「アメリカ帝国主義」を美化する日本共産党


                            平成27年2015年8月9日


 アメリカは帝国主義の反面、イラン、キューバ、ベトナムとは話し合い外交方針も  =大阪府会議員団長「宮原レポート」(ビラ)の中見出=

 
 日本共産党の大阪府府会議員団長である宮原たけし氏は定期的に「宮原たけしレポート」という「ビラ」を配布しています。私はこの宮原レポートを定期的に批判していますが、とうとう究極のおかしなビラ「宮原レポート」が配布されました。
 以下その内容を全文引用します。(上記中見出しの文書を)
 「オバマ大統領とベトナムのグェン・フー・チョン共産党書記長は7月7日会談しました。
 共同声明では東南アジア諸国と中国が領有権を争う南シナ海問題について『国連海洋法条約などの国際法で平和的に解決する』方針で一致した。
 アメリカはキューバ、イランとも歴史的、平和的合意をしました。
 世界を軍事力だけで押さえるアメリカの力はなくなりつつあります。
 一方で、帝国主義的な大国主義、一面では平和の「顔」アメリカを全面的に見ることが必要です。」これが宮原レポートの内容です。

 この「宮原レポート」は基本的には安倍内閣の推し進める「戦争法案」反対の立場から出されたものです。一面の見出しは「安保関連法案」「私たちの運動で廃案に!」「安倍内閣は国民の声を聞いてください」「アフガニスタンや中東などでの」「米軍への自衛隊支援」「自衛隊員や国民に多くの危険」と書いています。この主張の流れの中で、なぜアメリカに平和の『顔』=「美化」する必要があるのか、政治的センスを疑います。

 蛇足ながらこのビラで気になる他の点も触れておきます。赤旗は基本的に今回の「安保関連法案」を「戦争法案」と読んでいます。「宮原レポート」は、この言葉を使わず、「安保関連法案」と書いています。さらに「アメリカ帝国主義」という言葉を意識的に避けています。(他国に対する軍事行動に対しては「アメリカ帝国主義」を使わず「米軍」という言葉を使っています。)
 

そもそもこの「宮原レポート」が語るべきは何であったのか


 「戦争法案反対」の戦いが全国的に盛り上がり、これを「廃案」に持ち込むことが現状では最大の政治的課題になっています。そのために国民に訴えるべき課題は、アメリカ帝国主義の無責任な他国に対する軍事的行動に日本も巻き込まれ、戦争に加担させられ、多くの国民の生命が危機にさらされて行くことです。
 ここで強調すべきことは、アメリカ帝国主義が第二次世界大戦後「世界の警察官」を自認し、多くの国へ軍事的行動をおこし、他国の国民の何十万人もの命を奪ってきている事実です。ここにこそ、アメリカ帝国主義の本質があるのです。
 それに対して、宮原氏はアメリカには、帝国主義的な側面もあるが、もう一面では平和の「顔」もあると持ち上げたことに最大の誤りがあります。
 この論調は、アメリカの無責任な他国に対する侵略戦争に腹を立て、それに日本が加担させられることに危機感を感じ、戦いに参加している多くの国民に対して、真っ向から挑戦する議論です。
 「宮原レポート」は、「アメリカは戦争ばかりしているのでは無い、平和外交も勧めている、この辺の評価をしなければならない。」とアメリカを美化し「アメリカ帝国主義」の無謀な戦争に巻き込まれることを拒否し、戦争法案反対の戦いに参加している国民に対して、「アメリカにも『平和』を求めている面がある、そこは冷静に」と主張し、この戦いに参加している多くの国民に対して、「水をさす」主張です。ここに「アメリカ帝国主義」を「美化」する共産党の堕落が浮き彫りになっています。

 

「アメリカ帝国主義」という言葉を使わず、平和の「顔」を強調するのか


 そもそも日本共産党がアメリカ帝国主義という言葉を、綱領規定から外したことにその根源はあります。少し歴史的にさかのぼりますが、60年安保闘争が戦われ、日本共産党はその戦いの中で大きく成長し1961年第8回大会で綱領を定め、文字どおり日本の政治勢力の一角を占めるにいたりました。その際の綱領の一部を引用します。

