橋下氏の「慰安婦制度は必要だった」の発言の真意はどこにあるのか!


                                                                                                          平成25(2013)年5月19日

本日付(5/18)赤旗と毎日新聞を読み比べてみると、橋下発言の報道について赤旗の視点より毎日新聞に深みがある。

 以下両新聞の記事の紹介を行い、赤旗が如何に劣化しているかを証明したい。

<赤旗は、「アメリカが反発」を基本的視点にしている>

  1. 一面下段に、「橋下氏、常軌を逸し無礼」「慰安婦」発言 米政府が批判という記事を載せ、米政府の発言を載せている。その主要な内容は「慰安婦問題」は重大な人権侵害であり、日本が近隣諸国と協力して、この「(慰安婦)」問題など過去から生じる問題を解決し、ともに前進できるような関係を深めるよう希望する」と述べたとしています。
  2. 「潮流」でもこの問題を捉え、「米ニューヨーク州議会下院で非難する決議が採択されました。「人道に対する罪」には時効がないのです。」と締めくくっています。
  3. 2面にも「慰安婦」制度、人道への罪 NY下院が非難決議採択という見出しを掲げた記事があります。
  4. 同じ2面に日本維新の会の「山田議員が暴言擁護」という記事をニュース@NEWSに載せています。(時事通信の配信記事?)
  5. 3面には「慰安婦」橋下暴言に怒りと日曜版19日号の宣伝のタイトルに使っています。
  6. 8面【党生活】で「橋下市長 辞職すべきだ」党参議院候補が街頭で訴えたという記事を載せています。
  7. 13面【近畿】で「比例は5議席必ず」いっせい宣伝・対話という記事で、「橋下暴言許されぬ」訴えに激励と辰巳候補の活動を伝えています。
  8. 15面【社会】に「維新」西村議員も暴言、「韓国人は慰安婦」と侮辱という記事を載せています。

<毎日は、参議院選挙をめぐる情勢との関連や何が問題かを多方面から追及している>

  1. 1面に「慰安婦容認」「大誤報」「橋下市長」「会見以外取材拒否」と橋下氏の狼狽ぶりを報道。内容は、「大誤報をやられた」とメディアの報道を批判し、「僕は慰安婦を容認したことは一度もない。メディアは一文だけ聞いて取る。(誤解されたのであれば)日本人の読解力不足だ」と語り、正式な記者会見以外の取材を今後拒否する意向を示した。と報道し、その後に、この間の橋下氏の発言を列挙し、誤報でないこと実証している。
  2. 5面に「動2013」という特集を組み、「維新・みんな共闘崩壊」「不穏当発言・西村氏除名へ」と見出しを掲げ、西村発言を紹介している。その内容は、「日本には韓国人の売春婦がうようよいる。反撃に転じた方がよい。私は今日、大阪に帰るが、『おまえ、韓国人、慰安婦やろ』と言ってやったらいい。皆さん戦いましょう」と発言した。(17日党代議士会)   従軍慰安婦をめぐる発言をきっかけにした混乱に拍車が掛かっている。とこの発言をめぐる政治情勢を伝えている。
      さらに囲い込み記事で、「07年日米首脳会談当時の発言認める」「首相 元慰安婦に申し訳ない」という記事を載せている。この記事は面白い。民主党の辻元議員が提出した質問主意書に答えた形で、安倍首相が07年のブッシュ大統領との首脳会談で慰安婦問題について、安倍首相は、「元慰安婦の方々に、首相として心から同情し、申し訳ないという気持ちでいっぱいだ」と発言していたことを明らかにした。
     この辻元氏の質問主意書はヒットである。安倍首相は、国内とアメリカでは使い分けを行っている。これを首脳会談のブッシュの発言「首相から釈明があった」からヒントを得て、この回答を引き出した辻元の政治的感性は優れている。(橋下は自民党のこの二枚舌が分からず、失敗した)
     この5面では、西村発言を受け「官房長官『非常に残念 論評に値しない』という見出しを掲げ、菅氏が「参院選が終わった上じゃないと、じゃないですか(参院選の結果)議席配分がどうなるか分からないし……」
     「改憲に積極姿勢を示す維新、みんなの党との連携を問われた菅氏はこう答え『改憲勢力で三分の二結集』との見直しをにおわせた。」
     また安倍首相が月刊誌「Voice」の取材を同日に受けたが、参院選挙後の改憲の枠組みについて「公明党と政権与党を維持していく。維新、みんなとは憲法があるが、一緒に組むことはない」と発言したことを伝えている。
     さらに、「みんな・渡辺氏「(維新は)」因果応報だ」という見出しを掲げ、「因果応報の観点で言うと、お口でのし上がった人はお口で失敗するということが言える」と17日午後の記者会見での発言を伝えている、
  3. 25面では、「慰安婦必要だった」発言という見出しで、橋下氏の発言記録を載せたうえで「橋下市長に直言!」というページを設け、参院議員 亀井亜紀子さん「オウンゴールの愚」、フリーライター 井上理津子さん「差別、階層社会を肯定」、大阪府立大学教授(哲学)森岡正博さん「男もバカにしている」という記事を載せています。それぞれの考えかたから教えられます。
  4. 27面では、「橋下氏発言 抗議の「鎖」」、「女性団体など 大阪市役所で」という見出しを掲げ大阪市役所前で抗議する女性たちの写真を載せている。 「被害者の声を聞かず、一方的に持論を展開している。どれほど女性の人権を踏みにじったか考え、反省して謝罪してほしい」と法清子共同代表(元慰安婦の支援団体)の主張を載せている。)

