志位委員長が北朝鮮の「ロケット」発射中止を求める声明を発表!(3/22)
    この「声明」の本当の意図は何か(保守との共同の行き着く先)

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 この「声明」の政治的意味は何であるか考えてみたい。この「声明」が国際政治に影響を与えるとは思われない。(いくら共産党が政治オンチでもそれぐらいは分かっているはずだ。)

 なぜ共産党はこの「声明」を出したのか、この「声明」の狙いと問題点を、過去にあった同種の事件との対応の違いから狙いを浮かび上がらせ、同時にこの声明が引き起こす「負の問題点」について言及したい。

 まず、「声明」の内容に詳しく触れることは文字数等の関係でできませんが、北朝鮮は、2009年4月にも、同じように世界の多くの反対の世論を押し切って「ロケット」を打ち上げています。そこで、その際日本共産党の取った態度と今回の対の違いを見る中で、今回の声明の狙いを明らかにしたいと思います。

<前回共産党のとった態度(声明等)>

 2009年3月27日赤旗は志位委員長の記者会見を伝え「北朝鮮が「ロケット」発射の動きを見せ、日本政府が「破壊命令」を出そうとしていることを記者に問われ、日朝平城宣言(2002年9月)の立場に立ち、外交的努力で解決することの重要性を強調し、「軍事で身構えるという日本政府の対応は、問題の外交的解決を台無しにするものだ。」「わが党は、政府の対応にはくみしない。」と発言しています。

 また、2009年4月8日の赤旗は「制裁強化衆院で決議」「北朝鮮ロケット共産党は反対」という記事を載せています。 その理由は、@「ミサイル発射」と断定している。A国連決議に「明確に違反」と断定いている。B「独自の制裁を強めるべき」に合意できない。というものでした。
 さらに2009年4月12日赤旗では「北朝鮮ロケット発射問題、共産党はこう考えます」のなかで
「Q 世界の対応は?」
「A 6カ国協議再開に努力、日本だけが軍事対応で突出」と見出しを掲げ「米国、中国、韓国、ロシアは、いずれも北朝鮮のロケット発射に対して批判や懸念を表明しましたが、今後の方策としては六カ国協議を通じた外交解決の道をとることで共通しています。経済制裁の強化を決めたのは日本だけです。と解説しています。

<前回と今回の対応の違い>

 前回共産党は衆議院での「北朝鮮によるミサイル発射に抗議する決議」に反対しています。その理由は上記3点であり、その主張は正当なものですが、今回の「声明」はこの立場を全て投げ捨て、北朝鮮が「人工衛星の打ち上げ」を予告し、「衛星の打ち上げは主権国家の自主権に属する問題」と主張しているにも関わらず、こうした合理化論(北朝鮮の主張)は通用しないと主張し、「衛星」を「ロケット」と決め付け、発射中止を求めています。

 一般紙を見たとき、各紙の見出しは、「衛星」あるいは「ロケット」と揺れ動いていますが、例えば、3月27日(火)の毎日朝刊1面トップの見出しは「米中「衛星」阻止で一致(対北朝鮮)となっています。

 また、朝日新聞は、朝鮮中央通信の記事を3月18日、23日に載せ、「「衛星打ち上げは長距離ミサイル発射に含まれない」ことを米朝協議で明確にしてきた」という北朝鮮の主張を載せています。

 共産党は、前回(2009年)の衆議院決議に反対しながら、今回はその主張を全て引っ込め決議案に賛成しています。さらに「声明」まで出し、北朝鮮を追い詰めています。共産党は、なぜ今回は国会決議(3月23日参議院本会議)に賛成し、独自に「声明」を出すに至った経過を説明すべきです。

また赤旗が一紙で間に合う新聞を目指すなら、北朝鮮側の主張を紹介せず、アメリカ主導の主張を全世界の一致した主張のように報道するのは、報道姿勢として失格です。

<この声明の発表方法の異常さについて>

 共産党は上記「声明」を国会内で記者会見すると共に、韓国で開かれる「核安全サミット」で、北のロケット発射阻止の行動を行うように、「声明」を渡しながら藤村修官房長官に申し入れを行っています。(赤旗には大きな写真が載っています。3/22)

 この「声明」の渡し方は、尖閣列島の際に仙石官房長官に渡したのと同じやり方で、共産党の売込みを政府側に行っている姿でしかありません。

  共産党が真にこの問題を外交的努力によって解決を願うのなら、アメリカ中心の核安全サミットの役割を期待するのではなく、むしろ逆にアメリカの世界戦略に反対する立場から問題提起を行うことが重要です。

