問題の本質は、アメリカ帝国主義の「核」をどう評価するかである。


平成28(2015)年1月11日


このページは、討論の広場に今井 明さんに、10日に投稿していただいた「小池晃さん、志位さんの足を引っ張っていますよ!」に対するコメントとして書いたものです。重要な議題ですので、このページに本文を書きました。


投稿ありがとうございます

 小池副委員長と志位委員長の発言の差異を問題にされていますが、1月10日付赤旗4面「北朝鮮核実験から『戦争法廃止の国民連合政府提案』まで」BSフジ「プライムニュース」(以下「BS「フジ」」という)志位委員長大いに語る」を読めば、この疑問は解決されると思います。
 「逆行」(志位発言)と「驚異」小池発言に北朝鮮の核実験の見方(評価)に政治的意味があるのか以下検証を行っていきます。

まず、志位声明の確認を行っておきます。


一、北朝鮮は、本日、「水爆実験を実施した」と発表した。北朝鮮による核実験の
  強行は、地域と世界の平和と安定に対するきわめて重大な逆行であり、北朝鮮
  の核開発の放棄を求めた累次の国連安保理決議、6カ国協議の共同声明、日朝平
  壌宣言に違反する暴挙であり、日本共産党は、きびしく糾弾する。

一、国際社会が一致して、政治的外交的努力を強め、北朝鮮に核兵器を放棄させる
  ための実効ある措置をとることを、強く求める

 ついでに安倍首相は、6日、北朝鮮による水爆実験の実施発表を非難するとともに、今後は国連安全保障理事会を含め、米国、中国、韓国、ロシアとも連携して「断固たる対応を取っていく」との決意を表明した。官邸で開いた国家安全保障会議の会合終了後、記者団に語った。
. また別の場では、首相は今回の北朝鮮による核実験は「わが国の安全に対する重大な脅威であり、断じて容認することはできない」と発言。国連安保理決議に「明白に違反」しており、「国際的な核不拡散の取り組みに対する重大な挑戦」とも述べた。


志位発言は、微妙に変化している。

 BS「フジ」の志位発言は、当初の志位声明とだいぶニュアンスが違う。
志位声明では、「一、国際社会が一致して、政治的外交的努力を強め、北朝鮮に核兵器を放棄させるための実効ある措置をとることを、強く求める。」
 としていたが、BS「フジ」では、「北朝鮮の核兵器を放棄させるための話し合いのテーブルにつかせる必要があるわけです。・・・決議を採択し、制裁措置をおこなうことは必要だと思います。ただ、制裁の目的はあくまで北朝鮮を対話のテーブルにつかせることに置かれる必要があると思うのです。」
 最初の志位声明は、「実行ある措置を強く求める」は力による圧力(制裁)というニュアンスを感じますが、BS「フジ」での発言は、「軍事的制裁」ではなく「対話による解決」を求めていることを鮮明にしたものになっています。

「逆行」か「驚異」かは、論点になりえないのでは?

 「『逆行』により『驚異』が拡大した」と捉えるべきだと考えます。 志位氏はBS「フジ」で明確に「世界の平和と安定に取っての重大な驚異です」と答えています。
 さらに志位氏は、反町氏(対談相手)が「今回の核実験によって、この発言(リアルな機器はない)は多少、修正したほうがいいというお気持ちにならないですか」と尋ねたが、志位委員長は、「北朝鮮、あるいは中国との関係で、日本の自衛隊が北朝鮮と戦争を構えると、そこにいまの(戦争法を発動しての)戦争のリアルな危機があるえあけではないということをいったのであって、北朝鮮の核開発が驚異でないというようなことをいったわけでは全くありません。」とはっきり答えている。
 志位委員長は北朝鮮の核を「世界平和と安定にとって重大な驚異」を認めている。今井さんが言われるように、小池副委員長と意見の相違はないのではないか。

 志位発言の問題点は、北朝鮮の核が世界平和に取って「驚異」だというならアメリカの核は驚異でないのか、それを明らかにしていない点にある。


 北朝鮮の核実験に対する志位声明の最大の問題点は、日本共産党がアメリカの核は戦争のための核であって、社会主義国の核は平和のための核である(上田耕一郎)の主張を下に、部分的核実験禁止条約は「地下核実験を条約によって認めることになる」として当条約に反対し、同時に「社会主義国の核兵器は侵略防止のためのもので容認すべき」という主張をした。(国会でもこの主張は行われた:1964年10月30日の参議院予算委員会 岩間正男)

