中国共産党との決別を意識し始めた日本共産党



平成28(2016)年9月11日

  9月5日(月)赤旗は「『クアラルンプール宣言』日本共産党のとった立場」という面白い記事を載せている。何が面白いのか、それは「第9回アジア政党国際会議」(ICAPP)(注1)で中国共産党が如何に理不尽な対応をしたかを徹底的に批判している。

注1:ICAPPは、イデオロギーの違いをこえ、与野党を問わず、アジアの全政党に開
  かれた包括的な会合。今回の主要テーマは、核兵器廃絶をめぐり焦眉の課題と
  なっている「核兵器禁止条約のすみやかな交渉開始」であった。
   参加政党は、37か国から日本共産党など与野党合わせて89党の代表が参加、
  日本共産党は志位委員長をはじめ、緒方靖夫副委員長など4名が参加(赤旗日
  曜版より引用)

 この「クアラルンプール宣言」に際して中国の代表団が取った態度について赤旗は、9月5日(月)、9月11日付赤旗日曜版、さらには9月11日赤旗にと再三掲載し、中国共産党に対する批判を強めている。私は、この問題の経過を(9月11日付)赤旗日曜版を利用し説明を加えていきたい。この日曜版は志位委員長に聞くというインタビュー形式で綴られている。そのため話言葉になっている事を最初にお断りしておきます。
 以下この問題理解のため赤旗日曜版の「志位委員長に聞く」の要約を行う。

  赤旗日曜版は、一面トップで「アジア政党会議 総会宣言」「『核兵器禁止条約』を削減」という見出しを掲げ、「日本共産党が抗議」『部分的保留』表明」という見出しと共に、志位委員長のICAPPでの発言する姿の大きな写真を掲載している。
 

「アジア政党国際会議」(ICAPP)での志位委員長の発言は、

 @「国際法に基づいて紛争の平和解決を」では、東アジア全体に共通する問題とした特に2点を強調して発言しました。
 一つは、「軍事対軍事」の危険な悪循環に陥らず、どんな問題でも外交的・平和的に解決する態度を堅持すること。
 いま一つは、領土に関する紛争解決にあたっては、国際法に基づき、力による現状変更、武力行の行使および威嚇など、紛争をエスカレートさせる行動を厳に慎むことを訴えました。
 A「核兵器禁止条約の速やかな交渉開始を」では、「『核兵器禁止・廃絶条約のすみやかな交渉開始』を世界に向かって呼びかけよう」と訴えました。

 この志位委員長の発言は、「核心を突いた指摘と」共感が寄せられましたが、実際の「宣言」には盛り込まれず。日本共産党代表団は核兵器問題に関し、「部分的保留」という態度を表明したことが、赤旗日曜版に掲載されています。
 「部分的保留」の理由は、「10年前のプノンペン(カンボジア)14年前のコロンボ(スリランカ)の総会宣言に入っていた『核兵器禁止条約のすみやかな交渉開始を呼びかける』という大多数の国連加盟国と市民社会求める焦眉の課題が『クアラルンプール宣言』から欠落したからです。」とされています。

なぜ「クアラルンプール宣言」で「核兵器禁止・廃絶」は後退したのか?

 それは、中国共産党の策動があったからです。その具体的経過を赤旗は載せている。
「二転三転した『宣言』めぐる事態」という見出しを掲げ説明しています。
まず@「日本共産党の提案は歓迎されていた」という中見出しで、私たちが求めた中心点は、「核兵器禁止条約の国際交渉の速やかな開始を呼びかける」ことを明記することでした。この提案にはICAPP鄭事務局長から「積極的な提案に感謝する」との返事がありました。
 さらにA「『核兵器』『国際法』で修正案を提起」という中見出しで、総会初日の2日、私たちが入手した宣言提案には、「核兵器禁止条約の国際交渉の開始」という内容が明記されていました。ところがその後、総会参加者に配布された草案には、核兵器禁止条約にまったく触れていないものでした。
 領土に関する紛争問題を国際法に基づいて解決するという当然の内容も含まれていませんでした。この原因が中国共産党代表団の動きだということが分かり、日本共産党代表団として修正案を提起しました。
 内容は、一つは、核兵器問題について「核兵器禁止条約のすみやかな交渉開始を呼びかける」もう一つは、領土に関する紛争問題の解決については、「国際法を基礎として」という言葉を明記するように求めた。
 次にB「中国共産党代表団と2度の話し合い」という中見出しで中国との交渉経過を掲載している。
 この話し合いで、日本共産党は、2008年に東京で行った胡錦濤総書記との両党首脳会談で、「国際会議の場で核兵器廃絶などの課題について協力する」という合意がある。その合意に基づき両党間で協議をする必要があると考え、協力を要請したが、中国側は、「宣言は簡素にしたい。元のままがいい」と修正を拒否しました。
 緒方氏が「過去2回のICAPP総会で、中国も賛成し、全会一致で賛成しているものだ。なんの問題があるのか」とただしたのに対し、中国側は、「過去のことは知らない。こういう文章を入れることは、侵略国の日本がまるで被害者のように宣伝されてしまう」と言いました。核兵器禁止条約への言及は反対という立場を理由も示さず繰り返しました。
 その後再度の話し合いを提起し、重ねて修正案説明し、理解と協力を求めました。それでも中国側は、「日本が被害者のように宣伝されてしまう」という発言は撤回したものの、問答無用で修正を拒否する態度をとり続けました。
 中国側に拒否の理由をただしたが、それには答えず、最後には「あなたは覇権主義だ。自分たちの意見を押し付けている」と非難してきました。

