共産党 藤野政策委員長の更迭は正しい処分か?


平成28(2016)年6月30日

 このページは投稿欄に渡部結フアンの方から、藤野政策委員長の更迭を捉え、
「共産党は論戦を放棄したのか?」という投稿をいただきました。この投稿に対す
るコメントとして書いたものです。
 

まず何が問題になったかです。

 6月29日付毎日新聞は、【総合】2面で、「共産政策委員長発言引責で辞任」「防
衛費『人殺す予算』」という見出しで、藤野氏は26日のNHK番組で、初めて5兆
円を超えた今年度予算の防衛費について「人を殺すための予算でなくて、人を支え
て育てる予算を優先する改革が必要だ」と発言した。その場で他党から批判が相次
ぎ、番組終了後に発言を取り消すとのコメントを発表した。参院選で協力する民進
党のからも「自衛官や関係者に不快感を与える発言」(枝野幸雄幹事長)との批判
の声が出ていた。(比較的小さな記事であった。)
 赤旗は、【政治】2面で、「藤野政策委員長がおわびし、辞任」「NHK番組発
言で」と割と大きな記事で扱っている。その内容は藤野氏自身の発言として「この
発言は、わが党の方針と異なる誤った発言であり、結果として自衛隊の皆さんを傷
つけるものとなってしまいました。深く反省し、国民のみなさんに心からおわび申
し上げます。あわせて選挙をともにたたかっている野党共闘の関係者のみなさん、
支持者と党員のみなさんに、多大なご迷惑をおかけしたことをおわびいたします。
発言は撤回しましたが、党の方針と異なる発言をしたことは、政策委員会責任者と
して極めて重大であり、責任をとってこの職を辞したいと考えます。」との発言を
載せている。

問題はテレビ上の発言より、共産党藤野政策委員長彼おわび会見に問題がある

 渡部結フアンさんが言われるように、この共産党の対応には大きな問題があると
思います。根本的な問題は憲法と自衛隊の問題であり、共産党は、自衛隊は憲法違
反との主張が従来からの立場です。ただ共産党が政権を取ってもすぐに解体するの
ではなく、国民の合意を得て縮小及び解体に向かうというのが共産党の政策だと理
解しています。
 そして今回の参議院選挙は、憲法上の制約があるにも関わらず政府与党が自衛隊
を海外で戦争できる軍隊に安保法制(戦争法案)を通じて変質させ、さらには選挙
戦で改憲勢力が三分の二の議席を取得し憲法改正を行い文字通りアメリカと共に世
界のいたるところで戦争を可能にする軍隊に仕立て上げようとしています。
選挙戦の争点は戦争できる国造りか、憲法を重視し平和国家としてアジア諸国との
連携を深めていくかが最大の争点の中で闘われており、5兆円もの予算が、自衛の
ためから戦争できる国家へと変質していく予算であるとの指摘は極めて正しいので
あり、その表現に稚拙さはあったとしても、党の方針に全く違反する者ではなく、
発言の不十分さは、舌足らずであったとお詫びすれば済む程度の問題である。

闘いの争点は、戦争できる国造りか、憲法に基づく平和な日本か

 私はこのテレビ討論会を見ていないのでその時の雰囲気は分からないが、批判者
たちは、もともと自衛隊を軍隊に変質させることを目指している者であり、人の命
の大切さなど全く理解しない人たちである。その根底には自衛隊は合憲か否か、海
外で戦争できる軍隊に変質させるのか平和憲法を守るのかの闘いである。その立場
の延長線上で発した発言に何も恥じることは無く、自衛隊が今まで海外で誰一人殺
害していない事に誇りを持ち、今回の安保法制の改悪や、憲法改悪によって「殺し
殺される軍隊」に変質することが反対という視点で述べたに過ぎない。」と主張す
べきであった。
 これは安保法制反対のスローガンであり、大衆運動の現場でも、赤旗でも使って
きた言葉であることを堂々と主張すべきであった。(注1)

