バックアップデーターは「行政文書ではない」のか?


令和元(2019)年12月7日


 桜を見る会の招待者名簿を巡って、政府と野党側の攻防が行われている。これは招待者名簿が公表されれば、安倍首相の悪事が白日の下にさらけだされるからだ。

菅官房長官は、バックアップデータは行政文書でないと言い切った。

 現在の政府側の答弁は、桜を見る会の招待者名簿は、保存期間が1年未満の文書であるから、すでに「5月9日にシュレッダーを使って廃棄した」、また磁気媒体のデータも「5月7日から9日の間に消去した」の一点張りだ。
 さらに、「この廃棄したデータのバックアップは8週間保管されているが、現状では8週間経過しており復元はできない」と、主張している。
 政府側の主張は、物理的にできないという主張と、廃棄されたデータは行政文書でないから、たとえサーバーにバックアップデータが残っていても復元は行わないという主張である。
 

電子データのバックアップデータは行政文書か単なるゴミか?

 昨日・今日の新聞に神奈川県の行政部文書が廃棄されたハードディスクから流失したという記事が新聞をにぎわせている。この記事では廃棄されたHDDの削除されたデータが、特殊な処理で復活されたことを、行政文書の流出事件として扱っている。
 以下新聞等の記事の引用を行う
 神奈川県がサーバーのリース契約が終了したから富士通リースにHDDを返却し、同社がデータ消去と廃棄をブロード社に委託していました。本来ならブロード社のデータ消去室で復元不可能な形にするはずでしたが、担当の職員が処理前に部屋から持ち出しオークションサイトに出品。18台が落札、転売されました。このハードディスクには、自動車税申告書などの個人情報が残っていました。
 これらの記事の見出しには、「行政文書の流出、神奈川県の対応に不備 データ消去せず」(産経ニュース 2919 12.6 21:48等)
 菅さんが廃棄された電子データは公文書に当たらないと一所懸命頑張っているのに産経新聞でも神奈川県の事件には「行政文書の流失」と書かれているこれが基本的な理解だと思われる。
もう少し詳しく見ると神奈川県は、消去の処理をせずにこのハードデスクを返却したのかと思ったが(全く間抜けな話だなと思ったが)、日刊スポーツの記事に「県は返却前にデータを簡易消去していたが、落札した男性は市販のソフトでデータ復元できた。」と書かれている。(2019年12月7日11時12分)
おそらくWindowsの消去までは行ったということだと思われるが、今回の桜を見る会の招待名簿の削除もこの段階だと思われる。
 富士通のデータ削除の項目を見れば、以下のように記載されている。(注1)

注1:パソコンの廃棄・譲渡時のハードディスク上のデータ消去に関するご注意について
   パソコンを廃棄あるいは譲渡する際、ハードディスクに記録されたお客 様のデータが流出して、
  再利用される可能性があり、結果的にデータが流出してしまうことがあります。
   原因として、パソコンのハードディスクに記録されたデータは、そのデータを削除したり、ハード
  ディスクを再フォーマットしても、データが消えたように見えるだけで、特殊なソフトウェアを利用
  することで、読み取ることができるからです。(富士通)

菅氏は「復元できない」「公文書でない」と二重のウソをついている。

 復元については、「シンクライアント方式」だから復元できないと安倍総理は議会で堂々と述べたが、逆に「シンクライアント方式」であるから再生ができると専門家から多く発言されている。安倍総理の理解は全く逆である。
 これは余談であるが、安倍首相はコンピュータシステムが全く分かっていないことに目を付け官僚があえてこの回答を書いたのではとの見方まで出ている。(安倍首相がコンピュータに対する知識が全くないことは「サーバー」を「サーバ」と発言したことからもわかる。桜田旧大臣と同じ水準だ)
 行政文書か否かも、古い考えにしがみついている。記者会見で毎日新聞の記者が、「バックアップデータは行政書ではないのか」と追及したが、菅官房長官は立ち往生し、官僚が慌ててメモを持ち込んだ。その内容は、「災害等で行政文書の紛失が起こった場合、バックアップを復元すればその段階で行政文書になる」と返答した。この回答は、磁気媒体では行政文書ではなく、紙媒体に復元した段階で行政文書というようなイメージを語った。
 しかし行政文書の多くは、すでに磁気媒体が行政文書であり、紙媒体はその行政文書の写しという段階まで進んでいる。例えば住民票や戸籍謄本や印鑑証明等の行政文書は磁気媒体で編成されたものが原本であり、市民に交付される住民票はその写しである。
 だからバックアップの電子データが、紙媒体に落とし込まれた場合、その磁気データは行政文書だと答えるのは筋違いであるが、政府の解釈に従えば、桜の会の招待名簿も紙媒体に復元すれば行政文書になるのである。(政府側の理屈では)
 しかしこの文書の最後に、公文書管理法のガイドライン改定に携わった元公文書管理委員会委員長代理の三宅弘弁護士の発言を引用するが、彼は南スーダン国連平和維持活動(PKO)と自衛隊イラク派遣の日報問題をあげ「原本の紙や電子データがなくなった時点で、バックアップが法律上の行政文書になる」と主張している。