  また北朝鮮に共産党の立場を伝えたいのであれば、藤村修官房長官に渡すのではなく、友好関係にある(?)朝鮮総連に出向きその趣旨を伝えるべきです。前回主張した「日朝平城宣言(2002年9月)の立場に立ち、外交的 努力で解決する」立場であれば、それは可能であったのではないでしょうか。

<共産党は主張をどう変えたのか>

  決定的な違いは、北に対する対応ではなく、政府の取った処置に対する対応の違いです。「北朝鮮に「ロケット」発射計画の中止を求める」という「重大声明」を一面トップに記載した赤旗(3/22)は、二面で「PAC3の配備検討」(注1)と政府の動きを伝えています。しかし、この記事は客観的に伝えているだけで政府の狙いや、危険性について全くふれていません。それだけではなく、この記事の最後に「防衛省は、2009年4月のロケット発射の際、日本海と太平洋にイージス艦3隻を配備し、首都圏と東京にPAC3を計5基配備しました」で締めくくっています。(注2)
 つまり、今回の防衛省の動きは、前回も行われており、前歴踏襲で別に問題がありまませんという記事を書いています。(赤旗の記事が一般紙と変らないのなら、赤旗をとる必要がなくなります。)

注1:パトリオット(PAC3)は、アメリカ陸軍広域防空用の地対空ミサイルシステム。ミサイル防衛では終末
   航程に対応し20〜35kmの範囲を防御する。

注2:この原稿の基本は、3月24日に書いたものですが、3月28日の赤旗の「解説欄」で「発射計画を中止させる
     外交努力こそ」という記事の中で初めて政府の対応に対する記事がでました。その中で「2回目となる「ミサイ
     ル防衛」網の実践配備に乗り出したことは、軍事的対応に他なりません」と書いていますが客観報道に留め、
     この政府の対応に対する批判を沖縄の新聞2紙の論調を引用して逃げるという姑息な対応を行っています。
     しかもこの記事は記者の署名記事であり、共産党中央の責任を不明確にしています。

   

<なぜ共産党の対応は変わったのか>

 この共産党の主張の変化は、四中総で確認された「保守との共同」の流れの中で現在の政治状況を打破していくという共産党の誤った方針にあります。

  この間の共産党の一連の流れを見ていると、民主連合政府の実現を労働者階級や大衆と共に戦いで実現するのでは無く、政府に対して「共産党の政策は民主党や自民党と変わらず、いつでも一緒にやっていける政党ですよという売込みを行い、議会の多数は彼らにゆだねながら、その一員に我々も入れてください。」という主張になってしまっています。

  共産党の「保守との共同路線」が、共産党の政策を変えることなく、保守層も巻き込むなら意義はありますが、共産党の従来の立場を投げ捨て保守との共同が進んでも、世の中は全く変りません。むしろ革新勢力の総崩れで、保守層の絶対的支配が強まります。

 議員の性というものかわかりませんが、議員は必ず大臣病にかかります。共産党にはそれは無縁だと思っていましたが、現在の共産党を見ていたら、議員数が少なくても連合を組めば大臣が生まれる。そのような志向の下に右へ右へと位置を変えているのではと疑いたくなります。

<この方針転換の真の狙いは>

 この共産党の動きに、私が最初に気がついたのが尖閣列島問題に対する共産党の政策発表のときでした。(注3)3.11の震災に伴う原発の崩壊に際しても、共産党は原発反対を掲げず、「安全優先の原子力政策」を掲げ多くの国民の期待を裏切りました。この間隙を突いたのが橋下氏です。いまや彼は共産党よりも過激に原発反対を唱えています。

注3:私は約30年間の空白があり、その間の出来事は系統的に把握できていません。(尖閣列島の記事を見てビ
     ックリしました。それ以後赤旗をウオッチしています。)

 この「保守勢力との共同」の共産党の方針転換の最終完結を目指すのが、「今回の声明です」。北朝鮮のロケットが日本上空を通ることに対する国民の不安感を捉え、ここがチャンスとばかり「北のロケット」反対と誰もが批判できないスローガンを掲げながら、この「声明」で、共産党がアメリカや日本政府に流したメッセージは、「我が党が政権の一角に加わっても日米安保体制に反対しません」という事です。(安心だから我々も政府に参加させてください。)

