日産カルロス・ゴーン会長逮捕と共産党の春闘路線の敗北



平成30(2018)年11月21日


しんぶん赤旗は、他紙と違う論調(「人員4万人削減のW張本人W」)でゴーン氏を批判している。

 11月20日 各紙朝刊は一斉に日産ゴ−ン会長逮捕を一面トップで扱った。しんぶん赤旗も1面トップで取り上げている。しかしその記事は赤旗らしく、ゴ−ン会長が行ってきたリストラと派遣切りの「コスト・カッタ−」として紹介し「人員4万人削減の”張本人″」という見出しを掲げている。徴用工裁判での韓国最高裁判決を巡って共産党が独自見解を出したことを評価したが、この記事も共産党ならではの記事である。
 以下赤旗の引用を行う。
 日産自動車のカルロスゴ−ン容疑者は、経営責任を労働者や下請け企業に転嫁し、大量の人員削減と工場閉鎖、下請け企業の切り捨てを進め「コスト・カッタ−」と呼ばれた。
 1999年には最高執行責任者として「日産リバイバルプラン」を打ち出し、日本企業で過去最大規模の2万1千人にのぼる人員削減と工場閉鎖を強行。2009年にも「リ−マ・ンショック」を口実に、2万人のもの人員削減や下請け企業の切り捨てを進めました。と書いています。
 このことは事実だと思うし重要だが、逮捕理由とはまったく関係がない。でも、赤旗はカルロス・ゴ−ン氏は労働者階級の敵だと断罪した。これこそがしんぶん赤旗の値打ちである。
 しかし赤旗はこの間の春闘の際などで、こうした大企業の横暴を暴露してきたかといえば、そうではなく「間違った賃金闘争論」(大企業の内部留保金の数%の労働者絵の還元)を労働者の中に注入して労働者の怒りを抑えて来た。ゴ−ン逮捕で初めて資本主義の本質について語りだした。春闘闘争の際にこれらの主張を前面に押し出し労働者の怒りを組織するべきであった。

春闘方針で赤旗は大企業とどう向き合ったのか?


 20○○年○中総で志位委員長は大企業での労働組合の戦い方について以下のように語った。(これについては私自身このHPで批判記事を書いたが、いつ書いたか記憶が定かでなく見つからなかった。探すのが面倒なので、同じ主張を週刊ダイヤモンドのインタビュで志位委員長が述べているので、以下に引用したい。)注1  
 志位氏は、この間共産党は政策を見直し、多くの国民に支持される政策へと発展させてきたと基本的な政策立案の視点を語り、「例えば大企業で働く党員が党勢拡大を行おうとしても社員には愛社精神があり、『大企業を敵だとみている共産党は支持できない』と言われ党勢拡大がうまくいかないという声がありました。その対応としてこのように説得するべきだ」と以下のように話されました。
 志位委員長は、「我々共産党は大企業を敵だとは思っていない。企業活動を妨害するようなことは考えてはいない。我々の目指しているのは『ル−ルある資本主義』であり大企業批判をしているのではない。例えば大企業の内部留保金は莫大なものがあり、その数%を労働者の賃金に回せば、景気は回復し、企業にとっても我々労働者にとっても生活改善ができる。これが共産党の主張だといえば、社員は共産党を支持してくれる。こうした戦い方の柔軟性が必要だ。これが我々の政策変更の到達点だ。」という趣旨の発言を行った。
 それ以降共産党の春闘方針をいつもチェックしているが、大企業の労働者から労働者の生活を守る戦いや、働く者の権利獲得というような話は全く出ず。「大企業の内部留保の数%を我々の賃金改善に回してくれ」という戦いになってしまっている。

注1:2016年7月14日『週刊ダイヤモンド』特別レポート  週刊ダイヤモンド編集部
   「決して大企業を敵視していない」共産党・志位委員長に聞く
     日本共産党中央委員会幹部会委員長・衆議院議員 志位和夫氏インタビュー
 
