志位委員長の「イスラム国」糾弾声明は致命的な欠陥を持つ


平成27(2015)年2月5日


オバマ「声明」と比較した場合、オバマ「声明」の方が明らかに優れている

 2月2日赤旗は後藤健二さんが殺害されたことを示す映像が流されたことを受けて、志位委員長名の「声明」を出した。この「声明」で、「いま求められているのは、国際社会が結束して、過激武装集団「イスラム国」に対処し、国連安保理決議2170(2014年8月)が求めているように、外国人戦闘員の参加を阻止し、資金源を断つなど、孤立させ、追い詰め、武装解除と解体に追い込んでいくことである。日本政府の外交も、こうした方向に資するものとなるべきである。」
 この声明は安倍首相や、オバマ大統領の声明より過激である。(注1)

注1:後藤さん殺害映像 オバマ米大統領が声明「憎むべき殺人」 ケリー氏
  「残虐性あらわに」産経新聞 2月1日(日)9時40分配信
   【ワシントン=加納宏幸】オバマ米大統領は31日、イスラム教スンニ派
  過激組織「イスラム国」が後藤健二さん(47)を殺害したとする映像を投
  稿したことについて、「イスラム国による憎むべき殺人を強く非難する」と
  の声明を発表した。後藤さんが現地からの報道を通じ、「勇気をもってシリ
  ア国民の窮状を外部世界に伝えようとした」と強調した。
  オバマ氏は日本政府が中東地域の罪のない人々への支援を通じて平和と繁栄
  に揺るぎない形で関与していることをたたえるとともに、安倍晋三首相や日
  本国民と連帯していく考えを表明。「幅広い有志連合とともに、米国はイス
  ラム国を弱体化させ最終的に壊滅させるため断固とした行動をとり続ける」
  とした。
    ケリー米国務長官も声明を発表し、後藤さんの家族や日本国民に弔意を表
  明するとともに、後藤さん、湯川遙菜さんを殺害したとするイスラム国がそ
  の「残虐性や過激思想」をあらわにしたと指摘。同盟国である日本とともに
  「引き続き肩を並べてテロに立ち向かい続ける」と強調した。

オバマ氏の「声明」は、後藤健二氏の活動を賞賛し、日本の役割を「人道支援を通じて平和と繁栄に揺るぎない貢献」と武力以外の役割での参加を評価し、「幅広い有志連合」という形で、それぞれの貢献に対する参加形態の違いを認めながら、全体としてイスラム国を弱体化させ最終的に壊滅させるため断固とした行動をとり続ける」と結んだ。
 ケリー長官は「引き続き肩を並べてテロに立ち向かい続ける」とだけ表明し、イスラム国の壊滅までに触れていない。
 志位氏の表現は、「イスラム国」の解体が前面に出ており、オバマ大統領が触れた憲法に基づく日本国平和主義に基づく独自の貢献について全く触れず、今後は有志連合の優等生として「イスラム国」解体を目指して働けと政府を鼓舞している。
 志位声明の最大の弱点は、平和憲法を有する我が国が、今回の事件を教訓としながらも、軍事的な報復に向かうのでは無く、さらにいっそう中東情勢の安定化を願い、平和的な人道支援に徹すべきだと主張すべきであった。
 前回の記事でも書いたが、このヒントは、志位「声明」の下の記事(「暴力の連鎖はのぞまない」)にあった。この記事には、重要なキーワードが含まれている。まず「私たちは報復の連鎖はのぞみません。」、「誰もが互の違いを尊重し、平和に暮らせるようになるため、行動をしたい」「日本は70年間戦争をしなかった。その歩みをやめささないでほしい」
 これらのキーワードを含んだ「声明」を出すべきであった。有志連合の頭目であるオバマ大統領の「声明」の方が格段と優れている。志位「声明」は戦争前夜の大本営発表のような主張になっている。

