日本共産党 最近おかしくないですか

徴用工問題の公正な解決を求めるー韓国の最高裁判決について(志位委員長見解)


平成30(2018)年11月4日(日)


徴用工問題に対する志位委員長の見解には賛成するが、一定の懸念もある。
 

 徴用工問題での韓国の最高裁判決について日本国内では大きな批判が渦巻いている。安倍首相や河野外相が語気を荒げこの判決を批判し、国際的には全く通用しない議論だと騒いでいる。これはある意味では当然だが、一般のマスコミや共産党以外の政党の主張も全て同じ立場に立っており、非常に珍しい現象になっている。
 そこで唯一、この韓国の最高裁判決を評価しているしんぶん赤旗の志位委員長の見解が注目される。ここで共産党は日本のマスコミや他の政党との違いを明確にし孤高を守っている。例えば立憲民主党の枝野代表は、徴用工判決は「大変遺憾」という内容を31日の記者会見で述べている。彼の語った内容は「判決は大変、残念であり、遺憾におもう」と述べ「韓国政府には1965年の日韓請求権協定を踏まえて適切な対応を取ることを強く期待している」と語った。(11/31産経ニュース)より引用

政府やマスコミ、各政党は何を根拠に韓国の最高裁判決を批判しているのか


その根拠は
1.1965年の国交正常化に伴う請求権で元徴用工への補償問題は解決済みであると主張
2.2005年廬武鉉政権は、請求権協定当時の経済協力金に、保証が含まれるとの見解をまとめた。文在寅
  現大統領はこの時、大統領府高官として深くかかわった当事者だ。
3.上記見解を受けて韓国政府は国内法を整え、元徴用工らに保証をおこなった。
4.国内の事情によって国際協定をめぐる見解を変転させれば、国の整合性が問われ、信頼性も傷つきか
  ねない。

 という批判だと思われる。

 韓国の最高裁判所の判決批判は、ほぼこれらの論点に基づいていると思われるが、朝日新聞社説はこれらを列挙した後で、「負の歴史に由来する試練をどう乗り切り、未来志向の流れをつくりだすか。政府の力量が問われている。」と結んでいる。毎日新聞社説は「韓国最高裁の徴用工判決 条約の一方的な解釈変更」という見出しを掲げ、上記論点を記載し、最後は「日本も感情的対立を招かないよう自制が必要だ。しかし、主体的に問題解決を図るべきは韓国政府だということを自覚してほしい。」で結んでいる。

共産党の志位委員長の見解の論点は何処にあるのか 

 基本的視点は、「日本政府と該当企業が、過去の植民地支配と侵略戦争への真摯で痛切な反省を基礎にし、この問題の公正な解決方向を見出す努力を求める」というのが基本的立場である。
 この共産党の基本的立場は1965年の日韓国交正常交渉と日韓請求権交渉に際して植民地支配の法的性格等の議論が曖昧にされた事にあると見ている。毎日新聞も上記社説で、「植民地支配の法的性格については、正常化を優先させることであいまいにした経緯がある。正常化交渉に当たってた韓国の金鍾泌元首相は回顧録で、「双方が国内的に都合の良い説明をし、お互い黙認することで政治決着したと明らかにしている。」と書かれている
 志位委員長はこの点を「徴用工の問題――強制動員の問題は、戦時下、朝鮮半島や中国などから、多数の人々を日本本土に動員し、日本企業の工場や炭鉱などで強制的に働かせ、劣悪な環境、重労働、虐待などによって少なくない人々の命を奪ったという、侵略戦争・植民地支配と結びついた重大な人権問題であり、日本政府や該当企業がこれらの被害者に対して明確な謝罪や反省を表明してこなかったことも事実である。」と指摘している。