注1:共産党は安保法制の改正が戦争法であり、赤旗の【主張】で「殺し、殺され
  る」という言葉を使っています。
   例えば、2016年4月29日赤旗【主張】は、「戦争法施行1カ月」「深刻な憲
  法破壊は放置できぬ」という見出しで、「共同のたたかいをさらに」と言う段
  落で、国民の命と暮らしを守るどころか、重大な危険にさらすのが戦争法で
  す。・・・深刻な内戦が続いている南スーダンPKO(国連平和維持活動)での
  任務拡大の動きなど、自衛隊員が「殺し、殺される」危険も生まれています。
   最近では6月24日赤旗【主張】にも「殺し殺される」危険が現実に迫なかと
  いう表現を使っています。
   また5月31日にさいたま市北浦和公園で行われた「集団自衛権行使容認の閣
  議決定撤回を求めるオール埼玉の総行動」での自由の森学園高校の山森要さん
  は、学内で集団的自衛権の署名を集めてきた。「戦争に行かされるのは国民
  だ。殺したくないし殺されたくないと皆思っている。」と言う訴えに反響があ
  った。


藤野議員は誰に何を誰におわびしたのか

 今回共産党がこの発言で誤ったことは、自衛隊が違憲の存在だという事を放棄す
る前兆だと捉えることが出来る。なぜならこのお詫びは誰に対してお詫びしている
のか、第一は、自衛隊に対して、第二は、国民に対して、第三は、党員などに対し
てである。
 「自衛隊の隊員のみなさんを傷つけるものになってしまいました。」と書いてい
るが、自衛隊のみなさんが傷ついたら謝るのであれば、自民党や公明党が、「『国
の為に命を投げ出して闘っている者に、自衛隊は違憲の存在だ』という共産党の主
張は自衛隊員の心を如何に傷つけているのか分かっているのか」との追及を行え
ば、共産党はこの追及に抗しきれず、すみませんと謝るしかない。
 「人殺しのための予算」はあくまで専守防衛であった自衛隊の任務が変わり、海
外でも戦える装備が必要なための費用であり、共産党はそれに反対しているのだと
説明すれば足り、共産党の戦争法案反対は、自衛隊のみなさんが「殺し殺される」
世界に巻き込まれていくことに反対しているのだと、共産党の政策を前面に掲げて
闘うべきである。
 ここで引けば、今戦争法案反対に立ち上げっている多くの国民運動に水をかける
物であり「殺し殺される」戦争法案反対すらいえなくなってしまう。

国民に対するおわびのポイントは何か(自衛隊員が傷ついたことではない)

 さらの藤野政策委員長のお詫びは、自衛隊の皆さまを傷つけるものとなってしま
ったことを国民におわびするととれる。何を言っているのか分からない。
 謝るべきは、安保法案(戦争法案)反対、さらには参議院選挙で改憲勢力が三分
の二以上取らさない為に頑張っているすべての国民の皆様の運動に悪影響を与えた
ことこそ謝るべきであった。
 日曜討論の場で「自分の発言が舌足らずであったと釈明しながら、「自衛隊を
『殺し殺される』集団に変質させているのはあなた方ではないのか、私たち共産党
は自衛隊がそうした立場に追い込まれることには一貫して反対している。」と主張
すれ良かったのであり、自公に反論できなかったから、職を辞するというのはあま
りにも情けないのでは?「平和は武力でもたらせることは出来ず、外交的努力こそ
が重要である」と論陣を張るべきであった。
 揚げ足取りの罠にはまり、辞任して問題を解決するのは最低の解決手段である。
自衛隊と憲法で彼らは今後攻めてくる。一度弱みを見せれば終わりである。社会党
の村山氏が総理大臣になった際に自衛隊の合憲を認めたが、共産党自身が連合政権
樹立に当たってその対応を考えているのが透けて見えるような気がする。