――過去の日本共産党には、「大企業を敵視してきた」という印象があります。ところが、近年では「大企業とは共存する」という方針を掲げています。共存するとはどういう意味ですか。
 まず私たちは、決して大企業を敵視していませんし、ましてや潰れてもよいと考えているのではありません。そうではない。
?端的に言えば、こうなります。「今日の経済社会の中で大企業が果たしている役割は非常に大きい。ですから、大企業には持っている力に見合うだけの社会的な責任を果たしてほしい」ということなのです。
――しかし、大企業は、いきなり日本共産党から「利益剰余金を吐き出せ」と迫られたら、「経営を知らんくせに何を言うか」と反発するのでは。
 いやいや。私たちは、「大企業にたまっている内部留保(利益剰余金)を皆に配れ」と言っているのではありません。たまっているのであれば、そのうちの数パーセントでも社会のために還元すればよいのではないか、ということです。
 例えば、今日のような「ルールなき資本主義」の中で、大企業がもうけることばかりを重視すれば、競争が激しくなり、最終的には皆が疲弊してしまいます。その結果、経済全体が立ち行かなくなっては、元も子もありません。
 そうではなく、もう少し働く人の立場になって考える必要があると思うのです。どういうことかと言うと、現在はため込んでいるだけで“死んだお金”と化している内部留保を活用することで、“生きたお金”に変えるのです。
 仮に、大企業が内部留保の数パーセントを出すような仕組みがあれば、正規雇用者を増やせますし、長時間労働も減らせます。“過労死”ということが問題になっているような国は世界でも日本だけですよ。長い目で見れば、循環するような仕組みがあれば、企業のためにもなります。また、社会の発展にも貢献します。そうした民主的なルール作りは、政治の役割になります。
――では、日本でそのようなルール作りが必要になった背景には、どのような問題があったと考えていますか。
 世界的な流れで言えば、やはり1980年代に進んだ「新自由主義的な考え方」に原因があると思います。それまでは、政府が公共事業などで需要を創出して経済を活性化させるという「ケインズ主義」でしたが、例えば英国の「サッチャリズム」や、米国の「レーガノミクス」で大幅な規制緩和を加速させたことによって、先進国内でも格差や貧困の問題が顕在化するようになりました。

ゴ−ン逮捕で初めて大企業の持っている本質について共産党は語り始めている。

 新聞等の報道によるとゴ−ン氏の報酬は、10億円と言われていたが実際は20億円だったという。大量の人員削減と下請け企業の切り捨てを行ってきた人物が、労働者の生活改善に協力してくれるという共産党の春闘方針が如何に大企業を美化してきたのか、その罪は大きいと思う。
 日産の社員は、自分たちの仲間をリストラし、下請け企業までつぶしてきた張本人が10億でもすごい報酬なのに倍の20億ももらっていたことを知った際の怒りの強さがわかっていない。
 春闘等での共産党の役割は、資本主義社会の本質を暴き、労働者の要求の先頭に立つことであり、「大企業に『内部留保金』の数%を労働者の賃金改定に使えば、景気は良くなる」というような経営コンサルとみたいな春闘方針は破たんしてる。
 ゴ−ン逮捕で初めて『資本主義の本質』を突いた新聞報道を行ってもすでに手遅れである。注2

注2:11月21日 赤旗1面には、ゴ−ン容疑者報酬過少記載でもゴ−ン氏の報酬は、従業員給与の140倍と
    いう見出しを掲げ批判している。この記事は、実際の役員報酬は従業員の270倍を超えると糾弾して
    います。
    しかし赤旗6面では、GMトップは25億円という記事を載せています。この記事は自動車大手の
   経営者の報酬のランキングを載せ、9社のトップの報酬を載せ、日産は7.4億円で7位であるグラフ
   を載せています。
    この記事の中で「自動車大手でも10億円は珍しくありません」という記事を載せています。
 
 この記事を見ると、赤旗は資本主義の傲慢さを批判して言うのか、それともゴ−ン氏を擁護しているのか分かりません。(よく見るとこの記事は【ニュ−ヨ−ク〓時事】と書いています。)安易に時事の記事を載せるため、批判しているのか擁護しているのか分かりません

共産党の春闘方針の間違いは今日(11月21日付)の赤旗記事でも明らかである。

 赤旗15面は、「高額報酬 批判相次ぐ」という記事を比較的大きく載せています。しかしよく見ると、「ルノ−の労働者」です。
 記事を拾っていくと「フランス自動車大手ルノ−の社員にも動揺が広がっています。」「労働組合からは、ゴ−ン容疑者の高額報酬に対する批判が相次ぎました。」「『連帯統一民主』ルノ−支部は声明で『ゴ−ン氏は会社や従業員のためでなく自分だけのために働いている』と非難。」「共産党系の『労働総同盟』ルノ−支部も『ゴ−ン氏は節操のない高額報酬を得たり、公金を横領したりしても満足することはない』と批判し、『経営組織を抜本改革する必要がある』と指摘。」しました。」と書いています。(これも【パリ〓時事】の配信記事ですが)
パリではこれだけの動きがあるのに、日産の労働組合はどうなっているのか、「全労連」等の声明はないのか、きわめて疑問が残る。
 大企業と対決しないという共産党の姿勢(誤り)がここでも浮かび上がっている。