 さらに志位氏の指摘は、「たとえ国家間で請求権の問題が解決されたとしても、個人の請求権を消滅させることはない――このことは、日本政府自身が繰り返し言明してきたことであり、日本の最高裁判決でも明示されてきたことである。(注1)
 日本政府と該当企業は、この立場にたって、被害者の名誉と尊厳を回復し、公正な解決をはかるために努力をつくすべきである。」というものである。

 今日(11月4日)のサンデーモーニングでもこの問題が取り上げられたが、藪中三十二(立命館大学客員教授・元外務省事務次官)、田中秀征(元衆議院議員、福山大学客員教授)司会の関口宏氏も、韓国批判一辺倒であったが、コメンテータの松原耕二氏が90年代以降の動き国家間で問題が解決すると言う論理は古く、民衆の視点で問題を考えることが重要なのではないかという問題提起を忘れてはならないと言われた。

注1:予算委員会会議録第三号 平成3年8月37日【参議院】
 〇政府委員(柳井俊三)いわゆる日韓請求権におきまして両国間の請求権の問題は最終かつ完全に解決
  したわけでございます。
  その意味するところでございますけれど、これは日韓両国が国家として持っております外交保護権を
  相互に放棄したということでございます。したがいまして、いわゆる個人の請求権そのものを国内法
  的な意味で消滅させたというものではございません。日韓両国間で政府としてこれを外交保護権の行
  使として取り上げることはできない。こういう意味でございます。

韓国の大法院(最高裁に相当)判決は何を語ったか

 判決文で「原告は未払い賃金の支払いを求めたのではない。日本の違法な植民地支配、日本企業の反人道的不法行為を前提にした慰謝料を請求しているのだ」
 この判決は、日本政府がいう「1965年の国交正常化に伴う請求権で元徴用工への補償問題は解決済みであると主張」を乗り越え、そんなことを議論しているのではない、韓国の国民(原告は)、日本の違法な植民地支配、日本企業の反人道的不法行為を前提にした慰謝料の請求だ」と言い切った。
 この判決に対して、1965年に賃金の未払い等の請求権は消滅したと主張しても何ら解決しない。植民地支配に対する糾弾こそがこの裁判の真実である。

今回の韓国の判決の本質を見抜いたのは共産党だけであった。

              (大手マスコミや政党の中でという条件付きであるが)
 共産党はこの間どちらかというと大衆迎合的に動くことが多かった。例えば尖閣列島の問題が噴出した際、共産党は尖閣列島は日本のものだというビラをまき続けた。また北朝鮮のミサイルや核に対する国連決議にも賛成し、北朝鮮封じ込め政策にも手を貸してきた。また従軍慰安婦問題では、共産党は独自の主張を行ってきたが、平成27年の12月の「慰安婦」問題日韓が合意という志位委員長の談話でこれを好意的に伝えたことがある。私はこの共産党の立場に驚き批判した。それはこの徴用工問題と同じで、植民地支配に対する日本側のお詫びの中で解決しなければならない課題を、10億円の保証という形で解決した。私は安倍総理の卑劣な合意だと見た。
 結局この合意はすぐに破たんする運命にあった。韓国の慰安婦像は撤去されるどころか、さらに多くの場所に設置される結果となった。
 安倍首相や日本政府が、今回の問題で怒っているのは、慰安婦問題の解決と同じだ、また韓国は国家間の合意を踏みにじり、当たな請求を行っているという意識だと思われるが、問題の根本は、日本側が戦後処理を曖昧にし、お金でもって相手をねじ伏せようとするところに最大の問題点がある、

今回の判決に対する共産党の視点で私が気になる点が三つある


1.従軍慰安婦問題で、共産党は韓国側の主張を全て受入れ、日本政府に対置してきたにも拘わら
  ず、日本側の反省が伴わない「慰安婦」問題の日韓合意に合格点を出したことが気になってい
  る。