志位「声明」は一夜にして「ボツ」になる。

 今回の「イスラム国」の「人質殺害警告」に接して、大手マスコミが一斉に政府批判をやめて政府発表だけを報道した。明らかに言論統制が行われた。これに共産党の赤旗までが協力した。この流れを見て、戦前マスコミが全て戦争支持の記事を書き真実を伝えず大本営発表の記事を垂れながした。この事の反省が今日の新聞の原点になっていると理解していたが、今回こんなにも簡単に大手メディア協力する姿勢を見てビックリした。しかもその中で最大の優等生が赤旗であった。
 この赤旗の報道姿勢に疑問を感じながらも、人質救済を最大の課題として捉え、政府に協力しているのではという思いもあった。ところが、後藤健二さんの殺害が報道されたあくる日の赤旗は、志位声明に見られるよう、他のマスコミに比べても最も右翼的な「声明」【主張】や記事を書いた。私はこれを見て赤旗のこの間の主張は報道統制でなく、共産党の方針であったことを確認した。
 しかし、2月3日の参院予算委員会で、小池議員が、この間の政府の対応や、安倍首相のエジプトでの発言の批判を行った。これはテレビ朝日でも大きく取り上げられ、TBSも報道した。また地方紙も大きく取り上げ、全国紙では「日経」が取り上げた。(赤旗2/5)
 2月4日には、民主党も細野氏や辻本清美氏が取り上げたが、一番手に共産党が取り上げたことは大いに注目された。(共産党は逆に舵を切った)
 さらに2月5日赤旗は、安倍首相「罪を償わせる」発言、「国際社会に波紋」という記事を一面左」トップに載せている。なか見出しに、黒をバックに白抜きで「日本の平和主義からの逸脱」、「事件を軍事化の口実」目立つ見出しを掲げ、この間の安倍政権の対応の批判を行っている。「ニューヨーク・タイムズ紙2日付は『安倍首相は日本の平和主義から逸脱し復讐を誓う』という見出しの記事を掲載し、この中で『首相の復讐の誓いは、軍事関係者さえも驚かせた』と指摘。」「『安倍首相は、戦後の平和主義を捨てて、世界でより積極的な役割を日本に担わせようとしている』とのべました。」
 ワシントン・ポスト紙(電子版)は3日、「人質事件に対する安倍政権の対応を質した日本共産党の小池参議院議員の質問を引用。安倍政権が集団的自衛権の行使を目指していることを指摘し『日本の国家主義者らは人質事件を軍事力強化の口実に使うかも知れない』との識者の声を紹介しています。」というアメリカの報道を伝えている。
 さらに最後に「首相は『国民の安全に万全を期す』と語りますが、自らの発言が国民を危険にさらしているという認識はありません」と赤旗記者の感想で締めくくっている。

 先に(2日)「一夜にして右傾化した共産党」という記事を書いたが、志位声明は2月2日であったが、3日には国会で小池氏が安倍首相を追求し、5日の新聞もアメリカ発であるが明らかに安倍首相批判に重心を動かしている。全く一貫性が無く、小池氏が安倍首相のエジプトでの発言批判がが、大きく取り上げられたことに驚き、(志位「声明」には全く評価されなかった)共産党はまたまた立つべき位置を変えた。
 ただし、共産党のずるいところは(この間、いつもこのパターンであるが)、自分の主張で無く、「誰々がこう言っている」ということで自分の立場を変えて来ていることである。
 オバマの声明も、ニューヨーク・タイムズ紙もワシントン・ポスト紙も日本のマスメディアよりよっぽどいい話を書いている。これに飛びつき自らの主張もこれなのだというのが共産党の姿勢である。

