北朝鮮の核実験に対する「志位声明」を批判する。


平成28(2016)年1月7日



志位声明や談話は、アメリカ帝国主義や安倍政権よりの立場から出されている

 この間、志位声明(あるいは談話・表明)が乱発されているが、いずれも妥当性を欠き、アメリカ帝国主義の立場や安倍政権に対する応援的立場からの声明になっている。私はこれらの志位声明及び談話をことごとく批判してきた。
 それらを例示すると、2015年2月2日(月) 「過激武装組織「イスラム国」による蛮行を糾弾する」志位委員長声明2015年11月15日パリ同時テロに際して出された「テロ根絶で国際社会の一致結束を」という志位委員長の談話2015年12月25日(金)「国会開会式 日本共産党出席へ 引き続き民主的改革を要求」志位委員長が表明2015年12月29日(火)「日本軍「慰安婦」問題 日韓外相会談について」志位談話、さらには今回取り上げる2016年1月6日「北朝鮮の核実験を糾弾する」志位談話などが上げられる。
そして北朝鮮に関する共産党の立場を理解する上で、2012年3月22日(木)「北朝鮮に「ロケット」発射計画の中止を求める」 志位委員長の声明などがある。

北朝鮮の「ロケット」発射や核実験に対する志位談話の問題点(2012.3.22)

 北朝鮮に対する志位談話の特徴は、2012年の声明でも見られるように「国連安保理決議を遵守し、6カ国協議の共同声明に立ち返れ」というのが、基本的主張になっている。一見合理的な判断に見えるが、なぜ北朝鮮だけが人工衛星を打ち上げることが制限されるのか、その論理的根拠が示されていない。
 今回の声明も、「北朝鮮による核実験の強行は、地域と世界の平和に対するきわめて重大な逆行であり、北朝鮮の核開発の放棄を求めた累次の国連安保理決議、6カ国協議の共同声明、日朝平常宣言に違反する暴挙であり、日本共産党は、きびしく糾弾する。」としている。
 この声明を素直に読めば、なるほど共産党はいいことを言っていると一般的には思われると思うが、この声明には重大な問題をはらんでいる。

 共産党の「声明」や「談話」は物事の本質を見ず、相手を力で倒すという主張になっている。

 共産党の一連の声明や談話の特徴は、相手方を厳しく糾弾し、どちらかというとその勢力を、力で握りつぶすというというのが基本になっている。一番わかりやすいのが、「過激武装組織「イスラム国」による蛮行を糾弾する」志位委員長声明である。この中で志位委員長は「国際社会が結束して、過激武装組織「イスラム国」に対処し、国連安保理決議2170(2014年8月)が求めているように、外国人戦闘員の参加を阻止し、資金源を断つなど、孤立させ、追いつめ、武装解除と解体に追い込んでいくことである。」と主張した。
 この声明の最大の特徴は、「『イスラム国』の解体」という言葉を発したことである。さらにはこの文書の中で出てくる「国際社会が結束して」「国連安保理決議」というのが必ず枕言葉使われ、最終的には「解体」に追い込む、この同じ主張が他の声明や談話にも使われている。
 今回の北朝鮮の核実験に対しても、「国際社会が一致して、政治的外交的努力を強め、北朝鮮に核兵器を放棄させるための実行ある措置をとることを、強く求める。」と共産党は主張しているが、北朝鮮側の主張がどのようなものか共産党は省みたことがあるのか問いたい。

悪の枢軸論(ブッシュ大統領)北朝鮮を名指しで批判

 アメリカ合衆国のジョージ・W・ブッシュ大統領が、2002年1月29日の一般教書演説で北朝鮮、イラン、イラクの3か国を「悪の枢軸」という言葉を使って批判した。その後アメリカは、イラクに対して、2003年3月20日から、『イラクの自由作戦』の名の下に、イラクへ軍事侵略し、フセイン政府を倒した。
 北朝鮮側から見れば、悪の枢軸と名指しされたイラクがアメリカによって完全に侵略された経過から、北朝鮮に対してもアメリカが何時侵略してくるか分からないと思うのはある意味では当然である。北朝鮮は核開発の目的を、日本や韓国あるいは中国に対して開発しているとは言っていない。
 現に志位委員長は、戦争法案反対の戦いの中で「7日のテレビ東京番組で、核・ミサイル開発を進める北朝鮮と南シナ海で軍事的挑発を続ける中国について「北朝鮮、中国にリアルの危険があるのではなく、実際の危険は中東・アフリカにまで自衛隊が出て行き一緒に戦争をやることだ」と述べた。(産経ニュース:2015.11.713:30)
 つい最近の発言にも関わらず、北朝鮮が「『水爆実験』を行った」と声明を出すやいなや、「北朝鮮征伐だ」というような談話を出すのは論理矛盾である。

 北朝鮮の主張を冷静に聞いてみよう(21世紀の日本と国際社会 浅井基文Webサイト)