   この徴用工問題でも韓国側主張に理があるが、日本政府は韓国を力でねじ伏せる可能性がある。そ
  の際日本共産党は従軍慰安婦と同じように、その合意を賛成したら、せっかく異論を出してきた意味
  が全くなくなる。共産党の主張そのものが疑われる。
   例えば従軍慰安婦問題で朴槿恵大統領は、日本に対する恨みは1000年たっても変わらないという演
  説を行った。私はこの韓国の立場を一貫して批判してきたが、共産党はこの朴槿恵演説を批判しなか
  った。
   韓国の主張を100%支持するような姿勢を示しながら、日本側に圧倒的有利な日韓合意を簡単に認
  めた。(私は、この点について共産党を批判した)

2.日本共産党は判決文は支持するが、これを韓国側や北朝鮮側に送付したことは関心しない。

   この問題では、大政翼賛会的な状況がある中で、日本共産党の志位委員長見解は一石を投じた。こ
  れは素晴らしいことではあるが、理解してもらうには、相当な力がいる。こうした現状の中、韓国や
  北朝鮮側に自らの見解を送り、その結果日本共産党の主張が評価されているという記事は、あまり賛
  成できない。(注2)

注2:赤旗2面【社会】
  @赤旗1面「志位委員長が見解」
    同日、韓国大使館と在日日本朝鮮人総連盟(朝鮮総連)本部に見解を送付しました。
  
  A「聯合ニュース」徴用工問題の志位委員長の見解を報道(赤旗)
    韓国の聯合ニュースは1日、日本共産党の志位和夫委員長が同日の記者会見で発表した徴用工問
     題に関する見解を伝える記事を配信しました。
    志位氏が会見で、「日本政府が1965年の韓日請求権協定後も強制徴用被害者の個人請求権が消滅
     していないと繰り返し公式に明らかにした」と指摘。被害者の名誉と尊厳を回復させるべきだとの
     主張を紹介しています。外務省の幹部の国会答弁や内部文書も引用しています。
 
 志位見解は韓国側の主張を尊重したものであり、韓国側がこれを取り上げるのは当たり前である。なぜ韓国が志位委員長の見解を取りあげたという記事を赤旗に載せるのか理解に苦しむ。逆に言えば、日本ではスルーされたということなのか?

3.この判決に対する韓国側の動きが余りない。(この点を注視すべきだ)

  この韓国最高裁判所の判決に対して、政府は素早く対応し、安倍首相は国際的常識に反す判決だと批
 判し、韓国がこの立場をとるのなら、「あらゆる選択肢を視野」において毅然と対応を行うと強気な姿
 勢をを示している。河野外務大臣も一早く(判決当日の午後)、在日韓国大使を外務省に呼んで抗議し
 ている。(この会談をテレビで見る限り、韓国大使は冷静に聞いていた。)   
  これに対して、韓国側は沈黙を守っている。共産党は、判決支持の立場で志位委員長の見解を発表
 (1日)したが、韓国側は見解発表を控えている。
   今のところ私の手元にあるのは、朝鮮日報の記者(韓慶珍)と朝日新聞のソウル支局 記者(黄宣
  真)の記事だけである。この両者の記事とも、極めて冷静に書かれており、韓慶珍氏の記事は「強制
  徴用:韓日国交正常化の枠組み『請求権協定』に激震」という見出しで割と客観的にかかれている。
   もう一人の黄宣真氏の記事も「韓国人記者が見た元徴用工裁判」という見出しで冷静に書かれてい
  る。その記事の結びは「誰かが徴用工たちに答えを出さなければならない。その最初の声が司法の判
  決だったという現実にはほろ苦いものがある。」である。

 共産党は、「日本政府と該当企業が、過去の植民地支配と侵略戦争への真摯で痛切な反省を基礎にし、この問題の公正な解決方向を見出す努力を求める」というのが基本的立場である。と大上段に構えたが、韓国の世論は割と冷静である。この共産党の主張は正しいが、この問題の解決にこの立場を大上段に構えれば、解決は永遠と遠のいてしまうのかもしれない。冷静な判断が必要ではないかと思われる。