志位委員長の安倍政権支持は確信犯


平成27(2015)年2月11日


「イスラム国」問題での赤旗の主張は、読売新聞・産経新聞よりも安倍政権寄り。

 「イスラム国」問題(2人の殺害警告)が発生してから、全てのメディアは、大政翼賛会となり、安倍政権擁護の記事や【主張】を掲載した。その際これに真っ向から戦い【正論】を吐くのが共産党の役割だと思っていた。昔、共産党は赤旗の宣伝スローガンに「正義の味方真実の友」ということを掲げたが、今回の事態の中で最も右翼的な論調を張ったのは「しんぶん赤旗」であった。
 最初は、共産党の力が落ちて、咄嗟にこれらの事態が分析できず、右往左往しているのかと思っていた。その時、池内沙織議員がツイッターで安倍内閣を痛烈に批判したが、志位氏がこの時点で安倍内閣を批判することは誤りだと批判し、池内議員がツイッターを取り消し謝罪したというニュースが入り込んできた。
 この時は、2人の命がかかっているので、安倍政権を批判することは、拘束されている2人の解放に不利になるとの判断で、ここは政府に協力しているのかとも思った。(この共産党の判断は間違っているが、そんな判断しかできないのだろうと思っていた。)
 しかし後藤さんの殺害を実証するかのような映像がインターネット上に流がされ、政府もその映像が本物と断定した段階で、志位委員長「声明」が赤旗に掲載された。その「声明」で志位委員長が「イスラム国」の「解体」を叫んでしまった。当日の新聞は【主張】でも同じことを書き、また記事でも「イスラム国」包囲と大きな見出しを掲げ、まさに戦争前夜のような赤旗編集になっていた。
 共産党は、「イスラム国」で、安倍政権より右翼的発言を行ってしまった。この日、読売新聞や産経新聞を読んでみたが、「イスラム国」の解体を主張した論調はなかった。安倍首相ですら「テロとの戦い」と言っているが、「イスラム国」の解体をめざすとはいっていない。
 志位「声明」の翌日小池議員が国会で、安倍首相のエジプトでの発言を捉え、「この発言が如何に不用意な発言であり、今回の「イスラム国」の日本に対する攻撃を招いた」という指摘は、その日のテレビのニュース番組でも大きく取り上げられ、翌日の各紙の長官も取り上げ、赤旗も大きく報道した。やっと共産党も今回の問題で、安倍政権の批判側に回ったのかと少し安心をしていた。
 ここまでが「イスラム国」問題をめぐって共産党の揺れ動く姿勢を批判してきた私の主張のおさらいであるが(注1)、私は、なんとか赤旗はこの問題を通して、安倍政権が企む「海外で戦争できる国」づくりの反対勢力として頑張って欲しいという思いを込めて批判を続けてきた。
 参考に志位委員長以外の共産党の幹部の発言を少し拾ってみる。
◎小池副委員長:東京板橋での演説会(2/8赤旗)
  「当たり前の疑問や懸念を『テロに屈するな』とはねつけていいのか」と指
 摘。「テロ集団の蛮行をきっかけに『海外で戦争する国』づくりの動きを断じ
 て許さない」と協調しました。と安倍政権を批判しています。
◎穀田議員 岡山での演説会(2/8赤旗)
  「沖縄」にふれているが、「イスラム国」には全く触れず、安倍政権批判も
 全くない。
◎山下書記局長 札幌での演説会(2/10赤旗)
  「イスラム国」の問題で「国際法を厳格に守った対応こそテロリストを追い
 詰める一番の力になる」だけを語り、今回の問題での安倍政権批判は一切なく
 なく。衆議院選挙での政策「五つの転換」の中で「海外で戦争できる国」づく
 りを上げているに過ぎない。

 ここから分かることは、委員長、書記局長は同じ主張を行っている。穀田氏は全く触れず、小池副委員長のみが、今回の「イスラム国」問題に絡めた安倍政権の「海外で戦争できる国」づくりに反対している。明らかにトップ二人は確信犯である。・・小池氏だけがまともな議論を行っているし、マスコミも注目している。

注1:◎志位委員長の「イスラム国」糾弾声明は致命的な欠陥を持つ                           平成27(2015)年2月5日
   ◎一夜にして右傾化した日本共産党      
                     平成27(2015)年2月2日
   ◎志位委員長を降格させ池内沙織議員を委員長に!   
                     平成27(2015)年2月1日
   ◎gataro氏の苦悩を見れば、共産党の変質が良くわかる。 
                     平成27(2015)年2月1日
   ◎イスラム国による殺害警告について国内世論と共産党
                     平成27(2015)年1月25日
   ◎イスラム国による日本人2人殺害警告と赤旗の主張
                     平成27(2015)年1月22日
 