◎日本共産党綱領 (第8回党大会、1961年7月27日決定)
 1960年に締結された新安保条約は、アメリカ帝国主義と日本独占資本の侵略的軍事同盟の条約であるとともに、いぜんとして対米従属の屈辱条約である。それは、対外侵略の武器であるとともに、日本人民を抑圧する武器である。またこの条約は、日本を日本人民の意思に反してアメリカ帝国主義のたくらむ侵略戦争にまきこむ危険をつよめた。それは、日米支配層にたいする日本人民の不満と闘争、社会主義諸国の平和政策、アジア諸国の民族独立運動などとの矛盾、米日独占貿本間の矛盾、米日反動の支配の基礎の動揺などを、侵略的方向、反民族的反人民的方向で補強し打開しようとするものであった。

 この綱領路線こそが、現在の安倍政権が推し進めている政策を見事に言い当てています。

 ところが共産党は、2004年1月の第23回大会でこの綱領路線の大幅な変更を行いました。その際に、アメリカ帝国主義という言葉を綱領から削除してしまった。以下綱領改訂の不破報告を引用する。
◎2004年1月15日(木)「しんぶん赤旗」綱領改定についての報告
                     中央委員会議長 不破哲三

二、現在の日本社会の特質
 (四)第二次世界大戦後の日本では、いくつかの大きな変化が起こった。
 第一は、日本が、独立国としての地位を失い、アメリカへの事実上の従属国の立場になったことである。
 政党が、ある国を「帝国主義」と呼ぶときには、その呼称・呼び名には、侵略的な政策をとり、帝国主義的な行為をおこなっていることにたいする批判と告発が、当然の内容として必ずふくまれているということであります。

 そこから、改定案は、植民地支配が原則的に許されない現在の国際秩序のもとで、ある国を「帝国主義」と呼ぶためには、その国が経済的に独占資本主義の国だというにとどまらず、その国の政策と行動に、侵略性が体系的に現れているかどうかを基準にすべきだ、という立場をとりました。
 これは現実の世界政治の分析でただちに必要になる基準であります。
 改定案は、この基準で、アメリカの対外政策が、文字どおり「帝国主義」の体系的な政策を表していることを解明し、そういう内容を持って「アメリカ帝国主義」という規定をおこなっています。そうであるからこそ、綱領のこの規定は、アメリカの政策の核心をついた告発となっているのであります。

 不破氏が述べたのは、「アメリカ帝国主義」という言葉を固定的に使うことは避け、アメリカの政策が、侵略的な政策をとり、帝国主義的な行為を行っていることに対して「帝国主義と呼ぶ」と解説し、その規定に照らして見れば、アメリカは帝国主義だと解説して見せました。(注1)
 この不破氏の説明は、アメリカ帝国主義が永遠不滅に続くのではなく、アメリカも平和国家になる可能性もあることを示唆し、固定的概念でアメリカを見ないことを宣言したものと思われます。
 しかし現在のアメリカの外交政策は帝国主義そのものです。安倍政権はこれに加担しようとしている。だから「戦争法案」反対の戦いが広がりを見せているのです。

注1:綱領改訂や不破報告が何を主張しているのか読み取ることは難しいのです
  が、大会終了後の「一問一答」を見ればわかりやすいです。
 
 〈問い〉 帝国主義についての見方の新たな発展についての質問(昨日付)との
     関連ですが、アメリカはやはり「帝国主義」という規定なのですか?
     (埼玉・一読者)

 〈答え〉 改定した日本共産党綱領は、帝国主義という言葉を“その国の政策と
     行動に侵略性が体系的に現れているとき”に使うことに改めました。
      この見地からみても、現在アメリカがとっている世界政策はまぎれも
     なく帝国主義です。(中略)
      同時に私たちはアメリカの将来を固定的に見てはいません。改定綱領
     で、対日関係を、「アメリカの対日支配は…帝国主義的な性格のもので
     ある」としたのは、アメリカが独占資本主義の体制のままでも対日支配
     を終結させることは実現可能だということです。安保条約の廃棄後、日
     米間に対等・平等の友好関係が確立されるならば、帝国主義的な要素の
     入り込まない日米関係が成立しうる展望はあるのです。綱領第2章の日
     本の現状規定に「アメリカ帝国主義」という用語を使わなかったのはそ
     ういう見地からです。 〔2004・11・11(木)〕

