大津・中2自殺事件   第9弾

  2月5日付毎日新聞「自殺には「謎」が残る」・・・・これが正しい主張
     教職員組合は、「やはり学校が見殺し」という主張と戦うべき


                                                   平成25(2013)年2月9日

  「やはり学校が見殺し」という大見出しを掲げた毎新聞(2月1日付け)の27面)、その舌の根も乾かない4日後に、今度は「自殺には「謎」が残るという」記事(大きな声では言えないが牧太郎:注1)を載せている。(毎日新聞2月5日夕刊2面)この記事は面白い。以下引用する。

  まず芥川龍之介の遺書の話から始まる。芥川龍之介は大阪毎日新聞の先輩記者だったというころから始まり、龍之介の遺書の不可思議な面を語りながら、最後に着目したのは、

長文の「遺書」の冒頭に「僕等人間は一事件の為に容易に自殺などするものでない」というクダリがあった。さすがである大記者・芥川龍之介を結局、褒めることになるが・・・・人間が自らの死を選ぶ「動機」は一つではない!とスクープしている。

 自殺事件が起きると、昨今のメディアは「○○が原因!」と書きたがる。世間も「○○で死んだのね」と納得したい。でも「自殺の動機」を特定するのは簡単でない。本人だって分からない。

例の大阪・桜宮高校のバスケットボール部員の自殺も、果たして「体罰」だけが原因だったのか?

 己の高校時代を思い出してみると、(自殺まで思いつめたことはないけれど)出生の秘密を知り、親に対する嫌悪感、担当教諭の“不正”への怒り、一向に上がらない学業成績、それに受験、性的コンプレックス・・・・・悩みはたくさんあった。

 「体罰が原因で一人の生徒が自殺した。体罰が常態化した体育科の入試を中止せよ!」と革新市長が声を大にするが・・・・自殺には社会的背景に、個人の資質、個人の事情が入り混じる。自殺はいつも「謎」だ。(専門編集委員)と締めくくっている。

注1:牧 太郎(まき たろう、194410月10日-)は日本の新聞記者、ジャーナリストである。東京都日本橋区(現:
     央区)出身。男性。 毎日新聞に入社、記者として活動。社会部、政治部を経てサンデー毎日編集長に就任
      後は宇野宗佑首相の女性スキャンダルや、オウム真理教の問題を取り上げるなど活躍するも脳卒中を患
      い、半身麻痺、失語症を経験。療養後、編集委員として復帰。以降、毎日新聞をはじめ雑誌など連載を多数
      抱える。(Wikipedia)

 毎日新聞は、1日付の新聞でやりすぎたと思い、修正記事を載せたのか、あるいは先輩記者が苦言を呈しているのか、はたまた商業紙はいろんな立場からものを見ていく姿勢を表したのか分からないが、なぜ2月1日の記事でこの判断ができなかったのか、若い記者の能力が劣化しているのか分からない。

  毎日新聞は1月30日にも、西部邁氏の「「徳育」を実践せよ」でも、「「人間の自殺は」はいかにして生じるかは、一筋縄でくくれるような単純な問題ではない」という主張を紹介している。

  確かに多様な意見を紹介することは面白いが、肝心の新聞の主張が「やっぱり学校が見殺し」では、この人たちは何を学んでいるのだろうかと思う。

<越大津市長の暴走>

  新聞は橋下市長の暴走には気が付き始め、最近ちらほらと批判記事が出始めたが、大津市長の越直美氏の批判記事は見当たらない。しかし彼女は橋下氏と瓜二つであり、自らの権力欲で、「大津・中2自殺事件」を取り扱っているしたたかな人間である。どちらかといえば橋下市長の方が、桜宮高校の自殺事件を、越市長のやり方をまねて対応していると思われる。

 一般的に組織の長は、問題を指摘された場合、まず自らの組織の問題点をそれぞれの担当者から聞き、主張すべきは主張し、問題点は洗いなおす立場をとらなければならないが、越市長は自らの政治生命を最優先し、ここは組織を犠牲にしても(責任は他者に押し付け)、自らは正義の使者のように躍り出た。(橋下氏と同じやりかた。)

  しかし、越市長は市民の代表であるとともに、大津市に働く多くの公務員職員(教諭も含む)の長でもある。彼女はマスコミで流される無責任な意見に振り回され、市長の部下でもある学校現場の声をどれだけ聞いたのか疑問が残る。(注2)

  おそらく現場には様々な声があり、市長の独断で解決されていくことの対して相当の不満があると思われる。教師集団から見れば、「やっぱし学校が見殺し」という毎日新聞記事には悔しい思いをしているであろう。越市長は、この毎日新聞の記事を全く批判せず受け入れている。ここに組織の長としての人格を疑う。