志位委員長の「イスラム国」敵視は確信犯・・・これが戦争への道という事が理解できない。

 しかし本日(11日付)赤旗の一面トップの記事「日本共産党躍進で暴走阻止、政治の転換を」「いっせい地方選挙 志位委員長が全国遊説」(東京・演説会)という記事を見て、これは「ダメだな」、志位委員長の安倍政権支持は確信犯だなとつくづく思った。
 この演説会で志位氏は、まず「イスラム国」問題を語っている。その主張は「イスラム国」が「最も野蛮で無法な組織が相手」・・「国連を中心に、国際法、国際人道法を守って行動することがなによりも重要であり、そういう態度を堅持してこそテロリストを追い詰めていく一番の力になります」と主張している。
 彼の思考は、中東問題の混乱が誰によってもたらされたのか、現在中東の国民がこの戦争に巻き込まれ、どれだけ多くの人が生命を落とし、飢えと貧困にあえいでいるか等の苦しみの解決より、「イスラム国」の解体にポイントをおいてしまっている。
 さらに決定的に重要なことは、今回の「イスラム国」問題は、安倍首相が「挑発」し引き起こした疑いが濃厚であるのに、それに触れず、さらに安倍首相はこの「イスラム国」問題を利用して、集団的自衛権行使を実現し、日本を「海外で戦争をできる国」へ変質する企みを着々と行っている現状を批判せず、「イスラム国」解体だけを切り離し演説している姿である。
 志位氏は、「イスラム国」の次に述べたのは「日本共産党の躍進」です。彼は安倍政権批判より、「イスラム国」批判を行い、「共産党の躍進」へつなげようとしている。この企みが如何に危険であるか彼は全く理解していない。
 池内議員は、ツイッター「イスラム国」を批判せず安倍政権を批判した。・・これが志位委員長の逆鱗に触れた。・・・しかし池内議員の方が正しい。志位委員長の発言は国家を優先し、池内議員は国民を優先した立場から発言している。池内議員がネット右翼等に批判されたのは、枕詞がなかったからである。テロリストの批判が無かったということで炎上し、志位委員長も右翼側のこの主張に乗っかり、池内議員をわざわざ記者会見で批判した。
 しかしこの志位委員長の行為が如何に馬鹿げているかを下記に引用する森達也監督が見事に言い当てている。

本日付(11日)朝日デジタルに志位委員長の誤りが分かる素晴らしい記事がある

 映画監督・作家 森達也さんの(人質事件とメディア)集団化と暴走を押しとどめよ! 「苦しむ人々の痛みを想像できるか」 聞き手 編集委員・刀祢館正明

 少し長くなりますが、非常に重要な指摘ですので、以下にに引用します。

「卑劣な行為だ、絶対に許せない」・・・この言葉は何を語っているのか

 渦中の報道を見聞きしながら、気になったことがあります。安倍晋三首相は事件について語るとき、まずは「卑劣な行為だ、絶対に許せない」などと言う。国会で質問に立つ野党議員も、いかにテロが卑劣か、許せないかを、枕詞(まくらことば)のように述べる。そんなことは大前提です。でも省略できない。・・・
 大きな事件の後には、正義と邪悪の二分化が進む。だからこそ、自分は多くの人と同じ正義の側だとの前提を担保したい。そうした気持ちが強くなります。

日本の危険は「右翼化」では無く、「集団化」・・擬似的な右翼化であり保守化

 今の日本の右傾化や保守化を指摘する人は多いけれど、僕から見れば少し違う。正しくは「集団化」です。集団つまり「群れ」。群れはイワシやカモを見ればわかるように、全員が同じ方向に動く。違う動きをする個体は排斥したくなる。そして共通の敵を求め始める。つまり疑似的な右傾化であり保守化です。

 転換点は1995年。1月に阪神・淡路大震災、3月に地下鉄サリン事件があった。ウィンドウズ95が発売された。巨大な天災と未経験の人災に触発された不安や恐怖感が、ネットを媒介にして拡大していく。その始まりの年でした。