謝る対象の第三は、野党共闘の関係者のみなさん、支持者と党員のみなさんと
なっている。

 この謝罪は党の方針に逸脱したことが前提となっている。この内容が何か明らか
にされていない。野党共闘を結ぶ際、それぞれの党の主張を行わない。共産党は、
自衛隊は違憲だとは言わないという約束をしていたのか、もしそうでないのなら、
人殺しの予算のどこに党の方針と違うのか明らかにすべきである。
 軍隊は基本的には暴力組織であり、相手方と闘うのであるから人殺しの集団であ
る。アメリカが至る所で戦争し、軍隊とは何か我々に示してくれている。日本の自
衛隊は確かに人殺しを行っていない。それは憲法と言う歯止めがあるからである。
 謝れと主張した人達は、憲法9条を改正し、正に自衛隊を軍隊にしようとしてい
る人たちである。憲法改正後の軍隊は、アメリカの軍隊と同じ性質を持つ、正に人
殺し集団になってしまう。痛いところを突かれた反撃してきているのにそれに謝る
馬鹿がどこにいるのだと間抜けさに腹が立つ。
 党員たちは誤られて、今まで主張してきた自衛隊は人殺し集団(与党の狙い)を
語ることを止めるのか、どうすれば良いのか分からない。(注2)

注2:この文書は、29日に書いたが、30日の赤旗に藤野前政策委員長と小池書記長
  の記者
  会見(要旨)が載っている。この文書も極めて問題である。
   「どこが不適切であったのか」という記者の質問に対して「『軍事費の全部
  をけずれ』とは言っていないのですけれど、私の発言は、全部だめだという趣
  旨になってしまったので、これは党の方針と明確に異なる発言です。また『人
  を殺す(ための予算)』という表現を使ったことが、党の方針を間違って伝え
  ることになりましたので、そうした表現を使ったこともやはり問題です。」と
  いう発言を載せています。
   そもそも党の政策委員長が党の政策を間違うことがあり得ずはずが無く、も
  し本当に間違ったのであれば、共産党が良く言う任命責任が問われなくてはな
  りません。
   彼はあくまで舌足らずであっただけで党の政策を間違って理解していたこと
  などあり得ません。この共産党の処分は、迅速であり潔く見えますが、私は
  「粛清」のニュアンスを感じ、迅速さに反って非情さが透けて見え、共産党の
  他党派との違いを明確にしていますが、プラスよりマイナスに動くとみていま
  す。
   敢えて言いますが、自民党では自民党の麻生太郎副総理兼財務相が17日、
  北海道小樽市での講演で「90歳になって老後が心配とか、わけの分かんない
  こと言っている人がこないだテレビに出てた。オイいつまで生きてるつもりだ
  よと思いながら見てました」と語ったり、稲田政調会長「国民の生活が大事な
  んて政治はですね、私は間違ってると思います」と語っても党内では何ら問題
  になっていない。この二人の発言は確信犯であり、こんな奴らなのです。それ
  に比べたら藤野議員の発言は、単なる舌足らずの説明であっただけであっただ
  けで、何ら党の発言に違反していない。共産党の度量の無さを露呈した事件
  だ。

改憲反対の運動に取って「人殺し」というキーワードは必要

 争いは謝った者が負ける。今度は、共産党は自衛隊を違憲と言っていると攻撃を
かけてくる。軍隊の本質を隠し自衛隊の災害救助を大々的に宣伝し、国民の自衛隊
に対する支持は確かに増えている。しかし、海外で戦争する国への支持はまだ多数
を占めていない。そういう意味では「人殺し」というキーワードを取り下げること
はできない。「殺し殺される世界」を拒否する者が国民の多数を占めているから、
日本の平和は守られている。この事を再確認すべきだ。
 安保法制や憲法改悪は、明らかに自衛隊を人殺し集団に変えようとしている。こ
の訴えを退ければ、共産党はこの戦いに勝てない。いつの間にか社会党が歩んだ道
を歩こうとしている。