C「起草委は修正案を全員一致で受け入れ」・・ヌカ喜び!

 この日本共産党の修正案は、中国共産党の代表団も含め全員一致で受け入れられた。ところが次の見出しD「事態急変―採択直前に『核兵器禁止条約』」削除という中見で二転三転の経過が書かれている。
 鄭事務局長が「ある国の代表団」が「核兵器禁止条約のすみやかな交渉開始」の部分を削除してくれと言っている。と泣きついてきた。「全会一致で決めた物を、ある国の代表団が変更を持ち込めるのか」と抗議したが、鄭事務局長は、「あなたの言う通りだが、宣言が成り立たなくなる。だから誤っている」と繰り返し謝罪がのべられました。 

≪強い抗議を表明する文書を議員団長に提出≫

 「採決直前に突然、宣言の最終案の変更を求めた一代表団のふるまいは、異常かつ横暴きわまるものであり、この一代表団によって、ICAPPの会議が民主的運営に著しく反する事態が引き起こされたことに、強く抗議する」
 日本共産党代表団の表明を受け、鄭事務局長は総会の最後の報告で、「一部の代表団が、宣言の採択後、宣言に対する部分的留保を表明した」と述べ、「クアラルンプール宣言」の採決が全員一致でないことを公式に認める異例の発言を行いました。

 最後にE「キッチンの裏で料理し、会議に押し付ける」という中見出しで中国共産党代表団を批判。
 「中国は参加者の前で自分の意見を述べる自信が全くないので、キッチンの裏側で料理して会議に押し付けるやり方をとった。こんなことは絶対に許してはならない」とある代表団が語ったことを紹介し、中国のやり方は、総会の民主的運営に反する横暴きわまる方法で「核兵器禁止条約のすみやかな交渉開始を呼びかける」を削除し、ICAPPのこれまでの到達点を大きく後退させた中国共産党代表団のふるまいは、まったく道理がなく、厳しく批判されなければなりません。と日本共産党は中国共産党を厳しく批判した。

日本共産党、「中国共産党との決別」をやっと決断したことが伺われる。

 赤旗日曜版は、これら一連の経過のほかに、「総会を通じ明らかになったこと」という解説記事を載せている。その内容は興味深く、日本共産党が中国共産党を切り捨てることが、いよいよ射程距離に入ってきたことが伺われる。

日本共産党の中国共産党に対する評価は?

 私は日本共産党が選挙で勝てない理由は多々あるが、その主要な原因の一つに、中国が社会主義だと認めているところにあると一貫して批判してきた。この話を現役の共産党員に言うと、日本共産党は「中国は社会主義国とは言っていない」「中国自身が社会主を目指す」と言っているので、それを尊重してそのように呼んでいるという。それなら「北朝鮮も社会主義国か?」と聞くと「北朝鮮は勝手に言っているだけで社会主義国ではないと言う」この説明は非論理的であり、無責任であり、判断基準が分かりにくい。
 日本共産党が中国をどう評価しているかを国民が聞いているのに、中国は「社会主義を目指していると表明しているから、それを尊重してそういっている」という共産党の主張を国民は受け入れないであろう。
 今、共産党は野党共闘を推し進め、極めて危険な安倍右翼政権を打倒しようと考えている。しかしこの野党共闘を推し進めるに当たっては、他の野党からいくつかの課題が突き付けられている。その代表例が現行憲法下における自衛隊の容認であり、安保体制の維持であろう。さらには中国の覇権主義的な行動が目立ちはじめ、多くの国民がそのことに忌避意識を持ち始めてきた現状で、中国は社会主義国で日本共産党も社会主義を目指しており、友好関係にあるいう立場では、野党共闘が成立させることが難しいことを理解し始めている。