 共産党が、右旋回から左旋回に戻ったことは良いことだが、何ら反省が無く、アメリカ側の主張を見て変えていることは簡単には見逃せない。共産党は「安倍氏の発言『罪を償わせる』が『復讐』の論理であり、国際社会に波紋を呼んでいる」と主張しているが、これよりひどい発言をした政治家を忘れている。日本の政治家の中で最も危険な思想に基づき、最も危険な発言を行ったのは、何を隠そう「共産党の委員長である志位氏である。」
 志位委員長は「声明」で、「資金源を断つなど、孤立させ、追いつめ、武装解除と解体に追い込んでいくことである。」とまで宣言してしまった。もしこの同じ内容を安倍首相が言えば「宣戦布告」に等しい発言になるであろう。
 あべ首相は、「罪を償わせる」であるから「目には目を歯には歯を」の思想である。何人かを殺せば良い、首をはねたと言われる「イギリスでラッパーをやっていた『首切り魔』役の男」を捕まえれば良い話である。
 ここで思い出したが、安倍首相の「罪を償わせる」という発言を批判しながら、赤旗は先の記事では、この安倍発言が訂正されていることをご丁寧に赤旗は書いている。「『法によって裁かれるべきだと考える』(2日の参議院予算委員会)と発言を事実上、修正しました。」と補足している。
 こうなれば、志位「声明」が如何に突出しているかは明らかである。「『解体』に追い込んでいく」(「声明」)と叫んでしまった。
 安倍首相が修正したのであれば、志位氏も修正しなければならない。志位「声明」で「イスラム国」解体を叫びながら、安倍首相の発言を批判しても何ら説得力はない。

共産党の主張が如何に突出しているかは、国会決議の調整を見ればわかる。

 本日付(5日)毎日新聞朝刊は、「テロ非難決議案 衆院採択へ」という記事を載せている。
 この決議案は、「我が国および国民はテロリズムを断固として非難するとともに、決してテロを許さない姿勢を今後も堅持する」とテロに屈しない姿勢を表明する。という原案が採択される見込みであるという記事の中で、自民党が主張した案を載せている。
 自民党案は「あらゆる形態のテロリズムを断固として非難する」「テロと闘う国際社会との連携、取り組みを一層強化するよう政府に要請する」などの表現を検討したが、「野党から『表現が強すぎる』などの指摘があり削除した。」と書かれている。
 この削除に共産党がどうか変わったかは分からないが、もし志位「声明」が正しいのであれば、この削除された部分は、志位「声明」と瓜二つ、いや志位「声明」それ以上に過激である。志位「声明」は、「国際社会が結束して、過激武装組織『イスラム国』に対処し・・・外国人戦闘員の参加を阻止し、資金源を断つなど孤立させ、追いつめ、武装解除と解体に追い込んでいくことである。日本政府の外交も、こうした方向に資するものになるべきである。
 これを読んでいただければ、自民党案より共産党志位委員長の「声明」が如何に過激(「右翼より」)かわかるであろう。元外交官の天木直人さんのブログで「敵とみなされた日本の衝撃と安倍首相の責任の大きさ」(2月2日)の中で、「志位和夫委員長もまた歴史に残る失態をおかした。」「安倍首相と志位和夫委員長はいいコンビである」と書かれている。
 そう言われるほどこの「声明」には問題がある。

本日付(5日)の毎日新聞の【余録】に共産党が書くべき記事の見本が掲載されている。


 テロリストは理不尽な暴力の衝撃と恐怖で人の心を打ちのめし、その支配を狙う。目指すのは彼らが増殖できる無秩序の拡大である。ならば日本政府や日本人がヨルダンの人と共になすべきは難民支援をはじめ人々の暮らしを支える手助けを淡々と進めることだろう。
 故郷を追われた人、殺りくや迫害を逃れた人が逃げ込む地域の安全と平穏は国際社会の宝である。そこを静かに支える「テロとの戦い」もあろう。
 この主張こそ平和憲法を持つ日本の主張である。これを理解せずに安倍首相は、『イスラム国の脅威を食い止めるためにイスラム国と戦う周辺諸国を支援する』と語ってしまった。しかし。これより恐ろしいのが、「志位氏の『イスラム国』を『解体』に追い込む」という主張である。日本の政治家の中で馬鹿二人の先陣争いをしている。なげかわしいばかりである。