防大卒業生の記事(赤旗一面)の目的は何か?(3月23日付け)


令和2年(2020)年3月24日

 3月23日付しんぶん赤旗は防大卒業生の記事を載せている。その見出しは、「派兵抗議行動を批判」「防大卒業式 首相、9条改憲執念」と書かれ、防衛大学の卒業式の安倍首相の訓示に問題ありと指摘したかったのであろうと思われる記事を掲載している。この点は認めるが、この記事は後半で自衛官として任官辞退のことを書いている。しかもこの話題を(続く応募減少傾向2面)と書き2面では、グラフを3つも利用し、任官辞退や自衛官の応募減や定員割れについて説明し、最後は「自衛官募集に対する自治体への協力要請や安倍首相の改憲への執念が、若者の足が自衛隊から遠のいている」とまとめています。 しかしこの記事を書いた記者は、私がまとめた様な主張をしたかったのだろうが、全く訳の分からない記事になっています。以下問題点を指摘します。

1.自衛官への任官拒否が増えた(何を訴えよううとしているのか分からない)

 赤旗1面は2019年度の卒業生と数は417人(外国人留学生を除く)。任官辞退者は35人(8.4%)で昨年度からは減少したものの、依然として高い割合で推移しています。と書いています。
 昨年度からは減少したと書く以上、昨年度の数字を書くべきです。これでは推移は読み取れません。2ページにこのグラフが書かれていますので、それで読み取れという趣旨だと思いますが、2面のグラフから何が読み取れるのか、よほど考えてみない限り読み取れません。なぜなら、一面では任官辞退は35人と書きながら、2面では昨年の辞退者をパーセンテージでしか表していません。19年度は人数で表し、18年度は%で表しそれを比較してどのように理解すればよいのか分かりません。
 そもそも論を書きますが、前年(18年度)の卒業生は478人で任官辞退者は49人です。そこでグラフが示す(約10%)が正しいことは分かりますが、この卒業生の数が18年度は478人であり、19年度は417人という大きな開きが気になります。この説明がないと簡単には比較できません。(すでに卒業前に脱落者が多くいた可能性もあります。)

2.任官辞退者の単純比較は全く無内容な比較です

 防衛大学の卒業生は、卒業後幹部候補生になるのですが、防衛大学を卒業しながら幹部候補生の学校入学後1か月もたたない「入学辞退」者がいます。入学辞退という方法で自衛隊入隊を拒否する者がいます。この二つを足したものが、防大卒業者でありながら自衛隊を辞めていく者の数字です。
 入学辞退者は一番多い年(2013年)で27名います。この年度の任官辞退者は10です。これを見れば、任官辞退者の単純比較が何の意味もなさないことが分かると思います。

3.二面での見出しは「自治体動員、女性採用拡大でも」「自衛官の応募減・定員割れ止まらず」と書い ています。(何を目的にこの主張をしているのか分からない)

 2面は1面の35名論を引きずりながら、急に一般の自衛官の応募者の変更に話が変わります。以下その書きぶりを引用します。
 「任官辞退者数は35人に上がりました。昨年度より減ったものの、全体としてみれば、自衛官応募者の減少傾向が続き、定員割れに歯止めがかかりません。」と書かれています。(「昨年度より減ったものの」は「任官辞退」か「自衛隊応募者」かの把握が困難です。)
 幹部候補生の任官辞退問題をいつの間にか自衛隊応募者減少問題にすり替えています。一定の共通要素はあるかもしれませんが、これは同じ理由ではないと思います。
 一般自衛隊に対する応募率の減少は、海外派兵等の可能性が生まれたことと、人手不足が進む中で、あえて自衛隊を選ばないという風潮があるのだと思います。
 さらに一般曹候補生の応募数と採用数のグラフを載せて、「一般曹候補生の応募者は、18年度は2万7580人に減少しました。」と解説していますが、この年の合格者の数字が把握できていないが、おそらく6000人前後と思われる。そうすると4.6倍程度の倍率が保証されています。
 現在大阪市の学校の先生の採用試験の競争率は小学校で2.4倍、中学校で3.9倍になっています。現在、自衛隊の競争率の4.6倍(予想)は決して崩壊した数字ではありません。むしろ自衛隊の応募者がいつ減ったのかを政治的に捉える必要があります。
 ウキぺディアの一般曹候補生には応募者が減った理由を「平和安全法制に伴い、平成27年度(2015年度2万5092人の応募数で、平成26年(2014年)より2割減少。平成19年度(207年度)に現在の採用区分になって以降ピークだった平成23年度の(2011年)から半減している」と記されています。このような政治的判断抜きで、応募者の減少を語ることは何の意味合いをありません。

4.次の論点は、「見逃せないのは、適齢者名簿の提出を要請するなどして隊員募集への自治体動 員を強めていることです。」と書いています。

 この話を出す場合、安倍首相の自民党大会(2019年2月14日)での発言を引用して批判する必要があります。安倍首相は「残念ながら、新規(自衛)隊員募集に対して、都道府県の6割以上が協力を拒否しているという悲しい現実があります。」という演説です。この主張をして「だから憲法を変える(憲法にしっかりと自衛隊を明記して)と主張したのです。
 この安倍首相の論理は、最近国会で森法務大臣が「東日本大震災の時、福島県いわき市から市民が避難していない中で、検察官は最初に逃げた。」だから「東京高等検察庁の検事長の定年延長が必要」と述べたと同じ理論構成です。「まず嘘をでっちあげ、それを理由にこれが必要だ」と主張します。  
 「嘘」と「必要な行為」には何の因果関係もありません。彼らの使う常套手段です。この批判をしっかりする必要があります。