共産党「『戦争法(安保法制)廃止の国民連合政府』の実現を呼びかける」


平成27(2015)年9月21日

 
 9月19日 日本共産党は中央委員会幹部会委員長 志位和夫氏の名前で「戦争法(安保法制)廃止の国民連合政府」の実現を呼びかけた。この呼び掛けは、多くの国民が「戦争法案」に反対し、連日国会を包囲する若者たちの戦いが日増しに大きくなる中、国民世論を無視し、自・公の暴走で「戦争法」(安保法制)が国会で強行採決された。
 この事態は、日本の立憲主義が犯され、民主主義が蹂躙され、集団的自衛権でもって日本の平和を危うくする安倍政権の暴走であり、日本の国家のあり方を根本的に変えるものである。
このような状況下で国民の怒りが最高潮に達した中、志位委員長が発表した「『戦争法』(安保法制)廃止の『国民連合政府』の実現の呼び掛け」は、国民の要望や期待に即した現実的な呼びかけである。

共産党の「この呼び掛け(国民連合政府)」が成功するか否かの分岐点は

 私はこの呼び掛けを評価するが、果たして日本の政治状況の中でこの呼び掛けが成功するか否かは、共産党のとって来た今日までの路線に対する一定の総括と、他党派に対するセクト主義の克服を明確にする共産党の大人の対応と柔軟な姿勢にかかっていると思われる。
 共産党は、「七〇年代のおそくない時期に民主連合政府の樹立」をめざして奮闘し、革新の統一戦線の結成がその実現の保証であると主張してきたが、最近は、革新統一戦線は死言になり、統一戦線論議が、「一点共闘」や「保守との共同」論議にすり代わってしまい訳がわからなくなっていたが、(注1)今回の「戦争法(安保法制)」反対運動の高まりを見てこの運動の持続的発展の中に日本社会の変革の展望があることに共産党の幹部も気づき、上記の呼び掛けを行ったものと思われる。

注1:共産党は26回大会で他党派をボロカスに批判した(共闘の相手ではないと
  言い切った)確かに、民主党には、自民党よりも右翼的な人がいることは確か
  であるが、今回の戦争法案に対しては、党として法案反対の立場で奮闘したの
  は明らかである。社民党は「憲法を守れ」を党是にしておりこの政党となぜ組
  めないのか全く分からない。 
 共産党の主張と近い社民党や民主党を遠ざけ(批判し)、なぜ保守との共同を目指すのか、共産党の統一戦線論は全く理解できない。「ありもしない修正資本主義の潮流」を共同の相手方とする共産党の主張は理解に苦しむ。

「この呼びかけ」と共産党26回大会決議との整合性はあるのか?

 この呼びかけそのものは正しいが、26回大会で共産党が掲げた方針に大きな誤りがあったことを認めない限り、他党派がこの呼び掛けに応えるか疑問がある。
 26回大会で、共産党は統一戦線論を語る際、日本における政党の中で共闘を行える政党はないと言い切っている。(注2)自共対決こそが今日の政治情勢も物語っており、他の政党はすべて反自民の立場はとっていないと決めつけ、統一戦線の相手として認めていない。ならば誰と統一戦線を組むか?26回大会決議案では「そのさい、私たちの連合の対象となる相手が、従来の保守の流れも含む修正資本主義の潮流であることも、大いにありうることである」と予言者のような発言を行っている。(注3)

注2:26回大会決議
   1960年代終わりから70年代に、日本共産党が躍進した時期には、自民
  党と共産党との間に、社会党、公明党、民社党などの中間政党が存在し、それ
  ぞれなりに「反自民」の立場を掲げました。1990年代後半に、日本共産党
  が躍進した時期にも、自民党と共産党との間には、民主党、自由党が存在し、
  当時のこれらの諸党は、まがりなりにも「反自民」の旗を掲げたものでした。

   ところが、今回は、そういう政党が存在しません。野党に転落した民主党
  は、消費税増税、原発推進、TPP(環太平洋連携協定)推進、沖縄新基地建
  設など、安倍政権の暴走のどの問題をとっても、自分たちが政権についていた
  時期に手をつけた問題であるだけに、批判をしようとすればすべてブーメラン
  のように自分に跳ね返ってきます。ですから、「反自民」の旗が立てられませ
  ん。この党は野党としても自らの存在意義を見失っているのであります。「第
  三極」といわれた勢力は、自民党と「対決」するどころか、憲法改定でも、構
  造改革でも、公然と応援する立場をあらわにしています。こうして、決議案が
  のべているように、「日本共産党は自民党への批判を託せる唯一の党となって
  いる」のであります。
 
注3:共産党26回大会決議
   決議では統一戦線結成のための4つの努力方向@「一点共闘」の発展に全力を
  尽くす、A革新懇運動の発展、B労働運動の階級的民主的強化、C政党戦線で
  の連合の展望を上げています。以下「政党戦線での連合の部分」を大会決議か
  ら引用します。

   第四は、政党戦線での連合の展望についてであります。
   決議案は、「政党戦線においても、日本共産党との連合の相手が必ず出てく
  ると、私たちは確信するものである」と表明するとともに、「そのさい、私た
  ちの連合の対象となる相手が、従来の保守の流れも含む修正資本主義の潮流で
  あることも、大いにありうることである」とのべました。この間のさまざまな
  課題での保守の人々との共同の発展は、そのことを強く予感させるものであり
  ます。