 今日(3/24)読売テレビで、右翼的な評論家が、「「北朝鮮の行動」を自衛隊はお祭り騒ぎで喜んでいる。」という発言を行いました。日本政府は当面の軍事的緊張は尖閣列島をめぐる中国との摩擦です。このため、自衛隊は、「PAC3」の配置を狙っていたのですが、地元の反発と中国側からの抗議が怖く、実行できなかったが、今回は北朝鮮のロケットに対応するためにという大儀名文ができたと。(やりたかったことが簡単にできる。北朝鮮「様様」だと)

 田中防衛相の発言でも、「沖縄本島南西の先島諸島」へ「PAC3」の配備と、海上自衛隊のイージス艦の展開を検討していると表明しています(赤旗3/22)。日本にとっては防衛上千載一遇のチャンスなのです。(実践的演習と中国に対する示威行動ができます。)

 このことを知りながら(前回は批判していた)、共産党は、見てみぬ振りをして、共産党は日米安保には反対しない、尖閣列島を守るための軍事的示威行為も容認すると政府側に「恭順の意志」を表明したのが、今回の「声明」です。最後の一線を乗り越えた「声明」であり、共産党の存在価値が疑われる「声明」です。

 これが四中総で言うところの、保守との共同であり、民主勢力と連帯して政権を勝ち取るのではなく、保守に擦り寄って入れてもらう戦術です。しかし保守はしたたかであり、共産党が擦り寄る限りは頭をなぜますが、牙を向けたときは切り捨てます。擦り寄って政権を奪うことは、夢の夢であり、堕落でしかありません。(注4)

注4:インターネットを見ているとネットウヨクがよく活躍しています。今回の共産党の声明はまだ時間があまり経過
      しておらず、注目されていませんが、尖閣列島の共産党の政策は、ネットでは高い評価を得ています。            しかし、その論調は「共産党もたまにはまともなことを言うな」であり、同時に「だからといって支持はしない」
    というものです。

 

つぎにこの声明の負の部分を見ていきます。

  先にも述べましたが、共産党の赤旗は韓国で開催された核サミットに対して、アメリカの世界戦略や核政策の狙い等になんら批判を加えず報道しています。一般紙では、野田首相の影の薄さを批判していますが、赤旗は「発射自制が国際的要請」野田首相 演説で北に要求と見出しを掲げ(3/28)、評価しています。赤旗が言いたいのは。共産党が藤村官房長官に申し入れ(指南)したことが実現している共産党の成果だと喜んでいるのだと思われます。(注5)

注5:赤旗3月22日付けは、「共産党の核サミットで」との発言を受け、藤村氏が「核サミットでの発信をという提起
     は、貴重なご提案として、総理に伝えます」と答えたと書かれています。)・・こんなことはとっくの昔から考えて
     いるのに、共産党に花を持たせています。相手はしたたかです。

<多文化共生の視点が全く無い>

 次に、北朝鮮が「衛星」の打ち上げと表明しているにも関わらず、一方的にアメリカの主張である「ロケット」の発射と決め付け、アメリカの言う「ならず者国家」という北朝鮮の印象を無責任に広げることは、日本で生活されている在日の人々に対する「無責任な攻撃」(注6)を増長する恐れがあります。

注6:前回2009年の「ロケット」発射の際にも、朝鮮学校に通う子ども達に罵詈雑言を浴びせたり、通学路で頬を
     殴った事例、さらには朝鮮学校に「朝鮮人を殺す!」と電話してきた者もいた。

 共産党は、弱い者の見方であり、差別に反対する立場であり、外国人の教育権を守る立場だと理解しています。
 しかし、この間で言えば橋下・「維新の会」が大阪府では朝鮮初・中級学校に支給する予定であった7300万円の支給を交付しないことを決めています。また大阪市も2700万円の支給を決めていましたが、交付しないことにしています。(3/22読売)

 このように、北の「衛星」をめぐる世論を背景に、外国人の教育を受ける権利を否定する動きが出ています。
 そもそも、共産党は日本に在住する外国人と「共に生きる」という視点が極めて弱いです。赤旗で「多文化共生」を検索しましたが、引っかかったのは二つの記事しかありませんでした。
 一件目は、山下芳生議員の参院法務委員会の発言(2009年7月8日)では、「多文化共生を進めていくためには、地方自治体の取り組みの支援と同時に、外国人労働者の労働環境、外国人児童生徒の教育、日本語教育など外国人受け入れの環境を国が責任をもって充実させることが不可欠だ」と指摘しています。二件目は、告発 中国人女性の思いという記事です。この中では、「誰もが人間らしく働いて生活できる、多文化共生社会を実現したいー。この運動に参加したすべての人の願いです」とまとめています。