 中国と決別するには、共産党は大義を必要としており、ついにその理由を見つけたというのが今回の赤旗の中国批判だと思われる。

 中国はこの間、アメリカに対して太平洋をアメリカと中国に2分して、お互いに相手の支配を認めようと働きを務めている。(注2)南シナ海では九段線を一方的に主張し実行支配を強める中、フィリピンが2013年に提訴した仲裁裁判で、中国の主張が敗れたにも関わらず、その判決を一切無視してさらに実効支配を強めている。

注2:米太平洋軍のキーティング司令官(海軍大将)は3月11日、昨年5月に中
  国を訪問した際、会談した中国海軍幹部から、ハワイを基点として米中が太平
  洋の東西を「分割管理」する構想を提案されたことを明らかにした。上院軍事
  委員会の公聴会で証言した。同司令官はこの「戦略構想」について、「中国は
  影響が及ぶ範囲の拡大を欲している」として警戒感を示した。
                           産経新聞 2008/3/13》

 日本に対しても尖閣諸島周辺に中国の漁船と公船が連日のように尖閣諸島(沖縄県石垣市)周辺に押し寄せ、日本への挑発を繰り返している。また小笠原諸島近海に突如出現した中国の赤サンゴの密漁の大漁船団。最近では、サンマ漁の船団が大量に押し掛け、日本の排他的経済水域の外側の公海ではあるが、国際的な慣習やルールを踏みにじり、日本の従来からの漁場を奪い取り、国民生活に多大な損害を与えている。
 日本共産党の中国共産党に対する評価は、こうした日本の国民の安全と平和を一方的に攻撃をかけてくる現状に対して怒りを表すのではなく、「中国は社会主義国」であると涼しい顔をしている。
 ところが国際会議(ICAPP)で、日本共産党の主張が中国共産党の理不尽な行為によって押しつぶされた時に日本共産党は初めて怒りをもって立ち上がる。ここに共産党の教条主義的な性格が浮かび上がってくる、
 尖閣列島が中国漁船や公船に踏みにじられても、赤サンゴが根こそぎ奪われても、サンマが日本の排他的海域に入る前に大量に奪い去られても立ち上がらない共産党が、国際会議で日本共産党のメンツをつぶしたから、初めて「中国共産党はとんでもいないやつだ」と認識し、怒りが頂点になる。(何か価値観がズレている。)

中国共産党批判は全面的に支持するが、共産党もあまり威張れない過去がある。

 今回の中国との戦いは、日本共産党の主張が全面的に正しい。(注3)しかし共産党は中国のおかしさに初めて気が次いで騒いでいるが、日本国民の多くは、中国は社会主義国だなどと思っていないし、自国の国民の生活の安定よりも、他国との友好関係の確立よりも、共産党の高級幹部の利益追求に熱心だということは、すでに国民社会では常識になっている。この国民の気分感情と離れたところで、急に中国共産党は間違っていると声高に叫んでみても、国民はもうとうにそんなことは知っているし、日本共産党が今頃中国がおかしいという主張に接して、国民の意識との遊離だけが目につくだけである。

注3:今回の会談で日本共産党のとった主張は全面的に正しい。これは評価される
  べきだが、核兵器に対する共産党の態度は一貫しているのではなく、過去には
  帝国主義の核と社会主義との核とは性格が違い、帝国主義の核は侵略のための
  核であるが、社会主義国の核は平和のための核であると述べた歴史がある。
  (注4)中国が現在とっている論理もこの視点が原点にあるのかも知れない。  (この点は確認できていないが)
   さらには、共産党は核の平和利用にも積極的であり、「核と人類は共存でき
  ない」という立場を鮮明にしたのは、東日本大震災以降である。しかも震災後
  の一斉地方選挙では「安全優先の原子力発電」という主張を行い、大きく敗北
  し、5月1日のメーデー集会で初めて、原発ゼロを宣言した経過がある。