注2:大津・中2自殺事件がマスコミで取り上げられ、過熱化するとネットではさらに過熱化し、こいつが犯人だとい
      うサイトがものすごいアクセス数を稼いでいた。その中にはデヴィ夫人や、片山さつき議員も参戦していた。
      私はこの現象を異常だと訴え、いじめの告発側がいつの間にかいじめを行っている現象だと批判した。そ
      の際、夜回り先生が出てきて、このインターネットの中傷記事をいじめだと厳しく批判した。

     余談ではあるが、その際私は夜回り先生をその点に限って評価したが、さざなみ通信は、そのことを持って
     私を攻撃した。しかし今回のいじめ、体罰事件を見ていると、単純に保守・革新の議論はできなくなっていると
     思われる。尾木ママは一般的に共産党系の教育評論家と言われていたが、今回は、大津事件では警察の導
     入に賛成し、桜宮事件では橋下が全面的に正しいと言っている。これに対して、夜回り先生はマスコミ、取り
     分けてインターネットの無責任さを批判し、また桜宮事件では、右翼の文筆家西部邁氏が、「体罰が自殺の原
     因」という単純化を批判している。 

        具体的な問題になると敵と味方が入れ混じる、逆に言えば革新側の理論的支柱が失われているのかもし
     れない。(教師の組合の主張の発信もきわめて弱い)

 橋下氏と越市長の共通点は、自らが最高責任者であるにも関わらず、教育委員会がおかしいと問題をすり替え、被害者側の代表のような顔をして、教育委員会を責めたてる。そして被害者が自殺に至った経過を具体的に検証せず、すべては「いじめや・体罰」に原因があったと騒ぎ立て、問題の本質的な解決より、自らの政治的力量の誇示のこれらに事件を利用している。

 越市長は、昨日(2月6日)東京に出かけ下村文部大臣に会い、いじめ相談の第三者機関の設置などを求めたと報道されている。その際自らが設置した第三者委員会の報告書を持参しアピールしている。なかなか強かな人だ。

  彼女の主張は根本的に間違っている。現在の学校現場の問題点をしっかり見つめ、解決することこそが重要であり、その作業を怠り、むしろ教育現場や、教育委員会に問題があるから、市長の権限の下に教育長を置くことを求め、自らの権限拡大を図ろうとしている。部下を信用しないで自らの権力の拡大だけを望む管理職は、管理職として最低である。

  現在学校現場で起こっている「いじめや体罰問題」を、市長が権限を握れば解決するというのはまさに幻想であって、おそらく事態は、より深刻になる。問題の解決は、学校現場で働く教職員の協力抜きには解決しない。この原則を理解しない、橋下氏や越氏の主張は、一種の政治ショーであり、自分たちの政治的野心で行動している。

<大津第三者委員会のおかしさ>

  大津第三者委員会は越大津市長の諮問機関であり、最初から結論は決まっていた。越市長は、「大津・中2自殺事件」が社会問題化した早い段階で、すでに和解の意向を示していた。往々にして、役所の諮問機関は、諮問された意志を尊重し、その意向に沿った結論をだす。(第三者機関ほど役所にとって都合の良いものはない。・・第三者の顔をして役所の意向を発表してくれるから。)

 大津市の第三者委員会も、御多分に洩れず、越市長の意向を受け入れ「Aの性格や家庭環境は自死の要因とは認められない。Aに加えられたいじめが自死につながる直接要因になったと考える。」という判断を示した。

 しかし、何を根拠にこのような判断をしたのか分からない。いじめの事実をいくら列挙しても、それが原因とは断定できない。そもそも警察でもない組織が、自殺原因が第三者のいじめだというような判断を行う権限や資格があるのか疑問である。

 警察は強制捜査に入りながらも、自殺原因をいじめであったとは特定していない。このような状況でなぜ第三者機関が客観的にそのことを立証し得たのか、大いに疑問が残る。  

 おそらく尾木ママの言動などを見ていると電波芸人に成り下がり、「自殺の原因がいじめだ」との判断を越市長が求めており、さらにはマスコミも国民の求めているとの判断の中で行われたと思われる。

<第三者委員会に「汚名」を着せる権限はあるのか>

  この彼らの判断がマスコミなどに受け入れられても、逆に多くの人(教職員や加害者とされている生徒及び級友など)が傷つくことがあることになぜ想像が至らないのか不思議でたまらない。

  しかもこの委員会の議論の対象は、設置要綱で学校内のいじめと自殺の関係に限定されており、その委員会が「Aの性格や家庭環境は自死の要因とは認められない。」と書いたことは不思議だ。(注3)