 26回大会で、共産党は共産党以外の政党はすべて裏切りものであり、政党間の連合はありえないし、もし連合を組むとすれば、「保守の流れを含む修正資本主義の潮流だ」と主張しています。この見方が如何に誤りであったかはこの間の戦争法案反対の戦いで、民主党や社民党、さらには生活の党や維新(橋下氏の影響下にある議員は別として)までが一緒に戦いを繰り広げて来たことからも明確です。
 さらに共産党が期待する、「保守の流れを含む修正資本主義の潮流」なるものの姿は見えず、自民党や公明党は議員レベルでは完全に戦争法案賛成で一致団結していました。
 この戦いの中で生まれでてきた政治的潮流は、共産党が期待した?「保守の流れを含む修正資本主義の潮流」ではなく、これまで政治に関心が低いと思われていた若者や母親ら普通の市民が、ネットなどを使って個人の意思で声を上げ、デモや集会に参加してきたことです。
 これらの行動は共産党の予想を超えた広がりを示し、ある意味では共産党にとっても驚異であり、ヘタをすれば共産党が取り残される危機感が共産党にあるのではないかと見ています。
 少し前の赤旗では、「一点共闘」や「保守との共同」が赤旗の紙面を賑わせていたが、今はこの議論は全く見られず、SEALDsの戦いが赤旗の一面を完全に占拠している。共産党はこの間「赤旗を拡大すれば世の中が変わる」と主張し、連日連夜赤旗拡大の号令を党員に発していましたが、今回のSEALDsの運動の広がりに接して、この運動の中にこそ日本を変える原動力があることに気がついたのだと思われます。

赤旗から「一点共闘」た「保守との共同」が消えた

 実際問題「一点共闘」や「保守との共同」が進んでいるとの赤旗記事は出るが、選挙結果を見れば何の変化もなく、北海道では「一点共闘で保守との共闘が進んでいる」と赤旗1面を2回も飾りましたが、選挙結果は前回よりも低調でした。
 これに対して、戦争法案反対の運動が盛り上がる中、戦われた地方選挙の結果を見れば共産党は大きく躍進しており、「一点共闘」や「保守との共闘」に比べ、戦争法案反対の戦いこそが共産党が戦わなければならない課題であることを浮かび上がらせた。(注4)

注4:《2015年9月6日》 岩手県議会 斎藤 信さんのHPから
   岩手県議会議員選挙―日本共産党は2議席から3議席に歴史的躍進
  公約実現に全力で取り組みます

   9月6日、国会で戦争法案の審議がヤマ場を迎えるなか、全国注目の岩手県議
  選が投開票されました。日本共産党は盛岡区(定数10)で斉藤信(64)、一関区
  (同5)で高田一郎(56)の両氏=ともに現=が議席を守り、奥州区(同5)で千
  田美津子氏(61)=新=がトップ当選。現有2議席から、初の3議席へ躍進し
  ました。
   3氏の合計得票数は前回比5521票増の3万2194票で、過去最高を記
  録。3候補とも得票率を伸ばしました。 奥州区は前回比で1・8倍に伸ば
  し、1万767票(得票率15・67%)を獲得。悲願の初議席を勝ち取りま
  した。一方、自民党は前回比で約1万6千票減、公明党は1067票減らしま
  した。
   県議選で戦争法案への態度が大争点に浮上したもとで、廃案を正面から訴え
  た共産党の躍進は、採決強行を狙う安倍政権への痛打となりました。
   有権者からは「法案が通れば、自衛官の息子が戦地に送られる。不安で眠れ
  ない。何としても勝って」(街頭演説を聞いた女性)など期待が寄せられました。
   また、3人の県議団の確立で、大震災津波からの復興をさらに進め、中学校
  卒業までの医療費無料化など、県民の暮らしと福祉を守ると主張しました。

「呼びかけ」と共産党26回大会の整合性の説明が必要 

 今回の共産党の呼びかけには、一定過去の精算という点で疑問は残るが、この提案こそが安倍政権を追い詰め日本の政治を変える大きな力になると思われる。共産党は26回大会において民主党に投げかけた悪罵等(反自民党政党ではない)に対して、民主党に対して一定の謝罪を行い、この大同団結の方針は今後共変更しないことの約束を行わない限り、他の政党は簡単にはこの呼びかけに乗らないのではと思われる。
 なぜなら今日までも反自民統一戦線を組めば、自民党の絶対的多数を阻止することはできたにもかかわらず共産党は一貫して拒否し、全選挙区に候補者を立てて、自民党の選挙を有利に導いてきた経過がある。インターネット上ではそうした共産党の全選挙区立候補を見て、隠れ自民党というような批判が結構ある。(さざなみ通信では、原仙作氏の「もし共産党が反自民の立場で選挙協力すればどうなるか」の詳しい研究成果も発表されている。)
 他党派の議員の中にも悔しい思いをした人は多くいると思われるので、この呼び掛けを現実のものにするには、その点に対する共産党の真摯な態度が求められていると思われる。