<この二つの新聞記事の違いは、被害者の立場から批判するか、アメリカの立場から説明するか>

  この二つに新聞の記事の傾向を見れば、赤旗の記事には深みがなく、アメリカ頼りになっている点が最大の弱点である。赤旗はこの間、自らの主張の正しさを「保守党の議員も褒めている」というフレーズでよく書くが、従軍慰安婦の問題も、アメリカ議会で批判されているから、これはダメだというロジックで迫っている。(保守だとかアメリカだとか既存の権威に頼りすぎているところが赤旗の最大の弱点である。なぜアメリカでなく韓国の主張を前面に出さないのか?……これが現在の共産党の姿である)
 今回の場合では、毎日が「日本軍『慰安婦』問題・関西ネットワーク」の活動を載せているのに、赤旗には被害者からの論理でもって橋下発言の誤りを立証する熱意が示されていない

 話は変わるが、私が、「共産党は中国を美化している」と書いたとき、「その評価は間違っている共産党はアメリカより、オバマ派だ」という指摘を受けたことあるが、今回の事例などを見れば、「オバマ派」だという主張にも一理ある。

<毎日新聞が赤旗より面白いのは>

  毎日新聞で一番おもしろかったのは、辻本議員が質問主意書で暴いた、安倍首相の二枚舌発言であろう。安倍氏は国内では勇ましく、侵略戦争の定義は定まっていないとか、村山談話や河野談話を見直すと息巻きながら、07年の訪米の際にこっそりと、ブッシュにこの問題で頭を下げていた。
  本来ならばこの発言は永遠に葬られるところであったが、橋下氏の暴言で世界から批判される中、安倍首相は小賢しく、私は07年の訪米の際に、この問題についてはすでに誤っていることを明らかにして「一抜け」を図っている。(橋下が安倍氏を助け。改憲勢力として躍り出ようとして失敗した)
  赤旗の記事は、基本的にはアメリカ頼りと、参議院選挙の候補者の押し出しの中でこの問題を語っている。それに対して毎日新聞は様々な角度からこの問題に迫っている。先に挙げた辻元清美の質問主意書も面白いが、この橋下の自滅で、参議院選挙をめぐる情勢が変わりつつあることを指摘している。政治的に敏感な、渡辺喜美氏はいち早く、維新との共同戦線の見直しを語っている。安倍首相も96条先行型の参議院選挙方針の見直しを示唆している。(維新ではなく公明党との連携に比重を移している)橋下市長の暴言が、アメリカ議会の対応だけでなく、日本の政界にどのような影響を与えているかを報道している。
  さらに「橋下市長に直言!」では亀井亜紀子等三人にこの問題を語らせ様々な角度からこの問題を捉えている。
 
