け出すのに、震災後1年3ヶ月もの時間を要した。しかも共産党自身が語っているようにこの政策決定は、国民の戦うエネルギーに触発されて始めて決断した物である。注1

 注1:9月15日赤旗は「即時原発ゼロ」の実現を提起するに至った説明を行っている。その中に以下の記述がある。
    「国民の世論が大きく変化し、「原発ゼロ」を目指す声は、国民の多数の声となっている。政府の「パブリックコ
     メント」(意見公募)では8割が「即時原発ゼロ」を求めている。そうした状況を踏まえて、昨年の「提言」での提
     起をさらに一歩すすめ、「即時原発ゼロ」の提起をおこなうものである。

<共産党の「即時原発ゼロ」の提案理由は正しいか?>

 上記共産党の政策転換の理由は本当に正しいのであろうか、国民の意識と共産党の意識が乖離しており、事実は、震災後の原発のメルトダウンの深刻さを理解できず、震災後も原発にしがみ付こうとした共産党が、国民の反原発意識の高まりの中で、後追い後追いした醜い姿をさらしたものである。

  共産党が幾ら言い訳をしても、震災後の選挙で出した方針「安全優先の原子力政策」は、この事態に至っても、原発にしがみ付こうとしている関西電力等と同じ思考である。(関西電力もあの時点で安全優先の原子力政策を掲げ700億円の予算を組むと発表した。)

  共産党は、震災後の「国民意識の変化」を政策変換の主要な論点にしているが、これは真っ赤なウソである。震災後のいっせい地方選挙で、世田谷区長選では社民党の保坂氏が当選し、共産党の候補者はその10分の1ほどしか確保できなかったことを見れば、震災直後に既に国民は「脱原発」が必要と考えていた。

 100歩譲って、1年3ヶ月を経過して国民の意識が変化したことを認めたとしても、その国民意識を変化させたのは、「さよなら原発」の運動を主導する大江健三郎さんなどの市民運動や首都圏反原発連合の地道な運動の成果である。

 共産党は、国民の意識が「即時原発ゼロ」になるよういかなる働きかけをしてきたのか、共産党はあくまで段階的撤退論であり、この2つの運動が国民世論を変え、共産党もこの立場に立たない限り、国民政党として生き残れないほど追い込まれての決断に過ぎない。 

        

<共産党は、「原発即時ゼロ」のこだわり、「脱原発」をなぜ言わないのか?>

 1年3ヶ月を要した共産党の政策決定ではあるが、「即時原発ゼロ」は正しいが、未だに残る問題は、まず一般的に定着している「脱原発」という言葉を使わず、「即時原発ゼロ」という言葉を使っている。この間の赤旗の原発反対の集会の写真を見ていてもこの「原発ゼロ」というプラカードはほとんど見当たらない。なぜ共産党は、「脱原発」でなく「原発ゼロ」にこだわるのか?

  理由は二つあると思われる。

 一つは、「脱原発」は原水禁関係の運動のスローガンであり、その傘下に組みしたくない。運動の主導権を取り返すという思いからであると思われる。

 もう一つは、共産党は、原子力の平和利用を未だあきらめていない。例えば、さよなら原発1千万人署名の原点は、「核と人類の共存はできない」であるが、共産党はこの主張を認めていない。「脱原発」という立場は、今後一切原子力に頼らないエネルギー政策を求めるものであって、原発から卒業しようという意味がこめられている。

  共産党は、そうした考え方は非科学的で、科学の進歩を押し留めるものだという考えが底流にあり、将来原子力技術が発展し、平和的に利用する可能性まで否定する「脱原発論」を支持せず、「原発即時ゼロ」の方が、原発はゼロにするが、原子力技術は温存していこうというのが共産党の立場である。注2

注2:志位委員長と福島瑞穂氏の対談にそのことが現れている。

     毎日新聞2011.8.25東京朝刊 11面(「正義の味方、真実の友」参照)

  この文書を書いてから、原発をなくす「全国連絡会結成のアピール」を読んでビックリした。その表題は「人類と共存できない原発を1日も早くなくしましょう」に成っている。共産党はこの様な重要な意思決定を、他の民主団体との共闘の中の声明文の中で行っている。