注4:岩間正男「社会主義の核は平和の力」
   1964年10月30日の参議院予算委員会で、中国の核実験成功(1964年10月16日)
  について「世界の四分の一の人口を持つ社会主義中国が核保有国になったこと
  は、世界平和のために大きな力となっている。元来、社会主義国の核保有は帝
  国主義国のそれとは根本的にその性格を異にし、常に戦争に対する平和の力と
  して大きく作用しているのであります。その結果、帝国主義者の核独占の野望
  は大きく打ち破られた。(中略)このような情勢を踏まえて中国は核兵器禁止
  のための世界首脳会議を提唱してきたのです。これこそ世界人民の心からなる
  念願にかなうものであることはもちろん、最も現実的で、その気になれば実現
  可能な提案です。」と発言している。

最後に日本共産党の中国共産党批判のすごさを確認しておこう

 赤旗日曜版は、「核兵器問題で中国に深刻な変質が」「平和・進歩勢力の側にあるとはいえない」「未来は『核兵器なくす』世論と運動の側に」という三点から批判している。以下その三点の内容を見てみたい。
1.核兵器問題で中国に深刻な変質が
 昨年の秋の国連総会で、核兵器の禁止・廃絶に関する法的措置を議論する作業部会(OEWG)を設置する決議案が採択されたときのことです。このとき核保有五大国―P5(米国、ロシア、英国、フランス、中国)は頑固に反対する態度をとりました。
 中国は、欧米諸国とともに、国際社会の圧倒的多数で核兵器禁止条約に動き出している時に、それに逆らう動きに加わった。
 中国はこれまでP5の一員でありながら、核兵器禁止条約に反対する立場を単独で表明することはありませんでした。ほかの核保有国が代弁してくれたからです。しかしICAPP総会では、他のP5国は参加しておらず、核兵器禁止条約に反対する中国の立場が、ICAPP総会ではむき出しの形であらわれた。
2.平和・進歩勢力の側にあるとはいえない
 今回のICAPP総会での体験を通じて三つの点が分かった。
 第一は、少なくとも核兵器問題については、中国はもはや平和・進歩勢力の側にあるとは言えない。核保有国の代弁者として「核兵器のない世界」を求める動きを妨害する。これが中国の立場です。
 第二は、そういう自分たちの主張を押し付けるために、ICAPPという国際会議の民主的運営を乱暴に踏みにじったということです。これは覇権主義的なふるまいそのものです。
 第三に、今回の中国代表団の対応は、日本共産党と中国共産党の両党関係にとっても重大な問題です。日本共産党が真摯に話し合いを求め、協力を求めた修正案対して、一つの理由も示すことなく拒否したうえ、最後は「覇権主義」という悪罵を投げつける。これは双方が確認している両党関係の原則とは相いれない態度と言わなければなりません。(注5)
3.未来は「核兵器なくす」世論と運動の側に
 核兵器固執勢力は、核兵器禁止条約の交渉開始を求める国際世論、圧倒的多数の国連加盟国によって追い込まれています。国連の核軍縮作業部会の定期により、核兵器禁止条約の交渉が来年にも開始される」どうかということが」現実の熱い焦点となり、世界が核兵器禁止条約の方向に大きく動きつつあるという画期的事態が進展しています。今年から来年に向けて世界が大きく動こうとしているのです。
 未来は、「核兵器のない世界」を目指す国際世論と市民社会の運動にあります。ここに確信をもって、平和な世界をつくるために力を尽くしたいと考えています。

注5:中国共産党批判は、日を追うごとに厳しくなり、9月11日付赤旗は、「ゆがめ
  られた総会の宣言」「筋を通した日本共産党代表団の活動」という記事を赤旗3
  面をすべて埋め尽くす代表団の座談会記事を載せている。
   この記事の最後のまとめを緒方靖夫副委員長が行っているがその内容は「日
  本共産党と中国共産党の間には、相互に確認しあった自主独立、対等平等、相
  互尊重、内部問題相互不干渉の原則があります。今回の中国共産党の代表団が
  とった態度は、この原則に照らして、大きな問題があります。」としていま
  す。

 この緒方靖夫副委員長の批判は、共産党が他国の共産党と決別する際の常套句であり、共産党はそろそろ中国共産党と手を切ることを考え始めていると言える。すでに日本共産党にとっては中国共産党はお荷物以外の何物でもない存在である。