 ついでに赤旗記事で気になる点がもう一点ある。「潮流」に、「人道に対する罪」には時効がないのです。」という主張であるが、これは韓国の大統領の発言「日本は歴史を直視せよ。加害者と被害者の立場は、1000年経っても変わらない」という発言を肯定するものであるが、私はこの朴大統領の発言は間違っていると捉えている。(これは解放同盟が主張した「差別する者と差別される者」という思想と瓜二つである。差別の固定化を狙うものである。

<赤旗は西村真悟議員の発言に手心を加えている>

  最後に私が不思議に思うのは、本物の右翼である西村真悟議員の発言に手心を赤旗は加えているところである。
  西村発言を赤旗は、「「西村真悟議員は17日同党の代議士会で、橋下徹共同代表による日本軍の「慰安婦」発言に関して。「売春婦はまだウヨウヨいる。大阪の繁華街で韓国人に『慰安婦』といったらいい」などと民族・女性蔑視の暴言を吐きました。と書いている。
 毎日新聞は、「西村氏は17日の党代表者会議で「日本には韓国人の売春婦がうようよいる。反撃に転じた方がよい。私は今日大阪に帰るが、『おまえ、韓国人、慰安婦やろ』と言ってやったらいい。皆さん戦いましょう」と発言したと伝えている。
  この二つの記事には微妙な差があるが、明らかに毎日の記事の方が西村発言のとんでもなさを伝えている。今日の朝のテレビで、西村発言についてはあまりにもひどいので、報道する側も控えている面があるとの発言があったが、赤旗は正確に伝えることが、報道による二次被害を拡大すると思ったのかしれないが、手加減を加えている。(手加減を加えること正しいのかが疑問に思う)
 
どこが違うのか、
  • ★それはまず主語である。
       赤旗は、「売春婦はウヨウヨいる。」と抽象的に表現した。
       毎日は、「日本には韓国人の売春婦がうようよいる」と書いている。この表現は決定的に違う。まず
            場所(日本)を特定し、その売春婦は韓国人だと特定している。まさに事実でもない妄想を国会
            議員が語っている。これは民族差別でもあり、相手国へのお詫びのため議員辞職が避けられ
            ない重大発言である。
  • ★次に誰に言うかでであるが
        赤旗は、「大阪の繁華街で韓国人に『慰安婦』と言ったらよい
        毎日は、「大阪に帰るが『おまえ、韓国人、慰安婦やろ』と言ってやったらいい。」と発言したと伝えてい
                    る。
            赤旗は、大阪の繁華街でと場所を特定しているが、毎日新聞は、大阪に帰るが、『おまえ、韓国人、
        慰安婦やろ』と言ってやったらいい。」大阪に居住する韓国人全員がの慰安婦(売春婦)であるような言
        い方をしている。
  • ★この発言(慰安婦やろ)を誰が言うのか
        赤旗は。西村氏本人が言うように読める。
        毎日は、「皆さん戦いましょう。」と彼は扇動している。

 この発言の趣旨どちらが正確か、私は現状では把握していないが、赤旗が手心を加えているのではと思っている。(注1)なぜ赤旗は手心加えたのか、それはこの発言を正確に伝えたら、日本におられる韓国人の方が、相当いやな思いをされる。そのことを敢えて避けたのか、それとの敵に塩を送るであって、橋下氏と戦うそぶりをしながら、手心を加えたのか、はたまた赤旗の記者が未熟で、西村氏の発言を正確に受け止めることができなかったのか、疑問が残る。(意識的に手心を加えたとすれば恐ろしいし、発言の趣旨を把握する力もないのも恐ろしい)

注1:朝日デジタルでは「日本維新の会では、西村真悟衆院議員が17日の党代議士会で「韓国人の売春婦はま
      だうようよいる。大阪で『お前、韓国人慰安婦だ』と言ってやったらいい」と発言。」と書いていることから見て、
      毎日の報道が正しいと思われる。