 政府は、紙の記録は5月9日の1時頃だと答えているが、電子的記録の廃棄は7日から9日と返答

 電子媒体の正確な廃棄時間を答えることを拒否している。これも電子媒体での廃棄時期を紙媒体の廃棄より、先であったことを印象付けようとしている。
 何を狙っているのかよく分からないが、廃棄の意志(決定は)5月9日以前にあり、シュレッダーの順番待ちで5月9日になってしまった。もし磁気媒体の方をシュレッダーの廃棄より後であれば、宮本議員の資料請求の後になるから、慌てて廃棄したという指摘をかわすためと思われる。
 この問題の怪しいところは、紙ベースの招待者名簿の廃棄は5月9日の1時過ぎと正確な時間を答えながら、電子媒体の破棄は日程および時間を答えないという姿勢を取っている。(5月9日以降に削除した可能性がある。)
 磁気データの廃棄については、もう一つ問題があり、菅長官は記者会見で今年1月から採用した「シンクライアント方式」は、データ廃棄後8週間はバックアップが取られるシステムだと説明していた。
 それならば、5月21日の衆院財政金融委員会で宮本氏の質問に廃棄したと答弁したが、実際にはバックアップデータは残っていた。
 話は堂々巡りになるが、残ってはいたが、これは行政文書ではない。だから復活はしなかった。と逃げている。
 電子データは公文書でないという菅官房長官や内閣府の主張は全く筋の通らない話である。

菅長官の説明、過去の政府見解との間にずれ 桜を見る会 朝日新聞


 「(国会議員への文書提供は)行政文書として存在しないばあいであっても、必要に応じ要求内容に沿った資料を新たに作成して提供することがある」との見解を政府が過去に示していたことがわかった。
 小泉内閣が2001年、国会議員の国勢調査活動に関する質問主意書への答弁で閣議決定した。菅長官は5日の午前の記者会見で「国会議員からの資料請求は行政文書を前提としている」と述べ、提供の必要はないとの認識を示していた。記者が「国会議員の資料要求は、行政文書に限られないのではないか」と指摘しても「政府が責任をもって対応するのは行政文書」と主張していた。以上朝日新聞の引用(12/6金)12時43分配信

 おそらく、近々「バックアップデータは行政文書にあらず」という閣議決定がなされるであろう。なんでもありの政権である。(注2)

注2:2017年12月の公文書管理法のガイドライン改定に携わった元公文書管理委員会委員長代理の三宅弘   弁護士が朝日新聞の取材に応じて、バックでアップデータは公文書でないという政府見解に真っ向
  から反論した。
   「政府の認識は全くの間違い。公文書管理についての正しい理解がない」と言う。三宅氏は、南ス
  ーダン国連平和維持活動(PKO)と自衛隊イラク派遣の日報問題をあげ「原本の紙や電子データ
  がなくなった時点で、バックアップが法律上の行政文書になる」と解説する。

 以上で書き上げたのですが、実は私はこの文書を書こうと思った契機は、野党の議員が政府と官僚との真相究明会のような会議を連日行っているが、内閣府がコンピュータ上のデータは廃棄処分した。8週間残ってたバックアップデーターは行政文書でなくゴミのような全く価値のない文書だと主張しているのに対して、野党側の議員にそれならこのバックアップデータが盗まれた場合、犯罪の構成要件は成立するのか、公文書の詐取という主張ができないのではと突っ込んでほしかった.
 それを書こうと温めていたが、神奈川県の廃棄したハードデスクのなかのデータが復元されたことが行政文書の流失と新聞が報道しているのを見て、表面上の廃棄をした文書であってもそれが第三者寄って復元されれば公文書扱いになることが常識だという考えが一般的であることが証明された。この論理から政府の桜を見る会のバックアップデータも公文書であることは明らかであることが証明された。