 今回の件ではっきりしたのは、岩間正男が国会で演説した内容(「世界の四分の一の人口を持つ社会主義中国が核保有国になったことは、世界平和のために大きな力となっている。元来、社会主義国の核保有は帝国主義国のそれとは根本的にその性格を異にし、常に戦争に対する平和の力として大きく作用しているのであります。」)という従来の主張を全て否定している(葬り去った)事が明確になったことです。
 北朝鮮の立場を擁護すれば、1964年当時の中国や日本共産党と同じような思考に立っているだけである。あの当時、中国はアメリカ及びソ連による核の驚異に怯えており、核実験の成功を国を上げて喜び、日本共産党もその立場を支持したのである。
 アメリカによって「悪の枢軸」と名指しされた北朝鮮が、核開発によりその「驚異」から脱出し、アメリカと対等の関係を樹立したいと馬鹿げてはいるが、その思いは中国も同じ道を歩んできたし、共産党もそれを支持していた歴史的事実の重みがある。


北朝鮮の核実験と日本共産党の立場を具体的に検証してみたい。

 日本共産党は、中国の核実験の成功を1964年国会で礼讃した。「社会主義国の核保有は帝国主義国のそれとは根本的にその性格を異にし、常に戦争に対する平和の力として大きく作用している」と祝福した。この立場性には一定の理があり、我々もこれを支持した。
 共産党はこの立場性をいつどのような説明で克服したのかよくわからない。キーワードは「帝国主義」とは何か、「社会主義の正義」とは何か、「核は人類と共存」できるのかなどの理論的整理を行わなければならない。
 私は共産党との関係では相当空白期間があり、共産党のこれらの論理が、整理され党内での理解が進み、国民にも理解してもらう努力がなされてきたのか把握できていない。
 しかし3.11の震災以降、私は共産党の動きを見つめてきたが、原子力政策においては核の有効利用が共産党の政策であり、5月1日のメーデ会場で、志位委員長が始めて「原発ゼロ」を宣言したことにより、これ以降、「核と人類は共存できない」という従来社会党系のスローガンが共産党の赤旗にも載るようになったと理解している。以下幾つかのキーワードの検証を行いたい。

1.帝国主義国の核は戦争のための核という位置づけをやめたのか否か

 まず共産党は「アメリカ帝国主義」という言葉を封印したのか否かの検証からはじめる事が必要です。
 これについては2004年新綱領制定時の質問に対する回答があります。以下長くなりますが以下引用します。
 日本共産党 2004年11月11日(木)「しんぶん赤旗」アメリカは「帝国主義」なの?
〈問い〉 帝国主義についての見方の新たな発展についての質問(昨日付)との関
    連ですが、アメリカはやはり「帝国主義」という規定なのですか?(埼
    玉・一読者)

〈答え〉 改定した日本共産党綱領は、帝国主義という言葉を“その国の政策と行
    動に侵略性が体系的に現れているとき”に使うことに改めました。
     この見地からみても、現在アメリカがとっている世界政策はまぎれもな
    く帝国主義です
     アメリカはソ連解体後も侵略と戦争の政策を捨てませんでした。改定綱
    領が「アメリカは、『世界の警察官』と自認することによって、アメリカ
    中心の国際秩序と世界支配をめざすその野望を正当化しようとしている
    が、それは、独占資本主義に特有の帝国主義的侵略性を、ソ連の解体によ
    ってアメリカが世界の唯一の超大国となった状況のもとで、むきだしに現
    わしたものにほかならない」と記述したのは、そのためです。

     いま、アメリカは「悪の枢軸」と呼んだイランや北朝鮮だけでなく、将
    来、軍事的に自分のライバル(競争者)になる可能性をもつすべての国を
    先制攻撃の対象とする(そのなかには、中国まで公然とふくめている)ま
    でに覇権主義を肥大化させています。この危険性から目をそらすわけには
    ゆきません。

     同時に私たちはアメリカの将来を固定的に見てはいません。改定綱領
    で、対日関係を、「アメリカの対日支配は…帝国主義的な性格のものであ
    る」としたのは、アメリカが独占資本主義の体制のままでも対日支配を終
    結させることは実現可能だということです。安保条約の廃棄後、日米間に
    対等・平等の友好関係が確立されるならば、帝国主義的な要素の入り込ま
    ない日米関係が成立しうる展望はあるのです。綱領第2章の日本の現状規
    定に「アメリカ帝国主義」という用語を使わなかったのはそういう見地か
    らです。(喜)