 「人類と核は共存できない」という主張は上田耕一郎氏がマルクス主義の平和運動(大月書店)で「絶対的平和主義」と明確に否定した論理である。(参考:共産党の原子力政策は何か(いまだに揺れ動いている)参照。注3

注3:原水禁と原水協の分裂の一番根っこの思想は「人類は核と共存できない」という主張の評価にある。上田耕
     一郎は、この「共存できない」という思想は絶対平和主義であり、修正主義だと攻撃した。共産党は帝国主義
     の核と社会主義の核を分け、帝国主義の核は侵略の為の核であり、社会主義の核は「平和の手段」である。
     と言い切った。

  この根本問題を、共産党は党として総括せず、「原発をなくす全国連絡会」のアピールの中でこっそり修正するという卑劣な対応をしている。共産党が「人類と核は共存できない」を認めるなら、運動の分裂は起らなかったのである。原水爆禁止運動の分裂問題に対して共産党はお詫びする必要がある。

<共産党は原発反対運動をどのように展開していくつもりか?>

  共産党は今後原発反対運動をどのように展開するつもりか、未だに決意が伝わってこない。赤旗を見ていても、来るべき衆議院選挙の戦いのメインスローガンが何か未だに定まっていない。5中総では、「消費税」、「原発」、「震災復興」「TPP」「オスプレイ」「憲法9条」の6点で他党との対決点を明らかにしました。とされているが、現在の赤旗を見る限りにおいては、尖閣列島問題がポイントになっている。現に大阪10区の予定候補者は、赤旗の中国大使と志位委員長の対話の写真を全面に押し出し、街頭演説を行っている。

  私は、原発反対が第一の政治課題だと思っている。ここで戦わないと共産党の値打ちがない。しかし赤旗見ている限り、その決意は伝わってこない。昨日茨木市の共産党のポスターを見たが、消費税反対を全面に掲げ、原発反対は見当たらない。近づいてよくよく見ると原発反対が小さく書かれているが、色も悪く近づかないと見えない。赤旗あるいは日曜版、大阪民主新報を見ても同じである。

 11月11日全国一斉行動が予定されている中では、連日その呼びかけを行うのが常識と思われるが、なかなかその記事が出ない。赤旗は本日(10月29日)で久しぶりに出ているが、大阪民主新報は、10月21日、28日版に一切呼びかけがない。さらに赤旗日曜版は手元に14日、21日版があるが、尖閣列島は載っているがこの集会の呼びかけはない。共産党は、11月11日全国一斉行動を本当に成功させようと思っているのかその決意が全く伝わってこない。

<11月11日「100万人大占拠」運動のいかがわしさ>

 大阪民主新報は10月14日版で「「100万人大占拠」運動広げ」という見出しを掲げている。私は、共産党が「100万大占拠」なる過激なスローガンを何故打ち出したのか、大阪民主新報がまたいい加減なスローガンを掲げたと思った。

 調べてみると赤旗にも「100万人占拠」という言葉がある。我々の運動の経験から言えば、共産党はこの様なスローガンを使わない、この様なスローガンを使うのは、新左翼系のスローガンである。共産党も運動の遅れを取り戻すためこの様な過激なスローガンを掲げ始めたのかと思ったが、よくよく見ると、これは「首都圏反原発連合」のスローガンである。

  赤旗は、志位委員長の「原発即時ゼロ」宣言の前日、9月14日「いますぐ原発ゼロへ11.11全国いっせい行動」の呼びかけを載せた。(主催は、共産党系の民主団体と共産党「原発をなくす全国連絡会」)この呼びかけが志位委員長の「原発即時ゼロ」宣言の前の日であったのはできレースであるが、大衆運動の提起を受けて共産党もその立場性を宣言したという演出か良く分からない。

  さらに9月16日には、首都圏反原発連合のミサオ・レッドウルフさんと小泉兵義さんのインタビュー記事を写真入で大々的に報道した。また、首都圏反原発連合が「11.11反原発100万人大占拠」という記者会見(衆議院第1議員会館で19日)を行い、10月20日の赤旗に大きく取り上げられている。

  これはおそらく反原発運動で大きく乗り遅れた共産党が、「さよなら原発派」および「首都圏変原発連合」に食指を伸ばし、「首都圏反原発連合」と共闘の話し合いが成立したものと思われる。(記者会見の場所が、衆議院第1議員会館ということからして、共産党が場所取りに尽力したのではと思われる。)