 問題は、さらに「いじめが」が要因の場合でも、両親の果たす役割、教師の果たす役割はどうなのか? 報告は、親がいじめに気付いていたかどうか、具体的に子どもと向き合っていたかどうかに触れず、教師は「いじめに気が付かなかった」、あるいは「いじめに意識的に気が付かなかった」ことを取り上げ、「見殺しにした」(毎日新聞)と主張するのはおかしいのではないか。

注3:第三者委員会は大津市から3名、被害者の遺族側から3名の推薦で構成される予定であった。しかし大津
      市側の委員が、第一回の会合が持たれる前に、被害者の父親が県児童相談所の相談に行っていた事実を
      つかみ、県児童相談所にその相談内容を聞きに行ったことを遺族側は問題として、この委員を忌避した。
      (その理由は、「県児童相談所で聞いた個人情報を他人に漏らしたというものもあったが、設置要綱で家庭の
      問題は触れないことになっていることに違反した)いうものであった。)よって5名で開催した。(後に補充され
      たのかは把握していない。)

        問題は、犯人側とされる学校側の代表が入っておらず、この委員会の構成では、加害者側が不利になる
      のは明白である。市長は教育委員会を当初から批判しており、最初から学校側の責任を認め和解する方針
      であった。(加害者側(教育委員会側)の権限を持った者が参加しておらず、被害者側とそれに同調する市長
      部局だけで構成されていた。最初から責任は教育委員会に押し付ける組織である。)

 次に百歩譲って自殺の原因が「いじめ」だったとして、「やっぱり学校が見殺し」とどう結びつくのかも説明されていない。「教師がいじめに気が付かない」あるいは、「教師が見て見ないふりをしていた」ということが事実であったとしても、それが即「見殺し」という表現は当たらない。

 全国津々浦々に多くの学校があり、多くの生徒の生活がある。この中にどれだけ多くのいじめが存在するかは、文部省の統計でも明らかである。すべてのいじめに対して学校が取組めているかといえば、ほとんど取組めていないのが実情であろう。

 大津市の事件で言えば、この学校が全国の学校に比べ、とんでもなく異常な行動を行っていたという実証抜きに、「やっぱり学校が見殺し」という指摘は当たらない。忙しくてそこまで手が回らないのが実情であれば、学校の責任というより教育行政全体の責任である。(この学校においてのみ特殊に発生した事例であることが実証されていない)

  問題は、ほとんどの学校でいじめに対して、有効な手立てが行なわれていないのなら、そこにどのような問題が、立ちふさがっているのかを解明することが重要なことであり、「学校が見殺し」などという悪罵を投げつけても何も前進しない。

  この異様な状況(「やっぱり学校が見殺し」)の報道を組織の長である越市長が批判せず、それに迎合して、自らの権力の拡大だけを求める態度は全く許せない。

  大津市の教職員組合は、「やっぱり学校が見殺し」を批判できない越市長に対して声を上げないと、自らの戦いの方向性(課題)を見失うことになる。

PS:私は上記文書をすでに7日に書き上げていた。

       ところが8日の赤旗日曜版を見て驚いた。「大津 中学生自殺」と見出しを掲げ、「いじめが自殺の直接的
  要因」という大きな見出しを掲げている。

    大津・中2自殺事件第8弾で、私は一般紙に比較して赤旗の論調が優れていると評価した。その唯一の根拠
   は、一般紙はすべて父親の発言「やっぱり学校が見殺し」を見出しに使っていた。また報告書の要旨に、
  朝日新聞にみられるように、「Aの性格や家庭環境は自死の要因とは認められない。Aに加えられたい
  じめが自死につながる直接要因になったと考える。」という部分を赤旗は敢えて外しているからと評価し
  た。
   (この時点で赤旗は、単に見逃したのか意識的に外したのか迷ったが、意識的に外したものとして赤旗を評価
   した。)
   赤旗日曜版を見てがっかりした。赤旗は意識的に外したのではなく、一般紙の論調を見て後追いを行ってい
   る。「いじめが直接的要因」という結論を求めているのは誰か、「被害者の父親、越市長、野次馬」だけ
  である。客観的に立証も行われずに犯人をつくりだし、多くの人に「汚名」を着せるこの主張は、今後の
  いじめや体罰問題の解決に何ら役立たない。

    いじめや体罰問題の解決は、現場の先生方の協力抜きにはできない。その現場の先生方に「見殺しした」と
   悪罵を投げかけ、今後どうせよというのか私にはまったく理解できない。

    今日6中総の志位委員長の発言を見ていたが、いじめや体罰の問題を取り上げていてが、一般論であり、
    橋下氏や越市長の危険な動きや、マスコミの無責任な論調と戦うなど具体策がない。今大事なことは「学校が
   見殺し」というような無責任な論調と戦い、いじめや体罰問題を現場の先生方と協力して解決していく姿勢が
    必要。(その情報発信ができないから常に橋下氏に負けるのである。)