 しかし、BS「フジ」の討論の中では、アメリカに対して志位氏は帝国主義という言葉は一切使っていません。アメリカの核を帝国主義の核という概念で全く捉えず、北朝鮮の核のみが平和への驚異という立場で話しています。
 2004年の段階では、いま、「アメリカは『悪の枢軸』と呼んだイランや北朝鮮だけでなく、将来、軍事的に自分のライバル(競争者)になる可能性をもつすべての国を先制攻撃の対象とする(そのなかには、中国まで公然とふくめている)までに覇権主義を肥大化させています。この危険性から目をそらすわけにはゆきません。」と述べています。
 この立場は現在北朝鮮の主張とほぼ一致しています。だから核開発を行っていると北朝鮮は訴えています。(北朝鮮の主張ついては北朝鮮の核実験に対する「志位声明」を批判する。」を参照)

2.「いかなる国の核実験に反対」というスローガンに対してはどう評価しているのか

 もともとはこの概念に反対した理由は、帝国主義の核と、社会主義の核の持つ軍事上の位置づけが違い、帝国主義の核は戦争の為、社会主義の核は平和の為、これを同一次元で捉えてはいけないという主張でした。
 現在ではアメリカの核は戦争のための核という位置づけを既に放棄してしまったようにみえます。なぜなら、北朝鮮の核実験に際してアメリカがどのような態度をとったのかを説明し、評価をしているからです。
 志位氏はBS「フジ」で、自らの共産党の政策を述べ、アメリカも同じ立場をとっていると説明し、共産党の政策の正しさを、アメリカの政策から証明しています。(注1)この手法は共産党の専売特許であり、自民党がこう言っているから共産党の政策は正しいという手法がよく出てきます。アメリカの主張と同じだから共産党の主張が正しいという説明の仕方は始めて見た気がします。

注1:アメリカの主張と日本共産党は同じ(志位委員長BS「フジ」での発言)
   私は、核実験のあとのアメリカの動きは注目すべきだと思っているのです。
  ケリー国務長官が「国連安保理や6カ国協議において引き続きパートナー諸国と
  緊密に協力していく」と表明した(6日)それからカービー国務省報道官が
  「西側は6カ国競技に立ち戻る意欲を持っている」「われわれは適切な場は6カ
  国協議だと確信している」とのべた(同日)アメリカ側がかなりストレートに6
  カ国協議を押し出してきました。
   と語っている。
   
 いつの間に、日本共産党は西側陣営になったのか理解に苦しむ。中国が社会主義を目指している国と評価するのであれば、せめて中国はこう言っているぐらいの発言があっても良いと思われるが・・・・

3.部分的核実験禁止条約については、現在どのような評価を行っているのか

 部分的核実験禁止条約については、国会で批准が行われた際、日本共産党は反対の立場を取りましたが、内部的には賛成の者もおり、志賀義雄という当時共産党の議員としてはスターであった人物と参議院議員の鈴木市蔵の他、神山茂夫や中野重治らが除名され「日本共産党(日本のこえ)」を結成する事態に発展した。
 この条約はアメリカ、ソ連、イギリスが中心となり推し進めたが、当時核兵器開発中であった中国は反対していました。現在では「核兵器の不拡散に関する条約」(NPT)と名前は変わったが、核軍縮を目的に、アメリカ合衆国、ロシア、イギリス、フランス、中華人民共和国の5か国以外の核兵器の保有を禁止する条約となっています。
 しかしその根本精神は、大国の核の独占であり、現実的には既にインドやパキスタン、さらにはイスラエル等も核兵器を保持していると思われます。
 開発中にはイランもおり、なぜ北朝鮮だけが核を持つことが禁止されるのか、その合理的説明がなされていません。

核兵器廃絶の運動は「いかなる国の核実験反対」の立場を貫くべきです。

 なぜ日本共産党はアメリカの核開発を不問にし、北朝鮮の核だけ「平和の驚異」と位置づけるのか論理的説明がありません、なにか、アメリカの軍門に下ったようにすら見えます。北朝鮮の核兵器のみが「平和の驚異」なのかその説明が求められています。
 所有する国によって核兵器の危険性を論じる立場は、昔の資本主義の核は戦争の手段、社会主義の核は平和の手段という考え方の変形(遺物)のように思われます。
 どの国が持っても核兵器は平和の敵であるし、人類の敵です。核兵器廃絶運動は、昔社会党系の原水禁が唱えたように「いかなる国の核実験に反対する」が正しい運動方針であると思います。核兵器廃絶運動は大国の思惑から独立(自立)して戦われるべきです。

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