 朝鮮の対米提案呼びかけとその不吉な合意          2015.01.13
1.朝鮮の対米提案
2015年1月10日付の朝鮮中央通信は、朝鮮半島の緊張緩和を目指して、アメリカが本年の米韓合同軍事演習を中止することを条件として、朝鮮は核実験を臨時中止する用意があるとする内容の、次の報道を発表しました。

 最近、共和国政府はわが民族の分裂70年になる新年2015年に全民族が力をあわせて自主統一の大路を開こうとする念願から、米政府に朝鮮半島で戦争の危険を取り除いて緊張を緩和し、平和的環境をつくるための重大措置を提案した。
 南朝鮮で毎年絶え間なく繰り広げられる大規模な戦争演習は朝鮮半島の緊張を激化させ、わが民族の頭上に核戦争の危険を招く主な禍根である。
 相手側に反対する戦争演習が繰り広げられる殺伐たる雰囲気の中で信義ある対話がおこなわれるはずはなく。朝鮮半島での緊張緩和と安定について論じることができないということは言うまでもない。
 米国は、時代錯誤の対朝鮮敵視政策と無分別な侵略策動に固執せず、大胆に政策転換をするべきであろう。
 意義深い今年を朝鮮半島で合同軍事演習のない年にすることができるならば、朝鮮の統一と、ひいては北東アジアの平和と安全のための和解をもたらすことに大きな寄与となるであろう。
 共和国政府の提案を盛り込んだメッセージが去る9日、当該のルートを通して米国側に伝えられた。
 メッセージは、米国が今年、南朝鮮とその周辺で合同軍事演習を臨時中止することで朝鮮半島の緊張緩和に寄与することを提起し、この場合、われわれも米国が憂慮する核実験を臨時中止する応えの処置を講じる用意があることについて明らかにしている。以下略

 この北朝鮮側の文書を読めば、北朝鮮が結構まともで、その主張にも十分理があることが分かる。我々はテレビで北朝鮮のおかしな宣伝画面ばかり見せられ、いつの間にか悪の枢軸の国だということを叩き込まれており、事態が正しく認識できていないことが分かる。こうした国民の洗脳された常識に乗っかり、常に安倍首相よりも「相手をぶったおせ」的な声明が志位委員長から出されている。注1

注1:「イスラム国」問題では、志位委員長は「イスラム国」を「孤立させ、追い
  詰め、武装解除と解体に追い込んでいく」といったが、安倍首相は、「罪を償
  わせる」という発言を批判しながらも、後に「『法によって裁かれるべきだと
  考える』(2月2日の参議院予算委員会)と発言を事実上、修正した。
   さらに「パリの同時多発テロ」でも志位委員長は、赤旗(11月15日付)一面
  で、「テロ根絶で国際社会の一致結束を」と談話を発表しているが、安倍首相
  は、「いかなる理由があろうともテロは許されない。断固、非難する。日本は
  テロの未然防止に向けてフランスはじめ国際社会と緊密に連携し取り組んでい
  く」と述べた。この発言でも、志位委員長は「テロ根絶」という言葉を使って
  いるが、安倍首相は、「テロは許されない」と言っている。

共産党はいかなる国の核実験を反対してきた歴史がある

 原水爆反対運動は大きな盛り上がりを見せたが、共産党系(原水協)と社会党系原水禁に分裂してきた経過がある。共産党の主張は、アメリカの原爆は戦争の手段のための原爆であり、平和の敵であるが、社会主義国の核は平和を守るための核だと言って、「いかなる国の核実験反対」という主張を絶対に受け入れなかった時期がある。さらには原水禁が核と人類は共在できない」と主張していたが、共産党は核の平和利用を一貫して主張してきた。
 3.11東北地方太平洋沖地震の再に原発が崩壊し、とんでもない事態に陥っても、その直近に行われた一斉地方選挙で共産党は原発に反対できず、「安全優先の原子力政策」を掲げて戦い大敗した。その後5月のメーデー会場で志位委員長が原発ゼロ宣言が行われ、原子力政策を大きく変えたが、国際政治では、未だに「いかなる国の核実験反対」路線をとらず、特定の国の核実験反対運動を行っている。
 なぜ、核兵器大国のアメリカやソ連、中国の核兵器を攻撃対象にしないのか、あるいはイスラエルやパキスタン、インドの核はどうなのか、さらには最近では、イランの核と北朝鮮の核に対するアメリカあのダブルスタンダードの対応を認め、北朝鮮の核にだけ、それを国際的に封じ込める旗振りを行うのか、全く理解ができない。
 昔は社会主義国の核は平和のための核と言っていたが、いつの間にかアメリカの核は平和の核であって、北朝鮮の核は戦争のための核に位置づけているようさえに見える(?)。
 北朝鮮の主張を見れば、アメリカからの侵略を恐れ、その自衛のために核を持つと主張している。アメリカが朝鮮半島で合同軍事演習をやめてくれれば、核開発は見直すような主張を行っている。
 北朝鮮川から見れば、米韓の合同軍事演習が如何に脅威であるかがわかる。このようなアメリカの軍事挑発に対して抗議を行わず、北朝鮮だけを封じ込めていく主張では平和を実現することはできない。