 「宮原レポート」はこの不破報告を誤って理解し、アメリカはすべての外交政策で侵略的側面を持つものでなく、平和の「顔」もあるから、これはもはや「帝国主義」と呼べないと判断してこの記事を書いている。
 ただし、これは彼の勇み足であり、赤旗を見る限り、アメリカには平和の「顔」もあるという主張を見たことが無い。(ただし、宮原氏が全く勝手に書くとも思えないので、共産党の内部ですでにこの議論が始まっていると思われる。)

なぜ共産党は「アメリカ帝国主義」と呼ばないのか?


 最近の共産党は、明らかに保守との共同で政権の一翼を狙っている。その際アメリカとの関係修復が不可欠だと見ていると思われる。共産党は「保守と連立政権を組み、安保条約を廃棄してアメリカとも協調して政権運営が行える」ことをアピールしているように見える。(上記質問者に対する回答から)
 私は保守との共同路線で世の中は変わらない、革新の桐一戦線こそ共産党は求めるべきだと常に主張しているが、共産党は革新の統一戦線に後ろ向きな対応に終始している。
 ただ、この間の「戦争法案」反対の高まりの中で、革新の統一戦線こそが現実的であり、保守との共同が如何に幻想であるかが、国民の戦いの中で明らかになりつつあるにもかかわらず、共産党は保守との共闘に固執している。
 この共産党の考えを示す事例が最近(8月6日付 志位委員長と仏共産党ロラン党首が会談)の赤旗に載った。以下その記事を引用する。

日本共産党とフランス共産党の統一戦線に対する考え方の違い


◎フランス共産党のロラン氏は、
「フランス共産党は、金融資本の横暴を抑え、社会保障と国民生活を守ることをはじめ、平和、民主主義、連帯、環境などの課題で新しい人民戦線「左翼戦線」をつくり、前進をはかっています。

◎志位氏は、
 異常な対米従属と大企業の横暴な支配という日本社会の「二つの異常」とその民主的な変革をめざす取り組みを説明。さらに、安倍政権による憲法9条の破壊の企てを批判し、「海外で戦争する国」づくりを、それに反対するもっとも広範な人々とともに阻止したいとのべました。

 フランスは「左翼戦線」という言葉で、統一戦線の重要性を語っています。志位氏は戦争法案反対の戦いの盛り上がりに触れながらも、この戦いの延長線上に未来を見るのではなく、「広範な人々」という曖昧な概念で戦うことを主張しています。

 広範な人々は保守との共闘が頭の中にあり、保守に取り入るために、アメリカ帝国主義も賛美するという悪循環(堕落)が始まるのです。
 「戦争法案」反対で戦いが盛り上がっている最中に、「アメリカにも平和の『顔』がある」という「ビラ」が出るのは、こうした思想的堕落がその根底にあります。

 アメリカ帝国主義に平和の「顔」などありません。中国の台頭の中、アメリカの独占的支配が難しくなった中で、世界戦略の一環としてイランとの核合意を行っているのです。そのことが見抜けなくなった共産党は、既にねずみを取らない猫になってしまっています。(注2)

注2:8月8日の毎日新聞の記事2面は「IS掃討一進一退」という記事
   「オバマ米政権が「新たな敵」に挙げる暴力的過激主義との戦いだが・・・
  こうした「オバマ流テロ対策」を後押しするような外交的な動きが、最近相次
  いでいる。トルコの参戦とイランとの核合意だ。・・・・オバマ外交の成否
  は、いかにトルコの矛先をISに集中させ、イランの影響力を引き出すかにか
  かっている。」
 
 この毎日新聞の記事は、「宮原レポート」がイランとの核合意がアメリカの平和の「顔」などというノー天気な分析ではなく、アメリカの世界戦略の一環としてイランとの核合意がなされたことを描き出している。

参考資料:宮原レポート(2015年8月2日)