  しかし、「首都圏反原発連合」と共産党の共闘関係が見えてこない。首都圏反原発連合のビラでは、主催:「首都圏反原発連合」とされており、協力:さよなら原発1000万人アクション、脱原発世界会議、原発をなくす全国連絡会、経産省前テント広場の4団体があげられている。この中の「原発をなくす全国連絡会」が共産党系の団体であるが、あくまで協力という位置でしかない。

  共産党の11.11の集会は独自に行われるのか、それとも「首都圏反原発連合」の傘の下で行われるのか、その辺の曖昧さが残る。共産党は意識的にあいまいにして、「首都圏反原発連合」の戦いの成果をごっそり自分たちの運動だと宣伝しようとしているのかわからない。

<首都圏反原発連合の運動の特徴>

  首都圏反原発連合の運動は、今までの労働組合等の動員で組織された運動でなく、普通のサラリーマンが会社の帰りに参加する、あるいは主婦が子どもを抱いて参加するという今までのデモのスタイルを乗り越えたところに価値があった。この主催者たちは10万以上の人を国会周辺に集め、その運動を成功させてきた。しかもこの運動は「一発や」でなく毎週金曜日に行うと持続力のある運動であった。

  なぜ、今回の11.11の運動で「100万人大占拠」という過激なスローガンを掲げられたのか、私は個人的には疑問を感じている。「大占拠」などという過激なスローガンを掲げれば、普通の主婦が子ども連れで参加できるであろうか、また共産党系の労働組合等の参加をどのような条件をつけて認められたのかも私は知らないが、労働組合の旗が乱立したデモに変わってしまうとすれば、首都圏反原発連合の戦いは尻すぼみになってしまうのではと思っている。

  動員目標も「100万人」という過大な数字を掲げ、「大占拠」という過激な方針を出したことはこの運動にとってプラスにはならないと思っている。共産党にとっても、「大占拠」というスローガンを自らが抱え込むことは、今日までの運動路線と違い、混乱を招くであろう。

 この「首都圏反原発連合」は誰でも参加できるよさを持っているが逆に特定の目的を持ったものがもぐりこむことも可能である。7月16日版の赤旗は、中核系の活動家を一面全体の写真を使って紹介してしまった。今回の「100万人大占拠」というスローガンも新左翼系のスローガンであり、共産党が後で恥をかくのでは老婆心ながら思うところである。

<大阪民主新報は、この運動がわかっているのか判らない?> 

 最初の話に戻るが、大阪民主新報は、この首都圏反原発連合と11.11「原発即時ゼロ」政府包囲の「全国連絡会」の運動を全く区別せず、「「100万人大占拠」へ運動ひろげ」という見出しを掲げ、「11月11日の「反原発100万人集会」への参加と呼応した大阪での取り組み、1千団体・1万人の個人会員を目指した組織拡大を呼び掛けました。」という記事を載せている。(共産党が主催しているのは、原発をなくす全国連絡会である。この呼びかけをせず、首都圏反原発連合の運動への参加を募っている。)この曖昧さは何を意図しているのか、首都圏反原発連合の戦いを全て共産党の成果だと主張する事を狙っているのか、2つの集会の関連がわかっていないのか私には判らない。

  今日(10月29日)の赤旗の記事でも、見出しは「今すぐ原発ゼロ世論を結集」、「11.11全国いっせい行動成功へ」、「国会周辺で「100万人大占拠」」になっている。見出しだけを見れば「100万人大占拠」を企画しているのは共産党に見える。

  こんな小手先の手段を使って共産党が原発反対の先頭に立っているように装っても、本気で戦っていない姿はすぐに暴露されるであろう。馬鹿げた戦術である。原発反対運動で完全に大衆から置きざれにされ、後から必死にしがみ付き、あたかも共産党が主導権を握っているように演出する姿は、「前衛政党」とは程遠く、大衆の戦いに無為やり参加して体面繕おうとするものであり、原発のメルトダウンとともに共産党もメルトダウンしてしまったことを現している。悲しい限りである。

 参考:私は共産党のいっせい地方選挙での「安全優先の原子力政策」を一貫して批判してきた。

       4月16日の「意見書2」に始まって、「意見書8」「意見書12」「意見書14」で共産党の原子力政策を批判してきた。