 不安と恐怖を持ったとき、人は一人でいることが怖くなる。多くの人と連帯して、多数派に身を置きたいとの気持ちが強くなる。こうして集団化が加速します。

 群れの中にいると、方向や速度がわからなくなる。周囲がすべて同じ方向に同じ速度で動くから。だから暴走が始まっても気づかない。そして大きな過ちを犯す。

メディアの役割・・相対化するための視点を提示すること

 ここにメディアの大きな使命があります。政治や社会が一つの方向に走りだしたとき、その動きを相対化するための視点を提示することです。でも特に今回、それがほとんど見えてこない。
 多くの人は「テロに屈しない」という。言葉自体は正しい。でも、そもそも「テロ」とは何か。交渉はテロに屈することなのか。そんな疑問を政府にぶつけるべきです。「テロに屈するな」が硬直しています。その帰結として一切の交渉をしなかったのなら、2人を見殺しにしたことと同じです。

集団化と暴走を押しとどめる可能性を持つのはメディアです。

 今回の件では、政権は判断を間違えたと僕は思います。でも批判や追及が弱い。集団化が加速しているから、多数派と違う視点を出したら、社会の異物としてたたかれる。部数や視聴率も低下する。たしかにそれは予測できます。

 メディアも営利企業です。市場原理にあらがうことは難しい。でも今は、あえて火中の栗を拾ってください。たたかれてください。罵倒されながら声をあげてください。朝日だけじゃない。全メディアに言いたい。集団化と暴走を押しとどめる可能性を持つのはメディアです。それを放棄したら、かつてアジア太平洋戦争に進んだ時の状況を繰り返すことになる。
 「イスラム国」の行為に対して「人間が行うとは思えない」的な言説を口にする人がいます。人間観があまりに浅い。彼らも同じ人間です。ホロコーストにしても文化大革命にしてもルワンダの虐殺にしても、加害の主体は人間です。人間はそうした存在です。だからこそ交渉の意味はあった。そうした理性が「テロに屈するな」のフレーズに圧倒される。利敵行為だとの罵声に萎縮する。こうして選択肢を自ら狭めている。

「イスラム国」誕生には、米国がイラクに侵攻してフセイン体制を崩壊させたことにある

 違う視点を提示すれば、「イスラム国」を擁護するのか、などとたたかれるでしょう。誰も擁護などしていない。でもそうした圧力に屈して自粛してしまう。それはまさしく、かつての大日本帝国の姿であり、9・11後に集団化が加速した米国の論理です。米国はイラクに侵攻してフセイン体制を崩壊させ、結果として「イスラム国」誕生につながった。このとき日本は米国を強く支持したことを忘れてはいけません。同じ連鎖が続きます。

 多数派とは異なる視点を提示すること。それはメディアの重要な役割です。 

 この映画監督・作家 森達也さんの言葉の中に、志位委員長の誤りが全て批判されています。最後の締めくくり「多数派とは異なる視点を提示すること。それはメディアの重要な役割です。」は含蓄のある言葉です。
 野党である共産党は、安倍首相がなりふり構わず、海外のテロ事件を利用してまで、日本を「海外で戦争できる国」に変えようとしているとき、平和憲法の立場からの国づくりの大切さを主張しなければならない時に、安倍首相と競って「イスラム国」解体を叫ぶ志位委員長に対する痛烈な批判となる記事です。
 この森達也さんの主張は別に変わった主張でもなく、つい最近までの共産党の主張でもあったはずです。3.11震災後の選挙戦で共産党は政策問題で大きく間違い(震災復興を最大の争点としたが、原発反対は主張しなかった。・・・また、震災復興は大きな課題ではあったが地方選挙では地域の課題を前面に出すべきであった。)、選挙戦を敗北し、その後、より一層保守との共闘に活路を見出し、前回衆議院選挙で勝利したことが、共産党の右傾化に一層拍車をかけたように見える。
 しかしこの路線は一時的に成功したかに見えるが、必ず破綻する。共産党の値打ちは、その時の政権と戦い、国民の利益を守ることに値打ちがあります。政権寄りになり、政権を批判しなくなった共産党はネズミを取らない猫と同じで、いずれは無用の長物になってしまい、政権からお払い箱になるだけです。
 国民に対して優しさの目を失った共産党には全く魅力がありません。森達也監督さんが言われる「苦しむ人々の痛みを想像できるか」これができなくなったら、いくら巨大な共産党ができても、それはもはや共産党ではありません。志位委員長は安倍首相に負けず劣らずすでに暴走しています。