  しかし。この間の赤旗は、多文化共生に配慮していない、あるいは水を注す記事を載せています。20011年3月5日赤旗は、前原氏の外国人からの献金問題を取り上げ、「前原外相 外国人から献金 規正法に抵触、暴力団関係者からも」という見出しの記事を載せています。この記事の問題点は、外国人の献金と暴力団の献金を同一次元で捉えて批判したことです。

 この記事の書き方は明らかに朝鮮人に対する差別を助長します。この前原氏の献金は昔からの知り合いのおばさんが年間5万円を献金したという事例です。これを殊更大きな犯罪のように取り上げ、市田書記局長は議員辞職に値する事例だとまで言い切りました。

  北の「衛星(ロケット)」問題も同じです。アメリカの描く世界戦略で、北朝鮮が長距離弾道ミサイルを持つことが脅威であるからといって、止めさせるように脅しているに過ぎません。日本にとってはすでに「ノドン」の段階で射程距離に入っており、この長距離ミサイルは脅威でも何でもありません。そのアメリカの危機感を代弁し、北が「ならず者国家」のような宣伝をカバーする共産党の立場は、多文化共生を求めて努力されている地方自治体の動きや、外国人と共に生きる自主的な運動に対す妨害を行うものです。

<共産党はどこへ行こうとしているのか>

  共産党は、保守との共同を基本方針とし、自らの立ち位置がわからなくなっています。現在の共産党は、尖閣列島問題でも、北の「衛星」(ロケット)問題でも大多数の国民が、中国や北朝鮮の行為を批判している状況を見て、そのバスに乗り遅れないように、他の政党よりも過激な方針を出し全党相乗りバスの乗車券を手に入れようとしています。(注7)

注7:原発問題では、一斉地方選挙の後半戦の戦い方展望を語る中で、「共産党に取って有利な状況も生まれて
     います。それは国民の原発に対する意識の変化です。」と抽象的に書き、同日の赤旗では別の記事で、「原
     発反対が50%を超える勢いです。」と報道しながら、共産党は「原発反対」を唱えず。「安全を優先した原子
     力政策」で後半戦も戦いました。 

 共産党は少数意見でも、「正しいことは正しい」と主張するところに魅力があるのです。現在の共産党は、50%以上の人が反対する課題にだけ反対を掲げます。消費税では政府と戦いますが、尖閣列島や、北の「衛星」(ロケット)では政府側にたちます。主体性が全くありません。(例えば橋下・「維新の会」が策動する朝鮮学校に対する補助金の停止などは積極的に取り上げません。)

 しかし共産党の支持者は元々数%しか無く、しかもこの数%の人は、多文化共生社会に理解のある人たちです。この人たちに依拠しこの陣地を固めながらさらに大きな党を築くという方針を採らず、アメリカ帝国主義や日本独占資本主義という二つの敵を棚上げし、アメリカ帝国主義の世界戦略の枠の中で、北への圧力(軍事的挑発)側に組みし(注8)、支持を拡大するというやり方は邪道であり、現在の陣地さえも崩壊させてします愚考です。このことが判らない共産党の衰退は避けられないと思っています。

注8:北の自制を求める国会決議(3/23)に賛成し、政府「PAC3」の配備の根拠を与えたり、韓国で開催されて
     核サミットで、北への圧力を   政府側に進言した。(3/22赤旗)

PS:この原稿を書き上げ今日4月1日赤旗13面を見てビックリした。大阪池田市市議会が「北「ロケット」中止
     を」という決議を全会一致で決議という記事が掲載されている。しかも提案者は共産党だという。私は共産党
     はバスに乗り遅れるなと国会決議に賛成したと書いたが、共産党はアメリカの世界戦略の実行の運転手にな
     ろうとしている。共産党が今やらなければならない事は、北の「ロケット」を口実とした日本の軍事的動向に対
     する批判である。

◆ この記事を読まれた方は、是非よもやま話の「外交の基本(共産党が投げ捨てたもの)」を読んでください。