<今回の橋下発言の真の狙いは?>

 橋下氏は来たる参議院選挙は憲法96条の改定が最大の争点になり、公明党がこれに消極的なことを逆にチャンスと捉え、自民党と維新で議席の3分の2を勝ち取り、憲法改正の立役者になろうと思ったと思われる。
 安倍首相が、「侵略戦争という定義は定まっていないとか、村山談話や河野談話を見直す」と言いながら、もう一つ煮え切れない状況を見て、これを自分で突破して、時代の寵児なることを夢見てこの発言を行ったと思われる。だれもが突破できない壁(敗戦国という位置づけ)を自分の言動で突破し、参議院選挙で勝利して、憲法96条の改正を行い、国政を自分の掌握下に握ることを夢見たのが、今回の発言であった。
 彼は、自分は人権問題のプロだという意識の下(さらには、風俗問題は弁護士活動の時に多くこなしているという自負あるいは自分の個人的経験も重なり)、誰もが打開できないこの問題の決着を自分が行えば、天下は自分の物だとの思いの中で、あえて打って出たと思われる。(この間の彼の躍進は人権攻撃を跳ね返したことがテコになっているという思いもあった。)
 しかし、彼は、本当の右翼の怖さ、あるいは安倍首相が勢いは良いがヘタレだという本質をつかんでいなかった。またアメリカがこの問題には真剣で、中国や韓国と連帯しても、日本とは絶対に妥協しないという政治情勢にあることも認識していなかった。
 橋下氏は、安倍首相が07年に訪米の際、ブッシュ首相に慰安婦問題で、「元慰安婦の方々に、首相として心から同情し、申し訳ないという気持ちでいっぱいだ」と発言していることをおそらく知らなかったと思われる。この発言がある限り、「「従軍慰安婦」はなかった」などの発言を今更行えば安倍首相は、国際的にはだれも相手にされない。(安倍氏はこの発言を隠していたが、辻本清美氏の質問主意書に渡りに船だと乗っかり、橋下氏との共倒れを防ぐため、07年のブッシュに誓約した発言内容を発表した。これが私の一貫した主張だという事で、橋下氏を完全に切り捨てた。(逃げ切った)・・ヘタレなのかずる賢いのか?)
橋下氏の暴言が生み出したものは、右翼が如何に国民の意識と離れているかをあぶりだした。西村議員や石原共同代表、さらには杉並区長であった山田宏議員まで本性を現した。さらには、アメリカをはじめ世界中に日本の右翼的潮流の台に警戒感を抱かせた。さらには参院選挙で3分の2を獲得し、憲法96条の改正というスケジュールまで狂い始めた。
 逆説的に言えば、96条改定派の本質があぶり出された。(橋下「様様」である。)ここで反撃を開始しなければならない。しかし赤旗の論調を見ている限り。きわめてお粗末で、寂しい限りである。

<今共産党に求められているのは>

 敵は橋下ではない。落とすべき本丸は、安倍首相である。さらには自民党の政調会長である高市早苗の発言である。橋下はあだ花であって、これら本丸が窮地に陥っているとき、あえて暴言を吐き、これらの自民党の窮地を救い、自分が憲法改正の旗振り役で活躍し、改正憲法下で天下を取ることを狙ったものである
 しかし、その目論見は見事に失敗し、安倍首相から切り捨てられようとしているのが現状である。共産党は敵を見誤り、橋下憎しでいくと、いくら橋下が倒れても、改憲勢力はその力を温存するであろう。敵は明らかに自民党であり、安倍氏や高市早苗のような右翼勢力を日本の政界から追放していくことである。
 憲法96条をめぐる問題は、面白い局面を生み出している。右翼がとんでもない発言で自滅し、憲法改悪反対派の中からも96条先行改正反対の有力な動きがある。(ゴーマニズム宣言の小林よしのり氏や慶応大学の憲法学者小林節氏など)さらには、公明党も96条先行改正には、批判的立場を取っている。
 この有利な条件を最大限利用し、96条先行改悪に反対すべきである。18日付けの赤旗の一面トップ記事は、「改憲反対の多数派形成へ」であるが、共産党はセクトに走らず、この一点ですべての国民の結集をはかるために奮闘しなければならない。保守との共同を良く主張するが、96条問題では、右翼的な人でも公明党でもすべての人が団結して戦う必要がある。一党一派の政党の利害ではない。国民全体の利益のため戦うべきである。